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July 07, 2014

動物バンザイ、人間NG ダーレン・アロノフスキー 『ノア 約束の舟』

Nyf1『ブラック・スワン』で観る者を戦慄させたダーレン・アロノフスキー監督の最新作は、なんと旧約聖書の有名な1エピソード。『ノア 約束の舟』、紹介いたします。

アダムとエバが罪を犯し楽園を追われてしばらく後。地上には暴力や強欲がはびこり、神は洪水により人間を滅ぼすことを決意する。だが神は良い心を持つノアという男にだけ、それを逃れる道を教えた。ノアは教えられた通り巨大な箱舟を作り、それに動物たちを乗せ、やがてくる大洪水に備えるのだが…

アロノフスキー監督といえばオリジナル性の高い、救いのない現代劇ばかり作っている人、というイメージ。その彼が超有名原作のある信心深いお話を作るということで、少なからず驚きました。てっきり制作会社から「この辺でアロちゃん一般受けしそうなスペクタクル映画でも撮って、ぼくらに金儲けさせてよ♪」と頼まれたのかとでも思ったのですが、調べると監督は前々からこのエピソードを映画化したかったんだそうで。これまた意外でした。

今回はもう普通に観た人向けで(笑) ラスト近くまでバンバンネタバレしていくのでご了承ください。

聖書に関しては少し調べたことがあったので二つばかし解説させていただくと、まずノアを助ける岩の巨人、あれは原典にはああいう形では出てきません。神に逆らった天使たちが人間の女と子供を作った結果、ネフィリムと呼ばれる怪力の人間が生まれたということになっています。いわゆる異類婚姻譚や半身半人伝説の元祖ですね。
あと後半ノアが自分の子孫を殺そうとするくだりですが、聖書にはノアから数代下ったアブラハムという人物に関して似たような話が出てきます。神はアブラハムの信仰を試そうと最愛の息子イサクを殺すように命じるのですが、アブラハムが苦悩の末に従おうとすると、直前にストップをかけた…という話。終盤の展開はこの物語を意識しているように思われてなりません。

原典の教訓は非常にシンプルです。「心の善い人は生き残り、悪い人は滅ぶ」といったもの。でもアロノフスキーさんはこのお話にずっと疑問を感じてたのでしょうね。たとえば、ノアは自分の家族だけ助かるということに心が痛まなかったのか…とか。ちなみにわたしが昔読んだ童話の絵本では、ノアが洪水について一生懸命周囲に警告したにも関わらず、人々は「そんなこと起きるはずがない」と彼を馬鹿にして、箱舟にはいろうとしなかった…という風になってました。

この映画で最も興味深いのはやはりこの西洋人…というかアロノフスキーの「神様観」というやつ。神様は基本何を考えているのかよくわからない。人類一般に関してもどれほど愛情を注いでいるのか怪しい。それでもひたむきに考え、とことん努力した者の決定は尊重し、それなりに評価してくれる… さして悪人でもない人たちが追い詰められて破滅していく映画ばかり作ってる彼でも、そんな複雑な信仰心なら持ち合わせているってことでしょうかねえ。
その神様の不可解性を際出せているのが、セリフが一切ないということ。でもこれはなくて正解だと思います。実際に神様が映画で肉声でしゃべったら、なんか安っぽくなりそうな気がするので。これは宇宙人映画にも言えることですが、謎の存在が共通の言語でしゃべりだすと恐ろしさが薄れ、身近な存在になってしまうというのはあると思います。

誰でも知ってる話だけに「確認」のため観にいったような本作品ではありましたけど、さすがはアロノフスキーというべきか、結末がわかっていてもハラハラドキドキする映画になっておりました。その辺の手腕は素直に感嘆いたしました。
Nyf2日本人にはなじみの薄い聖書の物語である上に、残酷にも感じる人も多いのでは…と思いましたが、『ノア 約束の舟』は公開初週は『アナ雪』につぐヒットを記録。以後も順当にランキングに残っております。アロさんもこれですっかりヒットメーカーになってしまった感がありますな…
年末には先のアブラハムからまた数代後のモーセのお話が、リドリー・スコットの手により映画化の予定。これまたかなりアレンジの効いた映画化になりそう…

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Comments

伍一くん☆
なかなかにお詳しいですねー
確かに船に乗り込もうとする人たちを、バッタバッタと殺していくのはいかにも不条理よね。
聖書はちゃんと皆乗ってのって~☆と言っていたのに・・・

私は案外「善き人は生き残り・・・」の部分をこの監督は「信仰心の厚いものは生き残り・・・」と定義したのではないかしら。

Posted by: ノルウェーまだ~む | July 08, 2014 at 10:31 AM

>ノルウェーまだ~むさん

いや、それほどでも…

>確かに船に乗り込もうとする人たちを、バッタバッタと殺していくのはいかにも不条理よね。

こういうのがないとスペクタクル映画として盛り上がりませんからね(^_^; 意外とアロノフスキー監督ってエンタメ精神を大事にする人なのかしら

現代日本からすると「???」というところもあるでしょうが、なんにしても聖書って奥の深い書物であります。ほとんどの西洋人に影響を深い影響を与えていて、当然彼らの作る映画の根底にもその精神が下地にあるわけですから…

Posted by: SGA屋伍一 | July 10, 2014 at 10:44 PM

こんばんは。

ブラック・スワンの監督さんだったのね。
どおりでネクラな家族の確執を描くと納得しました。

でもかなり大胆な解釈を加えているとはいえ
面白かったし,キリスト教の社会ではそこそこ評価も得ているそうです。
聖書にない話をいっぱい入れてはいますが
神・罪・葛藤などの要素をちゃんと盛り込んでいるので
そういう評価になったのかも。
かえって,キリスト教とはなんのかかわりもない一般の観客から
分かりにくいと低評価になってるかもとおもいました。

ラッセル・クロウはもう太めのオジサンのままの体型で
俳優人生を全うするのでしょうね。それはそれでいいか・・・

Posted by: なな | July 16, 2014 at 01:14 AM

>ななさん

書き忘れたけど、この監督の描く親子関係って尋常じゃないものが多いですね(^_^;
キリスト教の社会でもそれなりに評価されてるとは意外ですね。かなり大胆な解釈や改変がされていますから。イスラム世界ではそうはいかないでしょうね
わたしの周囲の人々の間では評価は見事にまっぷたつですが、「賛」のほうが少しだけ多いかな
ラッセルはねえ(笑) 『ワールド・オブ・ライズ』のころに比べればやせたかな?

Posted by: SGA屋伍一 | July 17, 2014 at 09:19 AM

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