木星のプリンセス ウォシャウスキー姉弟 『ジュピター』
『バードマン』『ワイルドスピード/スカイミッション』『セッション』と、批評家も一般の映画ファンも大絶賛の作品が続く中、先月公開なのにもうすっかり影が薄くなってしまった作品があります。それはあのウォシャウスキー「姉」弟の最新作『ジュピター』。あらすじからご紹介しましょう。
生まれる前に父と死に別れ、貧乏な母に育てられた少女ジュピターは、トイレ掃除をはじめとする過酷な労働の日々にうんざりしていた。ある日事情でまとまったお金が欲しくなったジュピターは、「卵子を提供すればそれなりのお金がもらえる」といういとこの言葉を信じ、指示された病院へ向かう。だが彼女が手術室のベッドに横たわった途端、医師たちは異様な宇宙人へと姿を変えた。実は彼女は地球の正当な所有権を持つ女王の生まれ変わりだったのだ。ピンチの彼女はイケメンの宇宙戦士に救われる。そして彼女をめぐってイケメンと宇宙の王族たちの間で熾烈な争奪戦が始まる…
と、ここまで読んだだけで頭がクラクラしてくるかと思います(^_^;
観ていて姉弟の出世作『マトリックス』とちょこちょこ共通点があることに気づきました。まず「世界には実は我々の知らない支配者がいて、人間たちをエネルギーとして消費し(ようとし)ている」という点。そして「主人公はただ一人その状況を打破できる救世主である」という点です。
違うのは、『マトリックス』が「オレが世界を救ってやるわー! おんどりゃー!」という男気溢れる作品だったのに対し、『ジュピター』は「誰かピンチのあたしを助けて~! おねが~い!」という乙女心キュンキュンな話だったというところですね。これは二作品の間にウォシャウスキー兄が姉になってしまったという深い事情が関わっているものと思われます。
『マトリックス』との共通点はもうひとつあります。『マトリックス』一作目は「生活に疲れた労働者が見た夢・願望の話」という解釈もできるのですが、これもトイレ掃除に疲れた女の子の夢の話と思えなくもありません。
脈絡もなくストーリーが進んでいったり、登場人物がどうなったかもうやむやのままで、プカプカ空を飛んでたり、「もう死ぬ!」と思ったけど意外と大丈夫だったり… 皆さんはそんな夢見たことありませんか?
ただ、夢の話というのはえんえんと聞かされてると嘉門達夫の『夢』という歌にもあるように「そりゃああんたは自分で見たからいいけど 聞きたくもない そんなわけのわからん話」と愚痴りたくもなるものです。
『マトリックス』や去年大好評だった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』だって一歩間違えたらそうなってたと思うのです。でもちょっとした工夫とか、テンポや盛り上げ具合で多くの人が楽しめる作品に仕上がってました。『ジュピター』にはそれが足りなかったのかもしれません。
もっともわたしは一風変わったSFのガジェットが出てくるだけでも嬉しくなってしまうので、それだけでもけっこう楽しめました。たとえば翼や装甲が本体に密着せずに、磁力か何かで結ばれてプカプカ浮いている飛行機など。コンバトラーVが合体寸前の状態でそのまま飛んでいるような状態と言えばわかってもらえるでしょうか(むずかしいか…!)。そんで状況に応じて本体にピタッとくっついたりします。こういうメカ描写はこれまでほとんど見たことがなかったように思います。あとジェットでも翼でもなくローラースケートみたいな靴で空中を縦横無尽にかけめぐる描写も見ごたえありました。
あと先のアカデミー主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインのへたれっちな演技や、作品での死亡率が90%を超えると言うショーン・ビーンの生死も見所と言えるでしょう。
『ジュピター』は本国・日本ともに評判があまりかんばしくないゆえ、上映もあと一週ほどで終わりかもしれません。気になる方は今のうちに。
コケ続きのウォシャウスキー姉弟に果たして次のチャンスはあるのか!? がんばれ! 俺は応援してるぞ!!
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