パラサイト・ラブ 岩明均 山崎貴 『寄生獣 完結編』
昨年暮れに観た第一部が、期待以上のものではなかったので消化試合のような気持ちで臨んだこの度の第二部。ところがこれが「ごめんなさい! ごめんなさい!」と泣いて土下座したくなるような素晴らしい出来でした。『寄生獣 完結編』、ご紹介します。
母親を寄生生物に殺されて復讐の鬼となった泉新一は、右手に宿る「ミギー」の力を借りながら、彼らを人知れず狩る日々を送っていた。だが市長広川と田宮涼子のもと、市役所は寄生生物の要塞と化しつつあり、新一は苛立ちをつのらせる。一方広川のグループも新一の「狩り」に対処するため、最強の寄生生物「後藤」を刺客として差し向ける。そんな中冷酷な怪物だったはずの田宮は、「わが子」の成長と共に自身が変わっていくのを感じていた…
第一部は原作への思い入れが枷になってしまい、あちこちひっかかりを感じて十二分には楽しめまかったのですが、完結編はその原作への愛があったからこそより感動できた気がします。そしてただ原作をなぞるだけでなく、ファンも納得できる心憎いアレンジがあり、「なぜいま『寄生獣』をやるのか」ということに関しても明確なアンサーを出している… 漫画作品の映像化として、ほぼ満点に近い仕上がりでした。
例えば原作では寄生生物の出所について「地球の意思が…」みたいなことをやんわりと暗示するのですが、劇場版では「人類全体の集合意識」が彼らを生み出したということになっています。それにより人間と寄生生物が近しいものとして感じられました。
そもそも、寄生生物は本能的に人間を殺すので「怪物」とされています。じゃあ人間は人間を殺さないのかといえばそうでないことは、作中の浦上や、昨今のニュースを見れば火を見るより明らかです。特に今回の映画版においては、寄生生物とは「人間を殺せる人間」のメタファーのように見えました。
そんな人間の残酷さを描く一方で、人には自分を犠牲にしても誰かを守ろうとする愛情があることも語られます。「誰かを殺したい」と思うのも人間なら、かわいそうな誰かにやさしく助けをさしのべるのも人間。人間つーのはそういう幅広で混沌とした生き物なんですよね… 美しい面と暗黒面のどちらかしか描かれてない映画が多い中で、両方の面を均等に表現しきったことにまず感嘆しました。
あと原作を何べんも何べんも読んだ身としては、よく知ったセリフが最高のタイミングでバーン!と出る度に感動でむせび泣いておりました。実は原作の最終回って昔読んだ時には「やや強引に終わらせた」という感が否めなかったんですよね。意識の中で語りかけるミギーの姿もなんかシュールで、涙を誘われるということはありませんでした。
でも今回リアルな映像となって実際に語りかけてくるミギーを観ていたら、鼻水が華厳の滝のようになって往生してしまいました。これがやっぱり映像の持つ力ってやつでしょうか。そして二十年前には唐突に感じられたエピローグが、見事に作品を通じての結論となっていることに改めて気づかされたのでした。
まだ誉めます(笑)。よく邦画の悪い点として「しゃべりすぎ・説明しすぎ」ということがあげられます。漫画版では新一君が「泣けなくなった理由」についてあからさまにほのめかしはするのですが、それが実際に文章で書かれることはありませんでした。それに倣って映画でもしっかりとその理由について黙っていたのは偉かったです。
あといい加減ネタバレですが(^_^;最後新一君が懸命にミギーに呼びかけるところで、ベタな脚本家だったら例の目玉をウニュッと出して「やあひさしぶり」と言わせちゃうと思うんですよね。しかしただ手を映し出すだけでこらえたところもよかった。この辺はエキセントリックな会話劇で知られる脚本・古沢良太氏が自分のカラーをぐっと抑えていい仕事をしていました。2001年の映画版『GO』と同様、原作・監督・脚本が最高の形で結ばれた好例と言えるでしょう。
というわけで山崎監督にとっても新境地であり、これからもこういう仕事を続けてほしいところなのですが、なぜか興行はここ4作で最もぱっとしない結果になりそうです。「映画秘宝に褒められると伸びない」とは監督の談ですが、やっぱり「泣けそうもない」映画は日本では商売的に不利なのか… わたしゃこれまでのどの山崎作品より泣きましたけどね! 泣きドラならぬ泣きパラ(サイト)ですよ! これは!(苦しい) シンデレラ、コナン、ドラゴンボールとかち合ってしまったのも不運でしたが…
山崎監督が引き続き首ちょんぱ映画を作れるように、『寄生獣 完結編』が少しでも地位を挽回できることを祈っています。現在全国の劇場で公開中です。
Comments
伍一くん☆そうそう!満点よね!!
私は映画1作目から、どっぷりファンになってしまって、前作もこの完結編も本当に良かった!と思っているの。
さすが思い入れがあるだけあって、伍一くんには珍しく真面目に語っているけれど、その通り!人間のメタファーとして現れる寄生獣は、今だからこそ映画にして正解だったように思うわ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | May 10, 2015 10:49 PM
>ノルウェーまだ~むさん
意見があってうれしい~♪
この映画、一部を除いてあんまり女子からのうけがよくないので…
最近のいたましい事件をいろいろ聞くと、「どっちが怪物なんだ」って思いますよね。でもあったかい人だっていっぱいいる、ということを(当たり前のことですけど)、あらためて教えてもらいました
Posted by: SGA屋伍一 | May 13, 2015 09:27 PM