放浪とホドロフスキー アレハンドロ・ホドロフスキー 『リアリティのダンス』
熱狂的なファンを持ちながらも、長い間新作が途絶えていた変態監督アレハンドロ・ホドロフスキー。しかしこの度二十数年ぶりに待望の長編映画が完成いたしました。監督自身の少年時代をモチーフとしたという『リアリティのダンス』、ご紹介いたしましょう。
1920年代、軍事政権化のチリ。ユダヤ系ロシア人のホドロフスキー一家はその地で小さな商店を営んで暮らしていた。父のハイメは地域でひとかどの人物になろうと様々な活動に精を出す。また、息子のアレハンドロを強い男にするべく厳しく鍛えるのだった。しかし優しく傷つきやすいアレハンドロにとって、父の訓練や意地悪な級友たちは何かと悩みの種となるのだった。
なんてほのぼのしたストーリーなんだ… とても『エル・トポ』や『サンタ・サングレ』と同じ監督の作品とは思えない(笑) しかしまあそこはアレハンドロ・ホドロフスキー。映画のそこかしこに江戸川乱歩的な人たちがちらほらうろついていたり、予想のはるか上を行くような珍妙な展開が待っていたりします。ヘンテコといえばアレハンドロの巨乳のお母さんは常にオペラ調で歌うようにしか言葉を発しません。このことからも監督の少年時代をモチーフにしたといっても、かなり脚色や創作が加えられていることがうかがえます。
映画の冒頭から天使のようにかわいらしい美少女が登場するのですが、まずこの美少女がヅラをかぶった男の子だったということにたまげました。そしてこの男の子が監督のアレハンドロさんの少年時代だという… あんなグログロな映画撮ってて変態丸出しの役を演じてたホドさんが、こんな清らかで純真なお子様だったなんてとても信じられませんw そういえば先日『ホドロフスキーのDUNE』で観たホドさんは映画についてニコニコとさわやかに語るおじいさんで、そのふたつともまた違った印象でした。人間って深いですよね… 大きな才能のある人ともなればなおさらです。
どちらかといえばアレハンドロ少年より、お父さんのハイメさんの方が『エル・トポ』などのころのホドさんのイメージに近い気がします。息子を星一徹のように鍛えるところは、『DUNE』に取り組んでいたころ、お子さんにみっちり武術その他のトレーニングを施したなんてエピソードを思い出させます。あと硬派だったお父さんが色々あって人々のために何かしようとする…というあたりも『エル・トポ』の主人公を連想させます。
以後は後半のストーリーをばらしてるので未見の方はご了承ください。
後半はアレハンドロ少年よりハイメ父さんの方が俄然比重が大きくなり、彼の旅というか放浪が話の中心になっていきます。
ほんでお父さんが旅の途中で関わる人っていうのが、彼が手をくだしてるわけでもないのにバタバタと死んでいくんですよね。息子のアレハンドロ君もそこまではないまでも、何度か「死」に関わったりする。全体的にうっかりちゃっかりした笑えるムードなのに、どうしてこの映画はこうも死の気配が濃厚なのか… まあ普通にこのころのチリには一件のどかな日常の中にも死がゴロゴロ転がってたということなんでしょうか。
そんな死を巻き散らかしてるかのようなエズメ父さんを演じているのは、これまでも監督の映画に出演してきた長男のブロンティス・ホドロフスキーさん。この映画はある意味親子のすれ違いと和解を描いた作品でもあると思うのですが、先のドキュメンタリーで笑顔で語らっていたホド親子を思い出すと、なんだか胸がほっこりするわたしでした。
『リアリティのダンス』はまだちょぼちょぼ上映しているところがあるようなので、ヘンテコでいやされる映画が好きな人はどうぞごらんになってください。
ホドロフスキー監督は次回作はフランスのコミックを原作とした『フアン・ソロ』をやりたい、と語っておられましたが、『リアリティのダンス』の続編的な自身の青年時代を描いた作品を予定している、との情報もあります。いずれにしても御年85歳。体に気をつけてまだまだ長生きしてほしいものです。
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