ワルのいる町に生まれ クリント・イーストウッド 『ジャージー・ボーイズ』
しぇーえりー しぇりべいびー しぇーえりー しぇりべいびー
イーストウッド二年ぶりの新作は、実在のミュージシャンを題材にしたミュージカル舞台の映画化(ややこしい)。『ジャージーボーイズ』、紹介します。
1960年代、ニュージャージー州。その町の若者が成功する道は三つ。ギャングになるか、軍人になるか、スターになるか…
床屋見習いの青年フランキーはヤクザな兄貴分トミーにその美声を見込まれて、彼のバンドの一員となる。同じくヤクザ仲間のマッシ、インテリの作曲家ボブの四人で構成されたそのバンド「フォーシーズンズ」はやがて「シェリー」という曲で全米に知られ、押しも押されぬスターとなる。しかし輝かしい栄光の影でフランキーは家族の問題を抱えるようになり、トミーは莫大な借金でフォーシーズンズを窮地に追いやっていく。
ビートルズ・ストーンズが台頭しロックが隆盛を極める前、米国では「ロカビリー」というものがもてはやされた時代がありました。バディ・ホリーやエルビス・プレスリーが脚光を浴びてたころですね。フォー・シーズンズもそんな時代の申し子と言えるかもしれません。ロックより軽やかでやや甘ったるいというか(適当な知識で書いてるのでまちがってるところありましたら訂正よろしく)。楽器をひきながら四人そろって同じステップを踏んでるところが面白かったりします。
ただスタイルは甘くても内情はけっこうヘビー(^_^; 「ぼくのかわいいベイビ~」なんて歌ってる裏でマフィアに借金で脅されてたりするので、どれだけ名声を得ていても必ずしも黒字になるわけじゃないんだなあ…とますます世の中の仕組みがわからなくなるのでした。
それはともかくこの映画で特に興味深かったのは「友情のややこしさ」を描いてるところでした。「友情」というと熱くてさわやかで感動するもの…みたいなイメージもありますが、実際はもっと複雑で面倒なものだと思います。時にはあまりに負担が大きすぎて「俺、なんでこいつと付き合ってるんだろ?」と思うこともありますが、今までの浅からぬ縁を思うとどうしても縁を切ることができない… そんな経験、皆さんはありませんかね? これ、友達だけでなく家族にも往々にしてあてはまることですけど。
あと友情だけでなくバンドの難しさについてもよく描かれてました。中島らも氏は「バンド内のケンカがイヤで一人で全部の楽器を弾こうとした」と言ってましたが、才能や個性の豊かな連中が一緒に何かやろうとすれば、ぶつかりあうのは必然というもの。そういえばバンドブーム華やかなころ、ブレイクしたバンドは ボーカルが「ソロでやりたい」と言い出す→解散→ボーカルと作曲の出来るやつだけが残る という流れをよくたどっていました。60年代からそういうもんだったんですねえ。最近の日本のバンドさんはあまり仲たがいせずいつまでも仲良くやっている、という例も多いですけど。
冒頭でも述べましたが監督はご存知クリント・イーストウッド。84歳というお年にして色々新たな挑戦をしておられるのに驚きました。たぶんこれだけ音楽が中心の映画を作るのも、登場人物が観客に向けてしゃべるいわゆる「第四の壁」を壊すような演出も初めてではないでしょうか。原作がミュージカルということを意識してこうなったんだと思いますが。
男同士の複雑な絆を淡々と力強く語る… そういうところはさすがにいつものイーストウッドでしたね。あと『J・エドガー』のレビューでも書きましたが、『ヒアアフター』以降御大は「人の強さ」より「人の弱さ」の方に興味が向いているような気がします。
そんな『ジャージーボーイズ』ですが、近場の映画館調べたらもう上映が終わってました。世界興収もかなり危うい感じだしなあ。いい映画なのになんでじゃああああ!! 見そびれた方は名画座情報をチェックするかDVDの発売をお待ちください。
ちなみにイーストウッドの次回作は実在の凄腕狙撃手を題材とした『アメリカン・スナイパー』。幸い来年二月にすでに日本公開が決まっている(早)ので、心して待ちたいと思います。
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