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June 25, 2015

探偵はBARを去る ローレンス・ブロック スコット・フランク 『誘拐の掟』

Photo今年上半期だけで、3本もの主演作品が公開されたリーアム・ニーソン。その最後を飾るのは、人気ハードボイルド小説を原作とした『誘拐の掟』であります。ご紹介します。

1991年。アルコールに溺れる刑事スカダーは、偶然殺人の現場に居合わせ、犯人たちと激しい銃撃戦になる。なんとか凶悪犯たちを全滅させ、事件を解決したかに思えたが…
1999年。アル中を克服しいまでは探偵となったスカダーは、禁酒協会の仲間から「兄の妻が誘拐されたのでその犯人をつきとめてほしい」という依頼を受ける。警察に頼むようにと言うスカダーだったが、依頼者には当局に頼めないある事情があった…

原作は米国で長い歴史と人気を誇る「マット・スカダー」シリーズの一編。80年代にジェフ・ブリッジス主演で『800万の死にざま』という作品が映画化されたこともあります。このシリーズの初期の特色は、主人公のスカダーがアル中でベロンベロンになりながら事件と取っ組み合うところにあります。ですが途中の作品からスカダーはなんとか禁酒に成功します。ちなみに『800万~』は脱アルコールする前の作品で、『誘拐の掟』原作である『獣たちの墓』(原題はA Walk Among the Tombstones)は脱アルコールした後の作品です。

そんな設定からもわかるように、スカダーさんは多少腕っ節が強くても、我々と同じナイーブな一面も持つ等身大の人間であります。この映画でもそれなりに格闘・銃撃シーンはありますが、『96時間』のように人間離れしたものではなく、地味で必死さの伝わるアクションとなっております。スカダーさんが本当に必要な時まで銃をクローゼットの奥にしまっているところにもそれが表れています。そんな風に暴力が主題のひとつでありながら、暴力の恐ろしさをじっくり描いているあたりはイーストウッドの作風とも通じるものがあります。

あと最近のリーアムさんの敵というとマフィアやCIA、テロ組織、動物などがありましたが、どれもその動機はそれなりに理解できるものでありました。金銭欲とか復讐・保身のため、あるいは食欲とかね。
しかし今回の敵はお金目的もありますが、主な動機は生きた人間を解体してもてあそびたいというところにあるので、常人からはとても理解できない人たち…というか、人でなしです。権力的にはどうということありませんが、その内面を想像すると底知れぬ恐ろしさを感じます。そんな人間の暗黒面を描いた作品であるがゆえに、これまでのリーアム・アクションと比べるとえぐくて重苦しい印象を受けました。

そうした凶悪犯とはやや異なるものの、スカダーもかつて酒に溺れて理性を失っていた時期がありました。その結果取り返しのつかない過ちを犯してしまい、苦悩を引きずりつづけています。また1999年という年は世紀末のピークであり、2000年問題の心配もあって、みな大なり小なり将来に不安を抱えていた時期であります。多くの人が精神的に参ったり狂ったりしてる社会にあって、それでも理性を保とうと戦い続けるスカダー。それを象徴的に表しているのがクライマックスに朗読される「禁酒協会12のステップ」です。

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激しいアクションシーンの中でこういったお説教くさい文章が読み上げられると一見場違いのようにも思えますが、スカダーの背景を考えるとひとつひとつがビシビシと胸に突き刺さるのです。

この映画、あるシーンでリーアム・ニーソン氏の顔が大アップでうつります。その祈るかのような表情が様々な感情を包含してて、なんともいえない深みを感じさせるのですね。世に多くの俳優さんがおられますけど、ここまで大写しにする意味がある顔を持つ方はそうはおられないと思います。言うまでもありませんが、本当にアクションだけではない、演技面でも遥かな深みを持たれるアクターであります。

そういった褒めちぎりと逆行するようですが、これまで彼が演じてきたキャラクターの「強さランキング」みたいなものを思いついてしまったので、オマケに発表します。

アスラン王>>>ゼウス神>96時間>クワイ=ガン・ジン>ダークマン>Aチーム>ラーズ・アル・グール>荒野はつらいよ>アンノウン>ラン・オールナイト>THE GREY>誘拐の掟>フライトゲーム>バッドコップ>>グッドコップ

51c10ztm26l__sy344_bo1204203200_キャラ名と作品名がちゃんぽんですいません。

『誘拐の掟』はまだ全国の映画館で公開中ですが、多くのところが今週末から来週末で終わりそう… ご興味おありの方は急いでいかれてください。
リーアムさんの次回作はマーティン・スコセッシが20年映画化を切望していたという遠藤周作の『沈黙』だそうです。アクションシーンはなさそうですが、こちらもまた大いに楽しみであります。


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Comments

伍一くん☆
リーアムはこうしてみると神さまからアル中まで色々なのねー
その中でこの渋い探偵役は結構好きでした。
今までアクションないと~~と思ってきたけど、やはりこれだけの演技ができる方だし、これからアクション無しで十分やっていけそうよね。
というか、そろそろアクションが大変そうに見えるから、上手く方向転換できてきてるんじゃないかしら。

Posted by: ノルウェーまだ~む | June 25, 2015 11:08 PM

>ノルウェーまだ~むさん

遅くなってすみません…
リーアムさん、ブレイクしたのは『シンドラーのリスト』からですよね。ごくまともなおじさんの役
『沈黙』では演技派としてのリーアムさんの本領がいかんなく発揮されそうです

>そろそろアクションが大変そうに見えるから

なぜか進んでますよね。アクション俳優の高齢化が… みなさん無理せず引き続きがんばってほしいものです(^_^;

Posted by: SGA屋伍一 | June 29, 2015 09:55 AM

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Tracked on June 25, 2015 11:08 PM

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