地べたの黙示録 エレーヌ・ジロー トマス・ザボ 『ミニスキュル ~小さな森の仲間たち~』
『アナと雪の女王』『STAND BY ME ドラえもん』が大ヒットし、「やっぱりアニメは強い…」という認識をあらためて感じた2014年。そんなオバケアニメの影に隠れて、斬新で質も高いのに世間の注目を浴びてないアニメもいくつかあります… 今日はそんなアニメの一本『ミニスキュル ~小さな森の仲間たち~』をご紹介します(本国のフランスではめっちゃ売れてるんですが…)
ある春のうららかな野山。さなぎからかえったばかりの一匹のテントウムシがいた。親からはぐれたそのテントウムシは、なりゆきで角砂糖の缶を運ぶ黒アリの一団についていく。その道中、彼らは凶暴な赤アリたちに目をつけられ、決死の逃避行に身を投じることになる。
ETVでも放送され、好評を博した『ミニスキュル ~小さなムシの物語~』の長編劇場版であります。TV版の方は観てなかった…というか最近までその存在を知りませんでした。
『ミニスキュル』が独特なのは、まずその映像コンセプトにあります。ほとんどの背景は実際の自然の山であり、野原なんですが、キャラクターである虫たちはCGで作られています。このムシのデザインが本当に秀逸で、明らかにデフォルメされててマンガチックでありながら、自然の風景にとてもよくマッチしています。そしてとにかく何より愛らしい。
またアニメに限らず映画作品として異彩を放っているのが、「言語化されたセリフが一切ない」ということ。口笛とかさえずりとかうなり声ですべての会話が構成されています。まさに『WALL・E』の前半を最後までやりきった作品と言えます。
こういう作風、子供向けの短編アニメでは時々見受けられます。『ひつじのショーン』とか『ロボットパルタ』とか。しかし5分以内の作品ならともかく、これを一時間半徹底するのは相当困難であろうと思います。しかもちゃんと子供にもわかる、手に汗握る極上のエンターテイメントにもなっている。「すげえ…」としか言いようがありません。たとえば序盤でのアリたちの追跡劇、単に空き缶がカラカラ転がっているだけなのに、ものすごくエキサイティングです。わたしは今まで缶が転がることにこんなに興奮したことがありません。さらにこの一本だけでロッククライミングと激流下りと攻城戦とダンジョン探検と空中戦が全部楽しめるんです! こんなお得な映画はそうはありません!
そんなアクションシーンと交互に、心を潤すような美しい野山のビジュアルも目を楽しませてくれます。月並みな言い方ですがスクリーンで見てこそ醍醐味を味わえる映像の乱れ撃ちでございました。
あとこの映画ムシはたちのシンプルな物語はを通じて、「社会」の一面を巧みに描いています。基本的に世の中は弱肉強食です。強い者は弱い者を搾取し、逆らうものは容赦なく痛めつけます。しかしその一方で、自分を犠牲にして必死で他の誰かを助けようとする、そんな懐の深い「やさしさ」も確かに存在します。たまたま居合わせたから同行してるだけなのに、一生懸命お互いのためにがんばる黒アリとテントウムシ。彼らの種を越えた限りない優しさに、わたくしはただハラハラと涙したのでした。
そんな『ミニスキュル』は現在全国のイオンシネマ(限定)で上映中ですが、今週の金曜で終了のようです。ああ… また書くのがモタモタしてるうちに… いつもこうだよ!! こんなにいい映画なのに映画ファンの間でさえほとんど話題にのぼらないのが本当に口惜しい。
次回はやはりイオンシネマ限定で同時期に公開されている洋アニメ『メアリーと秘密の王国』について書きます。
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