ジャウム・コレット=セラによる「かわいそうなニーソン」三部作を語る 『ラン・オールナイト』ほか
あの『フライト・ゲーム』からわずか数ヶ月。ジャウム・コレット=セラ、三度目のリーアム・ニーソンとのタッグは、NYを舞台とした男たちの切なくも激しいハードボイルド作品。『ラン・オールナイト』、ご紹介します。
眠らない町ニューヨーク。かつて凄腕の殺し屋としてならしたジミーは、今ではすっかり老いぼれ、犯した罪の意識にさいなまれる日々をおくっていた。息子のマイクからも絶縁されていたジミーを心配するのは、彼のボスで親友でもあるショーンただひとりであった。だがショーンの息子のダニーが人を殺すところを偶然マイクが目撃してしまったため、マイクは組織から狙われることに。なんとか戦いを避けようとするジミーだったが、息子の命を守るために、ついに親友とことを構える決意をくだす。
かわいそうなアクションヒーローをやらせたら右に出る者はいない、と言われている(というかわたしが勝手にそう言ってる)リーアム・ニーソン。ジャウム・コレット=セラ作品ではどれも大概かわいそうなんですけど、今回は特に序盤の「かわいそう描写」が容赦ありません。
まず冒頭で泥酔してみんなから嘲笑されてるところから始まり、アパートでは暖房が壊れて寒さに震え、ストーブを買うためにプライドを捨ててサンタの衣装を着なければならないという… ああ! なんてかわいそうなんだリーアム・ニーソン!
さらにたった一人の息子からは「接触すらもちたくない」とケチョンケチョンに言われる始末。ゴラア! 何があったか知らんが親に向かってその態度はなんだあ!と坊主頭をふん捕まえてヘッドロックをかましたくなります。
親友のショーンもねえ、優しい言葉をかけてはいますが、ジミーのおかげで暗黒街で成り上がったんだから自分ばっかりいいとこに住んでないでちゃんとした住居準備してやれよ、と思いました。そもそもあんたの教育がなってないから息子がバカやらかしてみんな大変な目にあうことになったんじゃねえか… ハアハア。ついリーアム父さんに同情して息が荒くなりました。
ともかく息子を守るために老骨に鞭打ち、かつての仲間たちを敵に回すジミー。べろべろに飲んだくれてた割には火事場のバカ力なのか急に「96時間モード」に入って、次々とマフィアを返り討ちにしていきます。ただむずかしいのはこれが「守りながらの戦い」だということ。自分ひとりが生き残るのもけっこう大変なのに、その脇で息子も銃弾からかばわなくてはなりません。さらにマイクはことあるごとにジミーに逆らうし、その妻や娘たちまで命を狙われだして「ああ… もう少しミッションの難易度下げてあげてくださいよ…」と思わずにはいられません。
そのハードアクションの裏に流れているのが、ジミーとショーンの奇妙な友情。「お前の息子を殺す」と言いながら、おしゃれなレストランで昔語りなんかしちゃったりする。親友なんだから和解すればいいのに…とぬるま湯人間のわたしは思いますけど、お互い深く認めあった親友だからこそどうしても譲れない、とことんやりあわねばならないというのがハードボイルドの世界。ジャンルは違いますがファンタジーコミック『ベルセルク』のガッツとグリフィスを思い出します。
他にサム・メンデスが『子連れ狼』を脚色した『ロード・オブ・パーディション』や、アニメ『ガングレイヴ』なども連想したりもしました。戦う男たちの友情というのは切なく、熱く、そしてかなり面倒くさいものですね…
ついでなのでジャウム・コレット=セラによる他の二作も簡単に紹介します。前作『フライト・ゲーム』に関してはこちらの感想をごらんください。
一作目『アンノウン』(2011)はパリを訪れた科学者が事故にあい、意識を回復して妻に会いにいったら「あんたなんか知らん」と言われる話です。おまけに自分と同じ名前の男をさして「これが夫」とまで言われてしまう… やっぱりとってもかわいそうじゃないですか! それはともかくアクションもありますが、どちらかというと謎解きの方に重点が置かれた作品。そしてこれのみ原作付です。
三作品並べてみると、学者→航空保安官→犯罪者とどんどん社会的地位が低くなっていっております。もし4作目があるとしたら今度はホームレスに身をやつしているかもしれません。
ちなみにわたしが好きな順番は『フライト・ゲーム』>『ラン・オールナイト』>『アンノウン』です。『アンノウン』も面白いですけどやっぱり自分、幼児がらみの泣ける話に弱いのでこの順番となりました。
『ラン・オール・ナイト』は現在全国の映画館で公開中。そしていまはもう一本、リーアムさんの主演作がかかっております。ハードボイルドの雄、ローレンス・ブロック原作の『誘拐の掟』です。こちらは明日観てくる予定~
Comments
SGAさんこんばんわ♪
本作に合わせて自分はジャウム・コレット=セラ監督のリーアム主演作を続けざまに鑑賞したのですが、個人的にはこの作品が一番良かったですね。アクションも良かったですし、ストーリーもぎこちない父子ドラマやエド・ハリス演じるショーンとの確執も確かにハードボイルドで渋かったぁ^^
あと『一線超える時は一緒だ』と言ったカッコイイセリフ、ラストバトルの湖畔での静かなる戦いの雰囲気と、諸々総合的に見て高評価でした♪
『誘拐の掟』は地元では公開されませんが、リーアム主演作品はなんか自分にはあんまりハズレが無いので、そちらにも期待したいですね。
Posted by: メビウス | June 13, 2015 08:26 PM
>メビウスさん
最近本当にすっかり受け身ですいません…
わたしもこれの鑑賞にあわせて初めて『アンノウン』を観たりしました。自分は上にも書いたように『フライトゲーム』が一番ツボだったんですが、TLでは「これが一番」という人が多いですね。特に男と男の友情に萌える女子の皆さんには受けがいいようです(^_^;
『誘拐の掟』は先日観てきましたが、こちらよりやや重たい作品でした。ただアクションは少なめでしたが見ごたえ十分でしたので機会がありましたらぜひご覧ください
Posted by: SGA屋伍一 | June 15, 2015 09:42 PM