プロフェッサー・ストレンジ モルテン・ティルドゥム 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
まだアカデミー関連作品の話をしてます… 地方は流れてくるのが遅いんです… 今回はナチスの暗号解読に挑んだ実在の数学者の物語『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』、ご紹介します。
第二次大戦が勃発してまもないころ、イギリスはドイツの暗号機「エニグマ」を入手することに成功。英国軍は数学者アラン・チューリングら数名の専門家をあつめ暗号解読に挑むが、チューリングの協調性のなさとエニグマの高性能さゆえに、プロジェクトは困難を極めた。苛立ちを募らせる上層部は、ついにチューリングの解任に踏み切ろうとするが…
「エニグマ」については『U-571』という映画で聞いたことがありました(主演はいまをときめくマシュー・マコノヒー)。米軍がドイツのUボートに潜入してエニグマを奪取しようとするストーリーで、史実とはいろいろ違うところがあるものの、まあ実際にも似たような作戦があって無事成功したわけです。
ところが手に入れたはいいものの、こいつをどう使えば暗号を意味の通った文章に変換できるのかがわからない。取説もなしにスマートフォンだけかっぱらってきたようなものでしょうか。あ、でもスマホって元々取説ついてなかったっけ… まあそれはともかく。
遊びでクロスワードを解くようなものならともかく、その情報解読には多くの英国民の生命がかかっているのでイギリス軍もあせるわけです。だのにチューリングはふんふん~と意味不明の機械をこしらえてそれこそ遊んでいるようにしか見えず、めっちゃ周りの空気をピリピリさせてるんです。観ているわたしたちまで気まずくなってきます。でもですね… お話が進むにつれそれは決して遊びではなく、彼のひたむきな愛ゆえの行動であることがわかってくるのです。
最近なにかと叩かれることが多い映画宣伝ですが、この作品の配給担当さんについては二つほめてあげたいです。
ひとつは副題の「エニグマと天才数学者の秘密」。「また余計にベタな文章つけたしおって… 「秘密」っても雰囲気的に似合いそうな言葉もってきただけで、大した秘密なんてねーんだろー!」と踏んでいたのですが、これが本当にびっくりするような秘密がありましてね… これに関してはばらしませんので実際に映画を観て確かめていただきたい。
もうひとつは洋画・邦画を問わずやたらと宣伝コピーには「愛」という言葉が使われるものですが、この映画はまぎれもなく愛の物語であるにも関わらず、あえてその言葉を外した点。「挑むのは、世界最強の暗号」だったかな。そんな風にクールでドライな内容と見せかけて、実はすごく切なくてやるせないお話だったのですよ… ある意味期待を裏切られたわけですが、裏切られて実に爽快でした。
アラン・チューリングを演じるのは今大人気のべネディクト・カンバーバッチ氏。彼が変人の天才を演じてるとなると、どうしても思い出してしまいますよね。ブレイクしたドラマの「シャーロック」を。
しかし同じ変人天才でも、チューリングとシャーロックには大きな隔たりがあります。シャーロックは架空のキャラで超人です。内面の葛藤に苦しむことはあっても鋼のような精神でそれを乗り越えていきます。
一方チューリングさんは懸命に平静を装ってはいますが、心の強度はわたしたちとさほど変わりません。社会的・肉体的な暴力にさらされる度に彼はどんどん消耗していきます。ワトソンのようなパートナーがずっと脇で支えてくれたらよかったのに…と思わずにはいられませんでした。
実は一人そんなパートナーになることを申し出てくれる人物が登場するんですが、これがどうにも難しい条件がひとつありまして… 「パートナーの大切さ」ということに関しては、同時期に公開されてたやはり実在の天才を扱った『博士と彼女のセオリー』でも語られておりました。
ちょっとネタバレしてしまうと、彼が作っていた馬鹿でかい色々回ってた機械、それこそが我々が使っているコンピューターの基礎となるものだったのでした。チューリングはその機械「クリストファー」に対しまるで人間に対するような愛情を注ぎます。クリストファーの性能を上げることが彼にとっては孤独を忘れられる唯一の道だったのですね。
最初PCが出はじめたころは、「これゲームと資料の保管以外何に使うんだろう」と思いましたが、いまは多くの人が寂しさを埋めるために使ってますよね。なよなよとクリストファーにすがるチューリングを見てそのことに不思議な符号を感じたのでした。
ご存知のようにこの作品、先のアカデミー賞で脚本賞を受賞。その際に脚本のグレアム・ムーア氏は劇中のセリフを少し変えて「どうかそのまま、変わったままで、他の人と違うままでいてください」とスピーチされました。
チューリングさんの個性は当時の英国社会に受け入れられませんでしたが、それと比べて現代の社会はどうでしょう。やっぱり人にせよ、映画にせよ、生態系にせよいろいろあるから素晴らしいのだと思います。そういう多種多様な個性を受容できる人間でありたいと思います。
…柄にもなくまじめなことを書いたので疲れました。『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』はまだ全国でポチポチと上映劇場が残っております。わがシネプラザサントムーンでもバッチさん人気ゆえか二週限定のはずが一週間延長されました。それもあと三日ほどですので、静岡東部で観そびれている方はお急ぎください。
Comments
「人類の最大の弱点は愛だ」というコピーを思いだしてしまった。あれもカンバさんが出てた映画ですが。この映画のコピーを「愛」で語るとどうなるんでしょう。
愛のために彼は挑戦し、愛のために彼は破れた。
とか? うわ、本当に使われそうだ。
Posted by: ふじき78 | May 26, 2015 09:20 PM
>ふじき78さん
あああ、そんなコピーありましたねえ。あれで20億ヒットくらいねらったらしいんですけど、実際は5億くらいだったとか
>愛のために彼は挑戦し、愛のために彼は破れた。
ああ、いいんじゃないですかねえ。愛ある限り戦いましょう(ポワトリン)
Posted by: SGA屋伍一 | May 28, 2015 10:38 PM
伍一くん☆
クリストファーで第9地区まで持ってくるとは…
なかなかに切ないお話でしたねー
ぐるぐる回る機械が、どういう仕組か良く判らないままだったけど、とにかく愛があればこそ頑張れた・・・・・彼の幸せについて考えたりします。
Posted by: ノルウェーまだ~む | May 31, 2015 11:09 PM
>ノルウェーまだ~むさん
先日『第9地区』監督の『チャッピー』を観ましたが、あれも切ない機械の話でした~
本当に、幸せってなんでしょうね… ポン酢醤油のある家でないことは確かです
Posted by: SGA屋伍一 | June 02, 2015 10:02 PM