オタクとオークと追憶と J・R・R・トールキン ピーター・ジャクソン 『ホビット 決戦のゆくえ』
本年度最後の映画感想は、おそらく「指輪サーガ」最終作となるであろうスペクタクルファンタジー。『ホビット 決戦のゆくえ』ご紹介します。一作目『思いがけない冒険』の感想はコチラ。二作目『竜に奪われた王国』の感想はコチラ。
目的地エレボールに着き安堵したのもつかの間、ドワーフたちとホビットのビルボは黄金を守ろうとする巨竜スマウグに見つかり、彼を怒らせてしまう。容赦なく城の近くの村を焼き払うスマウグ。焦土と化したその地に、さらに闇の軍勢が迫りつつあった。そんな中、リーダー・トーリンの胸中に黒い影が忍び寄っていく…
今回は半バレくらいの感想で(^_^;
わたくしてっきり『ホビット』最大のヤマ場は冒頭から登場してた怪獣スマウグとの決戦になるんだろうな…と思い込んでいたのですが、今回割りとあっさりスマウグさんが退場してしまいます。
じゃあめでたしめでたしじゃん! あともうやることないよ! と思いますが、このあとなかなかに意外な展開が待ち受けております。その鍵を握るのが主人公チームのリーダー、トーリン・オーケンシールド。
ここが指輪世界の独特というか面白いとこなんですが、普通神話というものは絶対善と絶対悪との戦いが描かれるもの。どこまでも正しく強い神様の軍団が、限りなく悪い悪魔や怪獣たちを最後にはやっつける、というのが定番です。
しかし指輪世界には絶対悪は存在するのですが、万能の神様というものは登場しません。ゆえに悪に立ち向かうのは善悪の狭間でふらついている人間たち(ホビット、エルフ、ドワーフ含む)。そして神様は助けてくれないので基本的に自分たちだけで力を合わせて悪魔と戦わねばなりません。しかもその弱者連合がなかなか団結しなかったり、闇落ちしそうになったりするので観ていてすごくハラハラします。
そんなジリ貧の状況にあって光をもたらすのが、建前の大仰な正義ではなくて、「誰かを本当に思いやる心」であるのが指輪世界の素敵なところです。あとホビットが特に有している無垢・無欲の心も重要な局面で大事な働きをします。
『決戦のゆくえ』終盤で特にズキュウウウンと来たのが「みんなが黄金より我が家を愛するなら、世界はもっと住みよい場所になるだろう」(うろおぼえ)というセリフです。その通りです。みんな金や権力を求めることをやめ。オタクになればいいんです。まあオタクにもそれなりの物欲はありますが、その欲求で誰かが傷ついたり命が失われたりすることはほとんどない…はず。
話が変な方向に行きましたがホビット全編を観終えての感想もついでに。1作目を観たのがついこないだの出来事のようですが、本当に「ちょっと遠くまでピクニックに行ってくるよ~」というくらいのんきに始まったこのお話が、こんなに壮絶で切ない流れになろうとはねえ… それでもLOTRよりはまだ「のほほん」部分が長かったので、『ホビット』はわたしにとっては前3作より性にあう話でした。
そしてLOTRではフロドを困らせてばかりの「ろくでもないじじい」だったビルボさんが、若かりしころはこんなに勇敢で楽しくて気のいいヤツだったとはねえ… 時の流れはまことに悲しいものです。
このあと中つ国はさらに大きな災厄に飲み込まれることになるわけですが、そう考えると本作品のラスト前後というのは、指輪サーガにおいてもっとも幸せな部分ではないだろうか…と思うのでした。
あー、なんか、めっちゃさびしいですね… このさびしさはやはり指輪の後継といわれるスターウォーズで埋めるしかないのか。それともデ○ズニーに権利を買ってもらってオリジナルの後日談を… いえ、なんでもありません。ちなみにさらに前日談の『シルマリルの物語』は、日本の国産み神話のようにかなりもやもやっとした内容らしいです。
ふー、なんとか年内にすべて書ききった… 明日は今年観た映画の中でも比較的下位の作品をまとめて振り返ります。
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