涙くん、アニョハセヨ イ・ジョンボム 『泣く男』
←この人もそうですけど、最近の男は泣きすぎだと思います。男塾の塾則にもありますが、男子たるもの、親の葬式といえども涙を見せてはいけないのです。そう思ってたところへこんな甘っちょろいタイトルの映画が公開されたので、いっちょしめてやろうと思って観て来ました。『泣く男』、ご紹介します。
チャイニーズマフィアの指示のもと、数々の暗殺指令を遂行してきた男・ゴン。そのゴンは引退と決めた仕事の際、予想外の事態に遭遇してしまい、激しく精神を消耗してしまう。しかし組織はさらに追い討ちをかけるように、その仕事でゴンが殺した男の妻も始末するよう命令をくだす。仕方なくターゲットの住む韓国へと渡ったゴンだったが、彼は突如として組織に反旗を翻し、女を守るために孤独な戦いに身をなげうつ。
監督はウォンビンのビフォー・アフターぶりが衝撃的だった『アジョシ』のイ・ジョンボム氏。『アジョシ』でもそうでしたが、そのアクションの徹底ぶりには目を見張るものがあります。主人公も悪者もグサグサ傷つきながらバトルがすすんでいくのですが、特に悪役の痛めつけられ具合が目を覆わんばかりです。あと周りの人もよく巻き添えになるので、圧倒されながらもあまりスカッとするところがありません。それでもゴン演じるチャン・ドンゴン(笑)の異常なまでの気迫に、目はスクリーンに釘付けになってしまいます。
一方でジョンボム作品は情に訴えてくるというかメロメロなところがあります。韓国映画の雄であるパク・チャヌクやポン・ジュノの作品は皮肉っぽかったり冷笑的な要素が濃いですが、その二人に比べるとやや浪花節的というか。
ただメロメロと言っても、ラブロマンス的な部分はこれっぽっちもありません。年頃の男性が年頃の女性を命がけで守る話であるにも関わらず、です。どうもジョンボム監督は妙齢の女性が苦手なところがあるようです。少し前での映画秘宝でもつっこまれてましたが、一作目の『熱血男児』は老女を守る話で、二作目はの『アジョシ』は幼女を守る話でした。「3作目でようやく普通の若い女性がヒロインですね」とインタビュアーが言うと、恥ずかしげに「チョットコワカッタデス…」と答えてました。この純情野郎!
それはともかく本編を観ればわかるように、二人を結びつけた経緯が経緯だけに、その間に恋愛感情が付け入る隙はまったくないんですよね… それにゴンがヒロインを守る理由というのは惚れたからではなく、自分が救えなかった母親を重ね合わせているから。以下結末までネタバレですが
これはいかにゴンが望みどおり死ぬか、というお話なのです。彼はヒロインを守ると決めた時から、その目標に向かって必死で血みどろの戦いを生き抜きます。しかし全ての敵を迎え撃ったあとには…
それでもとても満足そうな微笑を浮かべて目を閉じるであろうゴンに、ほとんど顔も合わせてないのに事情を察したであろうヒロインに、わたしは涙が止まりませんでした。うん、男だって本当に悲しい時は泣いてもいいのですよ。最初と言ってることが違うけど気にしないでください。
その『泣く男』ですが、ごくごく一部を除いて先週末でほぼ上映が終了してしまいました… どうしていつもわたしは書くのが遅いのだろう… ご興味持たれた方は名画座での上映かDVDの発売をお待ちください。レンタルで観た『新しき世界』『ファイ 悪魔に育てられた少年』も痛切な印象を残す傑作でしたが、わたしの本年度韓国映画ナンバー1はこちらです。
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