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May 14, 2015

後悔する航海 シム・ソンボ 『海にかかる霧』

Umkkk1韓国映画の鬼才ポン・ジュノの新作!と聞いて色めきたったものの、よく観たらポン・ジュノは監督じゃなくて製作のみでございました。それでも評判がよいのと題材が興味深かったのでGWに観てきた韓国映画『海にかかる霧』、ご紹介いたします。

かつては羽振りのいいときもあったものの、すっかり実入りが少なくなってしまった漁船「チョンジン号」の船長チョルジュ。このまま不漁が続けば愛するチョンジン号も廃船になると聞いた彼は船を買い取るため、つてを頼って中国からの密航を手伝う仕事を引き受ける。見つかれば刑務所行きは免れないため、おびえる船員たち。それでも船長を信じて、彼らは密航者たちを乗せた船との合流海域へと向かう。

冒頭をのぞけば、あとはずっと船の中でお話が進んでいきます。『マスター・アンド・コマンダー』『パーフェクト・ストーム』『コン・ティキ』あと『蟹工船』などをみてるとわかるように、とかく狭苦しい船の中でむさくるしい男どもがひしめきあっていると、なにかと衝突やいがみあいがおきやすい。逃げ場もほとんどない環境でそうなってしまうと、これはもう地獄というほかありません。だから遠洋漁業の船長さんなんかはそういう状況を避けるためにみんなでAVを観るんだとか。なぜかそうすると船員たちの間で和気あいあいとしたムードが保たれるんだそうです。
話がそれましたが、まあ船の中というのはみんなが努力しないと秩序が保たれない、デリケートな空間だということです。いつ警察に捕まるかもわからない緊張感が漂っていたり、サークルクラッシャーのような娘っ子が現れたりしたらあっというまに修羅場と化してしまうことさえあります。『海にかかる霧』は、そんな人間たちの極限状況における執着心のぶつかり合いを描いたお話です。何に対する執着かといえば、単純に自分の命であったり、保身であったり、性欲であったり。
そんな中やはりひときわ強烈なのが、船長チョルジュの船への愛。妻からどれほどコケにされようとも感情を乱さなかった彼が、チョンジン号のためにまさしく鬼と化していきます。たしかにそれはひとでなしの行為かもしれませんが、苦楽を共にした船をどうしても守りたかった彼の心情を思うとどうにもホロホロと泣けてくるのでした。こないだどっかの国で真っ先に船を見捨てて逃げ出した船長もいたらしいですけどね…

そのチョルジュを演じるのはいま韓国でやさぐれた男を演じさせたら右に出る者はいないキム・ユンソク。『チェイサー』『ファイ 悪魔に育てられた少年』では最低ながらも心の底にわずかな情を残している男を、『哀しき獣』では人間離れした殺人鬼をそれぞれ好演しておられました。このたびのやさぐれっぷりも実に大したものでありました。韓国を代表する中年オヤジ俳優といえばもう一人ソン・ガンホさんがおられますが、二人を比べるとソンさんの方が人がいいというか、温かみを感じさせる役が多い気がします。

ちなみにこの映画の題材となった「テチャン号事件」、実際はこういう事件だったようで、映画とはいろいろ違っていたようです。そもそも船の名前からして違いますからね… 欧米で「実話をもとにした話」をやる場合、それなりに事実を再現しようとするのが定石ですけど、韓国の場合は大胆にフィクションを混ぜ込んでしまうことが多いですね。おおらかなお国柄です。
Yjimage3『海にかかる霧』は第一陣の劇場があと一週くらいで上映が終わるころです。わたしは今話題のゴジラの頭がくっついているTOHOシネマ新宿で『セッション』と共に観てまいりましたが、実に疲労困憊する組み合わせでございました。次の記事ではその『セッション』の感想を書きます。


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Comments

こんにちは。楽しく読ませていただきました。

ただ、『悪魔を見た』で殺人鬼を演じたのはキム・ユンソクではなく、チェ・ミンシクではないかと・・。

また、楽しみに読ませていただきます。

Posted by: kai | May 14, 2015 at 09:54 PM

>kaiさん

おひさしぶりです~ ご指摘ありがとうございます。修正いたしました! 最近は更新が滞りがちですが、またいつでものぞいてやってください(^_^;

Posted by: SGA屋伍一 | May 14, 2015 at 10:02 PM

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