ビフォア親離れ リチャード・リンクレイター 『6才のボクが、大人になるまで』
今年のアカデミー賞で『バードマン』と並んで「2強」と言われたこの作品、先日こちらでもようやく遅れてやってきたので張り切って観てきました。「ビフォア三部作」などで知られるリチャード・リンクレイターが新たに生み出した実験作『6才のボクが、大人になるまで』、ご紹介します。
メイソンJr.は年の近い姉と、母の3人でアメリカの地方に住んでいる6才の少年。貧しい生活から抜け出したい母は、ある時彼らを連れてヒューストンに移り住み、そこで大学に通うようになる。やがて母は新しい恋人を見つけ、メイソンJr.や姉も彼と暮らすようになるのだが… カメラはメイソンが「大人」になるまでの12年間の姿を追っていく。
この映画がすごいのはフィクションではありますが、本当に12年かけて少年の成長を撮り続けたということですね。「役者も年をとる」ということを逆手にとって年月の移り変わりを描いた作品には、日本でも『北の国から』『渡る世間に鬼ばかり』などがありますが、言ってみればこれらは「後付け」的な作り方であります。状況が許す限り続きを作れるならどんどん続きを作っちゃおう、という(それはそれでなかなか出来ないことだとは思いますが)。
対して、この『6才のボク~』は最初から12ヵ年計画で毎年毎年映像を撮っていき、最終的に一本の映画に収める意というやり方。10年一昔とはいいますが、映画撮影においてここまで遠大な計画はちょっと聞いたことがありません。スタッフ・キャストに不慮の事態でも生じたらたちまち企画は頓挫してしまったことでしょう。実際監督はメインキャストで親友でもあるイーサン・ホークに「撮影期間中に自分が死んだなら、自分の代わりに作品を仕上げるように」と申し渡していたそうです。いまさらですが、無事プロジェクトが完走したことに心からお祝いを申し上げたいですね。
さて、このようにコンセプトは実に他に類を見ないこの映画ですが、ストーリーはというと、実に普通のことしかおきません。事件らしい事件といえば、少年の二人目の父親が酒に酔って大暴れするくらいのものです。十代の多感な思春期を描いた作品といえば当然こっちは期待するじゃないですか。クラスメイトの女の子に心ときめいたりとか、不良少年の一団と血まみれの抗争を演じたりとか、ドラッグにはまって身を持ち崩したり、チンチンに毛が生えたりとかそういうことをです。
ところがお話は時折不穏なさざなみを立てることもあるものも、大事にはならずにさっと安全な方向へ戻っていきます。これは主人公のメイソンJr.の気性のせいもあるかと思います。児童のころはそれなりに快活なところもあるものの、年をとるにつれどんどんクールなすかした兄ちゃんになっていきます。決して嫌味ではなく、両親を大事に思ういい子でもあるんですけどね。リンクレイターもそういう子だったのか、主演のエラー・コルトレーンのムードに合わせたのか、なんとなくそういう流れになっちゃったのか、あえて日常を描き続けることに狙いがあったのか…
ともかく彼とその家族を通じて、私たちはここ十二年のアメリカの平凡な人々の生活を追体験していくことができます。
「日常」といえばオタクとしてはアメリカの子供たちを取り巻くサブカル描写が楽しかったですね。テレビに映ってるのが『ドラゴンボール』だったり、『ハリー・ポッター』の出版記念イベントで盛り上がってたり、「あの子は『ダークナイト』も『トロピック・サンダー』にも興味ないって言うんだ」というセリフなどなど。
しかしこれまたメイソン君が成長して写真にのめりこむにつれ、その手の話題はほとんど出てこなくなってきます。まあそれが「成長」ってもんですよね… だけどいい年こいてロボやアニメばなれできてないオッサンとしてはちょっとさびしかったぜ!
『~大人になるまで』という邦題ですが、果たして人はいつごろ大人になるもんですかね。これに関しては様々な意見があるかと思います。以前カラオケで誰かがそんな歌を歌っていたとき、その場にいたアラフォーの面々が「本当に… いつなるんでしょうね」と言い出した時にはさすがにやばいと思いました。
『6才のボクが、大人になるまで』は現在まだちょびちょびっと上映館が残っているようです。おっつけDVDも発売されるでしょう。
先日『スターウォーズ』の新予告編が発表されましたが、メイソンJr.にはぜひ少年の心を取り戻してまたお父さんと盛り上がってほしいものです。
ちなみにリンクレイター監督はメイソン君のその後の変化を追った続編も構想中とのこと。挑戦はまだまだ続くようです。
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Comments
伍一くん☆お久しぶり~~
挿絵が何となく投げやりなかんじがするのは、気のせい?(笑)
アラフォーでまだ大人になれてないと言える環境って、本当に幸せなことよね~☆
ちなみに私はGWに痴呆になりはじめた義母の介護に行って、過酷な1週間を送ってまいりました。
彼女は85歳で子供にかえっていっています。
Posted by: ノルウェーまだ~む | May 10, 2015 10:30 PM
>ノルウェーまだ~むさん
お久しぶりでやんす~ GWは一日だけ東京に行ってきてビアガーデンで飲んでたりしました~
そんなお気楽なわたしとは違って、まだ~むさんはまじめに親孝行お疲れ様でした。わたしもあと数年くらいしたら避けて通れない道でありますね…
いまのんびりできてる環境をしみじみありがたく思います。あ、映画の話なんにもしてない
Posted by: SGA屋伍一 | May 13, 2015 09:17 PM