ビター・グループ・ホーム デスティン・ダニエル・クレットン 『ショートターム』
アメリカ映画というと莫大な予算をかけて大スターが活躍するものがまず思い浮かびますが、低予算で地味ながら良質の作品を作ってるところもいろいろあります。本日はそんな日本での公開が珍しい「地味アメリカ映画」の一本『ショート・ターム』をご紹介します。
深刻な問題を抱えて家族から預けられた子供たちが過ごすグループホーム「ショート・ターム」。突然半裸で駆け出す子もいれば、刃物を与えると自らを傷つけてしまう子もいる。それでもケアマネージャーのグレイスは恋人のメイソンと共になんとか彼らの面倒を見続けていた。そんな明るく優しい彼女にも、実は長い間抱え続けている心の闇があった。
お話はこのグレイスを中心に、もうじき出所しなければいけないマーカス、入所してきたばかりのジェイデンのエピソードを絡めながら進んでいきます。
上の映画ポスター、なんで走ってるのかというと脱走を図る子供をグレイスたちがおっかけてるんですね。なんとも体力の入りそうな職場であります。それはともかく、心に火種を抱えている子供たちはろくに前も見ず衝動的に駈けだしているようなもの。もしかしたら壁に激突するかもしれないし、豪快に転んで怪我をするかもしれない。彼らを守るためにショートタームの大人たちも全力を尽くさねばならないわけです。冒頭で「地味」と述べましたが、子供たちの無邪気な笑顔に心和む一方、突然悲劇がおきやしないかと観ている間ずっと緊張感を強いられました。
「うまいな」と思ったのは冒頭で健康的な大人に見えたグレイスの内面がすこしずつ明らかになっていくところ。子供たちの前では大人としてふるまってはいますが、彼女もまた子供のころの傷をかかえたままなのです。
メイソンも登場時はうんこをもらした話をえんえんとしているので、のんきで軽い男かと思いきや、話がすすむにつれつらい過去があったり、意外とたよりがいがあったりとどんどん印象が変わっていきます。そんな風にエンターテイメントの型にはまったキャラクターとは違う、現実の人間の二面性や複雑さがよく描かれていました。
エンターテイメントといえば、その類の映画では「主人公の悩みやトラウマがすっきり解決されて終わり」ということが多いですけど、現実では心の傷というものは時に解決したかと思われても、折りに触れて何度もよみがえってくるものです。グレイスや子供たちも、ラストシーンのあともそういう終わりなき戦いをずっと続けていかねばならないわけで。それでも互いに寄り添うことで、あるいはちゃんとした大人に頼ることでなんとか乗り切っていってほしい。そんな風にちゃんとしてない大人のわたしは非力ながら思うのでした。
『ショート・ターム』は一日一回になってしまいましたが、静岡県駿東郡清水町のシネプラザサントムーンで今週金までやってます。てっきりこちらではやらないと思っていたので、本当に助かりました。えらい! ジョイランド沼津が今月で閉館してしまう今、これまで以上にあなたたちの力が必要とされています!
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