新・猿の反省 チャウ・シンチー 『西遊記 はじまりのはじまり』
『少林サッカー』で一躍日本でもメジャーな存在になったのに、その後新作の発表がえらいスローペースになってしまったチャウ・シンチー。そのシンチーさんの新作は、みんな大好き孫悟空の冒険談。なぜかGメン'75のあのテーマと共に甦った『西遊記 はじまりのはじまり』、紹介します。
たぶん唐の時代。玄奘は妖怪ハンターとして修行を積んでいたが、彼の童謡で妖怪を調伏するやり方は成功したためしがなかった。悩む玄奘はひょんなことから同業の段という美女と、巨大な猪の妖怪を退治することになる。だが敵は手ごわく、玄奘は「最強の妖怪ハンター」と噂される「孫悟空」の力を借りることにするが…
すいません。今回も完全ネタバレの観た人向けのあっさりタッチで(^_^;
まずこの映画の浅いところ。これはラブコメ系の少年漫画にありがちな点ですが、へなちょこで「いい人」としかとりえがない主人公を、なぜかかわいい女の子が勝手に好きになってくれるところですね。これがヒロインがもっとあからさまなブスだったらまだ説得力があったし、チャウ・シンチーらしくてよかったと思います。
逆に深いなーと思ったのはさっきまで仲良くやってたしょぼい親父の孫悟空が、優位に立った途端恐ろしい怪物へと豹変していくところ。こういうの人間社会でもよくあると思うのですよ。獲物をひっかけようとしている詐欺師とかヤクザなんかは、まさにこんな感じじゃないでしょうか。そういう意味ではいい社会勉強になりました。
さて、前にも書きましたがハリウッド映画ばかり観ていると、アメリカ~ンの人の考えはよくわかるのに、中華系の人々の考え方に「???」となることがよくあります。
この映画で言うと子供を食い殺したり、人間を中華料理にしたり、ヒロインを容赦なく惨殺するようなキャラクターは、ハリウッドだったらギタギタのズタズタにされて、思い切り苦しんだあとに無残な死に方をするのが定番であります。しかしそんな極悪妖怪たちを玄奘はあっさり許し、ニコニコ微笑みながらお供として旅に連れていきます。原作どおりの流れとはいえ「なんでーーーー!?」と思わずにはいられません。でもまあ、この海より深い慈悲の心が仏様の教えってやつですよね。あとシンチーさんは「面倒くさいから片っ端に死刑にしちゃえ」というどこかの国に、こうやってやんわりとアンチテーゼをとなえているのかもしれません。なんて書くとシンチーさんに迷惑がかかっちゃうかしら。
もひとつ書いておきたいのは「沙悟浄」について。日本では「川の妖怪」ということで河童として描かれている沙悟浄ですが、中国には河童はいません。というわけで本来の沙悟浄の姿?が見られるということでなかなか貴重な作品であります。
原題では「降魔編」とついているシンチー版『西遊記』、当然続きがあるのでしょうなあ… 原作の膨大な量を考えると最低でもあと二作は必要でしょうか。いずれにしろ、次はシンチーさんらしいさらなるぶっとびを期待しています。
『西遊記 はじまりのはじまり』は現在全国の映画館で上映中。年末の話題作が続くことを考えるとあと1,2週くらい?
« 悪いガキほど強くなる アゴタ・クリストフ ヤーノシュ・サース 『悪童日記』(映画版) | Main | ザ・ワンハンドレッド ヨナス・ヨナソン フェリックス・ハーングレン 『100歳の華麗なる冒険』 »
Comments
伍一くん☆
私も同じ感想でしたっ
極悪非道な妖怪をあっさりお供にするのって、ううむ・・・
妖怪が悔い改めようとしているのか、悔い改めなければ許さないぞな展開なのか、このグループの有りようが今一つしっくりこないのでした。
ちなみに私は「ギャグマンガ日和」の孫悟空たちが結構好きです。
Posted by: ノルウェーまだ~む | December 13, 2014 04:16 PM
>ノルウェーまだ~むさん
おばんです。ですねえ。仏教説話によくあるように、妖怪たちが自分の行いを反省する場面がほしかったところです。その辺は続編でじっくりやるのかしら。いずれにせよ前途多難ですなあ
ギャグマンガ日和… マンガファンを自称しておきながら知りませんでした。あとで調べておきます!
Posted by: SGA屋伍一 | December 14, 2014 09:58 PM