スミソニアンまでは何マイル ジャン=ピエール・ジュネ 『天才スピヴェット』(3D)
時にキュート、時にグロテスクな映像センスで人気のあるフランスの鬼才ジャン=ピエール・ジュネ。そのジュネさんの最新作は天才少年の悩みと冒険を描いた3D映画。『天才スピヴェット』紹介いたします。
モンタナに住むIQの馬鹿高い少年スピヴェットは、風変わりな家族に囲まれてそれなりに元気に暮らしていたが、心の中ではいつも不慮の事故で死んだ弟のことを気に病んでいた。
そんなスピヴェットの元に、ある日スミソニアンから彼の研究が権威ある賞を受賞したという報が届く。思うところがあったスピヴェットは家族に内緒で、大陸を丸々横断してスミソニアンで開かれる授賞式を目指す。
アート系の作家って3D嫌いなんじゃないかな~と思ってましたが、中には「やってみたい」と思われる人もいるようですね。ヘルツォーク、ヴェンダース、ル・コント… 最近はゴダールまで3Dに挑戦したとか。
さて、この『天才スピヴェット』もいわゆる「アート系の」3D映画。派手なアクションや奇怪なモンスターは出てきませんが、それでも変わった立体効果が楽しめます。『アバター』以降画面をひっこめる「奥行きのある」3D映画が流行りましたが、この映画はむしろその逆。画面から飛び出して、いろんなものがプカプカ宙を漂っています。スピヴェット君の思考やアイデアをそんな風に糸の切れた風船のように表現してるのですね。こういうの漫画では時折見かけますけど、3D映画でやらかしたのは本作が初めてかもしれません。
スピヴェット君は「永久機関」なるものを研究しております。読んで字のごとく、一度起動したら永遠に動き続ける機械のことですね。「そんなん出きるわけねーだろ」と思いますが、古来より様々な科学者がこれにチャレンジしてきました。で、スピヴェット君がさくっとそれに近いものを発明してしまうわけです。名づけて「磁気車輪」だったかな? このいつまでも回ってる車輪がスピヴェットを象徴してるような気がしました。この映画では何度か「生まれ変わり」という言葉が出てきます。西洋人の映画で輪廻転生があつかわれるのって珍しいですけどね。ともかく命は死んだら終わりではなく、また何かに生まれ変わってほしい…という主人公の願望がこの発明に表れてるのではないかと。
あと車輪というのは基本的に前に進んでいくものです。堂々巡りをしているようでも、本当はそれなりに前に進んでいる。そんな車輪のようにスピヴェット君もゆっくりと成長していき、やがて家族にも影響を及ぼしていきます。
個人的に特に好きだったのは中盤のスピヴェット君の冒険旅行のくだり。小さな彼がバカでかいかばんをかついでどうやって広大なアメリカ大陸を渡っていくのか。ピンチにつぐピンチを機転で乗り切っていく彼の姿がまことに痛快でした。また通り過ぎてゆく北米の叙情溢れる風景にはしんみりと心癒されました。死んでしまった弟の霊が「ホーボーのつもりか?」とスピヴェット君に言いますが、このホーボー感がたまりませんよね。それに比べると大旅行の前後のくだりは特に感動するところはなかったかな。劇中でスピヴェットが前から食べたかったホットドックの屋台に向かうシーンがありましたが、この映画はまさにホットドッグのような映画でした。真ん中のウインナーが特に大事、みたいなね。しかしホットドッグがパンがなくては成立しないように、この映画もまた前後のエピソードがあって真ん中のパートが輝きを増してくるのです。
まあそんな小難しいことを考えずとも、遊び心豊かな映像表現だけでも十分に楽しめる『天才スピヴェット』。現在全国で中規模くらいで公開中です。
この少しあと、やはり双子の子供たちがからむ『悪童日記』の映画版を観ました。でもこれが『スピヴェット』とは全~然ムードが違う話でしてw 近々こちらもご紹介します。
Comments
伍一くん☆
スピベット君似てる~♪
確かに途中まではさほどでもないのに、ラストのほのぼの感がたまらなくいい映画だったね~☆
私は2Dで観たのだけど、ぷかぷか浮かぶ想像の世界を3Dで楽しむのも良かったかも・・
Posted by: ノルウェーまだ~む | December 08, 2014 10:41 PM
>ノルウェーまだ~むさん
わたしの周りの人はジャン=ピエール・ジュネはほのぼのした映画よりえぐい映画の方がいいと言うんですよね…
あとこの映画に付き合ってくれた友人はヒューマントラスト渋谷の3Dメガネが重い重いと嘆いてました(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | December 09, 2014 10:56 PM