2XXX年地球への帰還 クリストファー・ノーラン 『インターステラー』
『ダークナイト』でセンセーションを巻き起こして以降、新作を作るたびに注目を集め、そして議論を呼ぶ異能の監督クリストファー・ノーラン。そのノーラン監督が今回挑んだのは、人類最後のフロンティアである太陽系外への冒険を描いた『2014年版宇宙の旅』。『インターステラー』、ご紹介いたします。
環境の激変により、食料の生産が困難となりつつある近未来。細々と存続していたNASAは、太陽系の外に人類が移住可能な惑星を発見するべく先遣隊を結成する。かつて名パイロットだったクーパーはそのメンバーに選ばれるが、幼い娘を置いておくことにためらいを感じる。だが自分の冒険が娘を救うことになると信じ、愛する家族に別れを告げ、宇宙の彼方へと旅立った。広大な宇宙の中には、高重力の影響で周囲よりも著しく時間が早く進む場所もある。果たしてクーパーは無事新天地を見つけ出し、「必ず帰る」という娘との約束を果たすことができるのか。
というわけで最新のCG技術で表現された宇宙の光景や、きめ細かいメカ描写にまず目を奪われますが、中心となっているのは父と娘の信頼関係であります。父は山ほどの困難を乗り越えて娘の信頼にこたえようとしますが、娘の方はさびしさも手伝ってなかなか父親を信じられずにいます。
以下はもう完全にネタバレの上、宗教くさい話なんでご了承ください。
娘のマーフは数度にわたって「お父さんはわたしを見捨てたんでしょ?」と嘆きます。このお父さんと娘との関係にノーランというか欧米の人の「神様感」が現れているような気がしました。
いまや時代は21世紀ですが、疫病、不況、災害、自然破壊などで相変わらず明るい未来は見えにくい状態にあります。そうした時代にあって西洋でも「神はわたしたちを見捨てたのでは?」と思う人は少なくありません。しかし疑問を感じながらも信仰を捨てられない人たちもいます。この映画でマーフが父への思いを捨てきれないように、神は本当は子供たち=人類を愛していると心の底では信じています。
ただなぜか神様にはできることに限界があるようで、目の前に現れてたちどころに問題を解決してはくれません。非常にまどろっこしい、まわりくどい仕方で我々にメッセージを送るのみです。それでも一生懸命がんばればきっと神様は救ってくれる。あるいはややこしいメッセージを解読できる… 日本人や無神論者からしたら「神様なんているわけねーだろ」で終わりかもしれませんが、ノーランを初めとする向こうの多くの人たちはそんな風に考えているんじゃないでしょうかね。
神様関連の話はこれくらいにして。
この映画は「『2001年宇宙の旅』を思い出させる」という意見をよく目にします。わたしは『2001年』は一度観たきりでだいぶ記憶も薄れているのですが(^_^;、ストレートにではなく、若干ひねくった形でオマージュを捧げてるとは感じました。
たとえばこの映画にはTARSとCASEという板状のロボットが出てきます。よくあんなもん思いつくな、と思いましたが、あれは『2001年』の冒頭に出てくる「モノリス」が元ネタなのかもしれません。なにかしら情報や意思らしきものを秘めている「板」ということで。人類を進化させたモノリスがこちらでは人類に作られたもの、というアレンジが面白いですよね。
そして『2001年』では宇宙船のコンピューターが精神的に?追い詰められて暴走を始めますが、『インターステラー』では機械はあくまで理性を保ち、その代わりに一番理性的だったはずの人物が狂気に陥ります。その辺が皮肉が利いてるなーと思いました。
ただわたしが思いおこしたのは『2001年』よりも、自分が昔から最近にいたるまで親しんで来た日本のコミック、アニメの数々です。
荒廃した環境から人類を救うべく、謎のメッセージを信じてはるか宇宙の彼方に旅立つ…というあたりは『宇宙戦艦ヤマト』を。
未知の惑星における想像を絶する自然現象は『2001夜物語』のあるエピソードを。
すさまじい高重力の下では時間は限りなく遅くなる…という描写にはコミック版の『宇宙の騎士 テッカマンブレード』を。
宇宙と地球とでの時間差が悲劇を生んでいく様子は『トップをねらえ!』や『ほしのこえ』を。
そして長い旅の果てにようやく再会できた二人の姿は劇場版の『機動戦士ガンダム00』を彷彿とさせました。
そんな風に既存の作品と似通った部分がある一方で、「生まれて初めて観た」というくらい斬新な映像も数多くありました。特に終盤における「5次元」の世界が平面のスクリーンで表現されているのは「圧巻」の一言です。
この映画、すごくご都合主義的なところもないではないのですが、ノーランの未知の映像を作り出す才能と力強いストーリーテーリングにそのまま引きずられた感じがしました。
そして先にもあげたTARS君とCASE君ね… どシンプルなボディに内蔵された豊かなギミックとユーモアセンスにロボ好きとしては見事にやられてしまいました。『板ステラー』じゃなくて『インターステラー』はこの二体の板ロボットが見られるだけでも十分に価値のある映画です。
年末の目玉映画とも言える『インターステラー』は現在全国で上映中。しかし今年はまだまだ『ベイマックス』や『ホビット完結編』などもひかえています!
Comments
伍一くん☆
板ステラーのロボット君、タダの板なのにだんだん可愛らしく見えてくるから不思議でしたねぇ。
ジョークもうまく、数年後人工知能に人間の仕事が奪われていくらしいですが、まさかのおやじギャグまでその地位をロボットに奪われてしまう未来がすぐそこにあるとは…
Posted by: ノルウェーまだ~む | December 12, 2014 03:56 PM
>ノルウェーまだ~むさん
やっぱりあのルックスとユーモアセンスのギャップにすごくひかれますねえ。乙女がクールな男がちらりと見せる優しさにキュンとなる気持ちがよくわかりました
この板ロボ君に比べると人間エレキテルのアケミちゃんは「ダメよダメダメ」しか言えないので、まだまだ改良の余地がありそうです
Posted by: SGA屋伍一 | December 12, 2014 11:47 PM