世にも奇妙なコマ撮りアニメ 「シュヴァンクマイエル映画祭2015」E・Fプログラム
そのあまりにも独創的で変態的な作風から、世界中にファンを持つチェコアニメの大御所、ヤン・シュバイクマイエル。前々からその短編作品をまとめて見たいな、と願っていましたが、このほど渋谷のイメージフォーラムで「シュヴァンクマイエル映画祭2015」が開催されたので張り切って観て参りました。わたしが観たのは全6プログラム中のEとFプログラム。順を追って感想を述べます。ちなみに以前行われた特集上映の長編中心のレビューはコチラ。
☆『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』(1964)
向かい合う奇術師と思しき二体の人形。彼らは競って互いに技を披露するが、芸の後の握手が次第にエスカレートしていき…
なんて舌をかみそうなタイトルだ。この二人?の名前はシュヴァンクマイエルと、彼がよくオマージュを捧げているエドガー・アラン・ポーから取られているのか。8割は子供が見ても楽しい内容かと思うのですが、最後のあたりで泣き出すかもしれません。
わけわからない度(以下WWN度)10点満点で5点。
☆『J.S.バッハーG線上の幻想』(1965)
バッハの名曲と共に映し出される町の壁や路地。ストーリーらしいものはなく、限りなくPVに近いような作品。でもそれなりに意味が込められているのか… WWN度9点。
☆『庭園』(1968)
久しぶりに再会した旧友に誘われるまま、その邸宅に向かう男。その家の周りには手をつないだ人々で出来た奇妙な生垣があった…
実写作品。一応主人公が異常を異常と感じてるあたりは、まだこちらに寄り添ってくれてるというか、吉田戦車的なわけわからなさ。一見感情のなさそうな「生垣」たちが賭け事に興じてる描写は、全体主義にも生じる腐敗を表しているのか(安直な解釈だなあ)。WWN度7点。
☆『家での静かな一週間』(1969)
ぽつんとはなれた一軒家を訪ねた男。彼が各部屋の鍵穴をのぞくと、奇妙な風景が広がっていて…
実写とアニメのコラボレート作品。シュヴァンクマイエルにありがちな、密室の中で意味不明な遊びに興じる人間を描いたお話でもあり。脈絡のない夢のような筋運びはつげ義春の『ねじ式』にも通じるような。WWN度8点。
☆『オトラントの城』(1973-1979)
…ってこの短編に6年もかかってんのか! とある学者のドキュメンタリー風の映像と、紙芝居のようなアニメで作られた作品。名作『オトラント城奇譚』はボヘミアで起きた実話だと主張する学者。彼の仮説と城の伝説が平行して語られていく。
「虚構が現実に入り込んでくる」これまたシュヴァンクマイエルが好んで用いるコンセプトのひとつ。Eプロの中ではこれが一番気に入りました。アニメも他と違って上品だったし(笑)。WWN度5点。
☆『ジャヴァウォッキー』(1971)
『不思議の国のアリス』をモチーフとしている…らしいのだが、とにかく素っ頓狂で意味不明な映像が続く14分。意味とか考えず、ひたすらヤンさんの遊び心に身をゆだねるのが正解かもしれません。WWN度10点。
ここまでがEプログラム。以下はFプログラムです。
☆『自然の歴史(組曲)』(1967)
原始的な生き物から始まり、爬虫類、哺乳類を経てやがて人類に至る生物の歴史。それなりに自然科学好きとしては見てるだけで楽しい一本。間に頻繁に入るお肉を咀嚼する口元の映像だけが意味不明。WWN度3点。
☆『部屋』(1968)
誘われるようにある家の部屋に入っていく一人の男。だがその部屋では卵を割ろうとしてもスープをすすろうとしてもことごとく思うようにいかない。「密室の中でいたぶられる・苦労する」というお話、このプログラムの中だけで3本ありました。こういう夢、わりとみんな見たことあるんじゃないでしょうか。キートンやチャップリンをめっちゃシュールにアレンジしたらこんな風になりそう。WWN度7点。
☆『対話の可能性』(1982)
クレイで出来た二人の人物。お互いを食い合ったり、ちぐはぐなものをぐちゃぐちゃに混ぜたり…
つきあってくださった方が聞いたところによると、後半はコミュニケーションがうまくいかない様子を表現してるんだとか。だから『対話の可能性』なんですかね。見終わるとわかりあえる可能性は限りなく低いように思えてなりません(笑) WWN度7点。
☆『地下室の怪』(1982)
実写作品。地下室へジャガイモを取りに行くいたいけな女の子。しかしそこに挙動不審なお年寄りがいたり、じゃがいももいう事をきかなかったり…
ホラーなようで笑えるようで、やっぱりちょっと不気味な一本。ヒロインの幼女ながらの美しさが印象深かったです。WWN度6点。
☆『陥し穴と振り子』(1983)
E・A・ポーの名作を映像化した実写作品。異端審問の拷問にあわされる一人の男。果たして彼の運命は…
この特集の中でもっとも見たかった一本。ストーリーを知っていても十分こわい。原作とは微妙に違うラストがまた怖いです。WWN度3点。
☆『男のゲーム』(1988)
部屋で酒を飲みながらサッカー中継に興じる男。だがそのサッカーはボールに関係なく互いに殺しあう殺人ゲームだった!? …と書くとホラーのようですが、サッカー選手は切り絵や粘土なので恐ろしくはありません。ただめちゃくちゃ残酷で悪趣味(笑) バックに流れるさわやかな音楽がまたわけわかりません。WWN度9点。
☆『闇・光・闇』(1989年)
ある部屋につどってくる目や手や鼻といった人体のパーツたち。試行錯誤をくりかえしながら次第に完成体に近づいていき… 手だけがフラフラしてるのは同じくチェコアニメ作家のトルンカの作品にもありましたね。また手の先っちょにめん玉だけがくっついている図は『寄生獣』そっくりで笑っちゃいました。能力が増えていけばそれだけ行動範囲も広がるはずなのに、どんどん不自由になっていく姿は実に皮肉でした。WWN度8点。
いやあ… やっぱりわけがわかりません(笑) あとで解説探そう… でも楽しい! そんな作品群でした。「シュヴァンクマイエル映画祭2015」は渋谷では13日まで開催。あ、もうあさってまでだわ… その後大阪、京都、神戸などをまわるようです。くわしくはこちらを。
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