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May 22, 2015

北斎動画 杉浦日向子・原恵一 『百日紅~ miss hokusai~』

Ssb1『クレヨンしんちゃん オトナ帝国』『河童のクゥと夏休み』『カラフル』など、いま最もわたしのツボにはまるアニメ映画を作ってれる才人、原恵一監督。その原氏の最新作は、知られざる葛飾北斎の娘にスポットをあてた杉浦日向子原作の江戸時代体感絵巻であります。『百日紅~ miss hokusai~』ご紹介します。

江戸時代も後期の文化文政のころ、世をにぎわしている葛飾北斎という浮世絵師がいた。多くの人は知らなかったが、北斎には助手を務めるお栄という娘がいた。その腕は父の北斎も一目置くほど。父と二人、ひたすら依頼された絵を描いて描いて描きまくるお栄。目の見えない妹のお猶や、北斎の弟子善次郎なども絡ませながら、物語はお栄が体験する江戸の日常と非日常を次々と映し出していく。

はっきりとした起承転結のあるお話ではなく、日記のように細かいエピソードが淡々とつづられていく形式です。お栄やお猶の五感を通して、観ているわたしたちにも江戸時代の空気や匂いが感じられるような、そんな映画。例えばそれは大橋を通る人々の喧騒だったり、火事の際にパッと舞ってくる火の粉であったり、お猶がおそるおそる触れる雪の感触であったり。
原監督はこれまでも『オトナ帝国』のレトロな町並みや『カラフル』の肉まん、『はじまりのみち』の濱田岳などで「映像を通じてモノの質感や手触りを観客に伝える」ことに心を砕いておられましたが、今回はその集大成という感じでした。
 
特に考えさせられたのはそれぞれの「想像力」ということでした。
まずお栄の妹のお猶は、生まれた時からものを見ることができません。彼女はもっぱら音と触った感覚でそこに何があるのかを感じ取ります。暗闇の中でお猶はモノの形をどのように思い描いているのか? わたしたちには見当もつきません。話がそれますけど、わたしがこの映画で特にじーんと来たのは、お猶がすぐそばにいるともわからず、父北斎を「困らせたくない」と語るシーン。年をとるとこういう素朴ないじらしさに涙腺をやられやすくなります。
一方ちゃんと目が見えるお栄も、この世に存在しない龍やあの世の情景を描く際には想像力を働かせなければなりません。彼女はそういう才能に長けていたようで、見た人が腰をぬかすほどに迫力のある架空の情景を描きます。ところがお栄にも苦手な分野があって、実在するのによく知らない男の肉体に関しては筆が鈍ったりする。みんなが知らないモノに関しては想像力が重要になってくるけれど、多くの人が知っているモノに関しては、やっぱり実際に体感してみることが大事…ってことなんでしょうか(^_^;

あとこの映画自体も、杉浦先生・原監督の想像力によってささえられています。江戸時代に関しては多くの資料が残されていますが、その時代に生きていた人はもういませんし、映像もありません。ですから文章や絵、今も残る史跡などを元に「こんな風だったんだろうなあ」と色々想像をめぐらされたことと思います。その細かい想像力でもって描き出された江戸の町並みや風景は、確かな存在感をもってわたしたちの前に迫ります。
ぼんやり思い描くことは誰にでもできますけど、この「どこまできめ細かに想像できるか?」という点が優れたクリエイターの条件なのかもしれません。
800pxlagerstroemiaindica5できれば絵を描く人に観てもらいたい『百日紅~ miss hokusai~』。現在全国の映画館で上映中ですが、それほど大ヒットしてるわけでもないようなので、ご興味おありの方は早めに行かれたほうがよろしいかと。
『しんちゃん』は幼児むけ、『河童のクゥ』は児童向け、『カラフル』はティーン向け… と徐々に対象年齢を上げてきた原監督。こちらはいい意味で「オトナ向け」な映画だったと思います。この線でいくなら次は「お年寄り向け」に挑戦されそうな気がします。期待してます。


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Comments

> と徐々に対象年齢を上げてきた原監督。こちらはいい意味で「オトナ向け」な映画だったと思います。

えー、悪い意味でのオトナ向けはあー?
成人向けで「映像を通じてモノの質感や手触りを観客に伝える」をやったら凄いのに。

Posted by: ふじき78 | May 24, 2015 at 11:43 PM

>ふじき78さん

悪い意味での大人向け浮世絵アニメというと
昔『浮世絵千一夜』って作品があったと聞きます。手塚治虫の『千一夜物語』にあやかったのかしら

Posted by: SGA屋伍一 | May 26, 2015 at 08:40 PM

SGAさんが1番好きな日本のアニメーターが原恵一だったんですね〜!
私はクレしん2作が大好きだったのですが、カッパのクゥとカラフルをまだ見ていないんですよね。
(そして『はじまりのみち』は合わなかった)
でも、これがあまりにも気に入ってしまったので、今後古いのも見ていこうと思います。

この作品が想像力についての物語だという見方、私も全く同じでした。
見ようとしても見えていない人たちが居るんですね。
1番好きなテーマでした。

Posted by: とらねこ | June 27, 2015 at 02:39 PM

>とらねこさん

うん、『河童のクウ』も『カラフル』もぜひ観てくだされ。どっちかというと『河童のクウ』の方が観てほしい

ちなみにわたしが初めて観た原作品はクレヨンしんちゃんの『爆発!温泉わくわく大決戦』でした。芸術とは程遠いそれはもうバカバカしい作品でしたがこれもけっこう好きです

『百日紅』は何度か観ていくうちに深みが増していく映画のような気がします。はやくDVDで再見したいなあ

Posted by: SGA屋伍一 | June 29, 2015 at 10:31 PM

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