A.愛. スパイク・ジョーンズ 『her/世界でひとつの彼女』
本年度アカデミー賞作品賞にノミネートされた中で、最も奇抜と言える本作品。遅れに遅れてようやく先月こちらでも公開されました。まあやってくれるだけありがたいんですけど。『her/世界でひとつの彼女』、ご紹介します。
手紙の代筆を生業としているセオドアは、妻と別居して以来満たされない毎日を送っていた。ある日彼はPCの整理のために新開発されたOS「サマンサ」を購入する。「彼女」とセオドアは音声だけでしか交流できないが、まるで人間のように感情豊かなサマンサに、いつしかセオドアはひかれていく。そしてサマンサもまたセオドアのことを愛するようになり、「二人」は奇妙な恋人関係を築くのだが…
ちなみに上のイラストは『ときめきメモリアル』で一世を風靡した藤崎詩織ちゃんのつもり。意外と似せるのが難しくて途中で諦めました。
これまでアンドロイドに恋してしまった…という映画はいくつかありましたが、本作品はさらにシュールです。なんせヒロインが実体をもたないプログラムだというのですから。ただ声はスカーレット・ヨハンソンが普通に話しているだけなので、傍から見ると恋人と長電話しているように見えなくもありません。
スパイク・ジョーンズ作品は『マルコビッチの穴』と『かいじゅうたちのいるところ』を観たことがあります。どちらも現実世界からフイッと非日常の世界に入り込んでいくようなへんてこな映画でした。そんで登場人物はユーモラスなんだけど作品にはかなりニヒリズムが濃厚で、見終わったあとなんだかやるせない気持ちになったのを覚えています。あと誰かが誰かに強く執着するいわゆる「依存」の関係がお話の中心となっていたような。
今回も依存を描いたお話であり、単にワンアイデアの思いつき映画だけにはとどまらず、孤独に心蝕まれるような感情の機微を細やかに描いた作品となっています。大都会ロサンゼルスの美しい夜景が作中に頻繁にインサートされるのですが、その妙に人気が感じられない風景が一層薄ら寒い寂しさを掻き立てます。
主人公セオドアを演じる俳優さん、はにかんだ笑顔が印象的で見覚えあるんだけど誰だっけなあ…と思っていたらホアキン・フェニックスでびっくりしました。彼はなんとなくいつもしかめっ面でへの字口、みたいなイメージがあったのでね… メガネとヒゲと演技で気難し系の男子も癒し系に変わることができるんですねえ。それにしてもこのセオドア、別れた妻がルーニー・マーラで元彼女がエイミー・アダムス、一夜のデート相手がオリビア・ワイルドで現彼女は(声だけとはいえ)スカーレット・ヨハンソン、さらにまた別のかわいい系の女優さんにまで迫られていて「死ねよ!」と思いました。
以下はラストのネタバレ含みで
主人公と絆を深めたものの、サマンサは急速に進化してやがてさらなる宇宙の真理を追究すべく、パートナーの元から旅立ってしまいます。友情と愛情の違いこそあれ、この流れなんだか「『寄生獣』みたいだなあ」と思ったのはわたしだけでしょうか。そういえばもうすぐ『寄生獣』映画版も公開ですね。けっこう楽しみだったりします。
『her/世界でひとつの彼女』はさすがに上映も大体終わりました。ていうか12月頭にDVDが出ます。ぼっちのみんなはクリスマス前にこれを見て寂しさ倍増になるといいよ!
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