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June 11, 2014

奴隷としての約4300日 スティーブ・マックイーン 『それでも夜は明ける』

1_6かれこれ二週間前になりますが、ようやっと本年度アカデミー賞作品賞観て来ました… すでに『シェイム』などで注目を集めているスティーブ・マックイーン監督が、衝撃の実話を元に描いた問題作。『それでも夜は明ける』、ご紹介します。

南北戦争以前の1861年。北部で自由な市民としての権利を持っていたアフリカ系の演奏家ソロモン・ノーサップは、仕事の依頼を装った人身売買の罠にはまり、奴隷として南部へ売られてしまう。
地主の気まぐれでいつ殺されるかもわからないような環境の中、ソロモンは過酷な労働に耐え、再び妻子の元に戻る道をなんとか見出そうとあがきつづける。

この冒頭の部分、漫画『エリア88』とすごく似てるように思うんですが… え? 知らない? ともかくごく平凡な生活を送っていた人があれよあれよといううちに「商品」として売られてしまうくだりはなかなかホラーです。
そして向こうの支配階級は黒人の命なんて屁とも思ってないのでねえ。ちょっとでも反抗的な態度を見せればたちまち射殺か縛り首です。そしてそういった蛮行が普通に日常生活の中に溶け込んじゃってるのが本当に恐ろしい。
映画評論家の町山氏がある解説でしきりと「南部が南部が」と強調していましたが、同じアメリカ合衆国でも北部と南部とで黒人の待遇にはだいぶ温度差があったことも改めて知りました。
まあ、やっぱり「人種差別」をテーマにした話なんでしょうね。ソロモンの肌が黒くなければ、彼がこんな目にあうことはまずなかっただろうし。
ただわたしは単なる差別というよりも、人を人として見るか、ものとして見るか…というのがより正確な主題だと思いました。
ソロモンにとっては地獄のような南部にあっても、本当に全ての人が黒人にとって鬼であったわけではありません。といって慈愛に満ちた人というのはほんの一握り。多くは淡白に差別しているか、あからさまに虐待してるか、という程度の違いです。
で、ひどく黒人を虐げる人たちというのは、彼らがにくいからというよりは、不満やいらだちのはけ口として奴隷に暴力をふるいます。なんでそんなひどいことができるのか… これに関してはこの映画の中で最も悪魔的なマイケル・ファスベンダー演じる農場主が非常にわかりやすく説明しております。
「おまえらは私のおもちゃなんだ。お前らで遊んでいるとわたしは本当に楽しいんだよ」と。
つまり自分が所有している黒人たちを人間だとは思ってないのですね。本当に「物」としか見ていない。だから幾らでも残酷なことができるわけです。
そこへいくとソロモンの最初の「主人」であるベネディクト・カンバーバッチが演じる男はもう少し人間的です。ソロモンの能力を高く評価し、成果を生み出せばその労をねぎらったりもする。しかし彼もまた奴隷制度を十分に利用しており、いざとなったらソロモンをひどい農場主に売り飛ばしたりもする。「物」としては見てないかもしれませんが、せいぜいかわいいペットか家畜くらいの認識なのでしょう。
生まれた時から「黒人は奴隷」という環境で育っていれば、それが当たり前だと思ってしまっても仕方ないのかもしれません。でも中には同じ言葉を話し、同じ感情があるのですから「やっぱり同じ人間では?」と思う人も多くいたのではないでしょうか。

ただ、わたしたち日本人にとって、当時のアメリカ南部の人々の気持ちを理解する…というのは相当むずかしいでしょうね。まずわたしたちの周りにはそんなに肌の色の違う人は見かけないし、建前とはいえ「人はみな平等」ということになってる。中国や韓国の人は場所によってはそれなりにいるかもしれませんが、わたしなんか彼らが口を開かなければそうとはわからないし(笑)
まあ、差別的な思考がバリバリしみこんでいる人たちの考えなど理解しなくてもいいのでしょう。むしろそういうものから解き放たれた環境で生まれ育ったことを幸運と思わなければいけません。そしてなにかの摩擦があったり、一時的な熱狂に駆られたとしても、この映画のファスベンベンのように人を「物」とは考えないようにしたいものです。

というわけで幾つか目を覆わんばかりの残酷な場面もあるのですが、奴隷たちの高らかな歌声や、南部の雄大な自然が多少はそれを中和してくれます。女性たちにとってはファスベンダー、カンバーバッチ、ブラッド・ピット、(ちょっと落ちて)ポール・ダノといった今をときめくイケメン俳優も目の保養になるでしょう。ブラピ以外はどれもひどい役どころなんですけど。なぜこんな重いテーマの映画に、こんなに無駄にイケメンが集められたのか。(ゲイらしい)マックイーン監督の趣味か、製作も兼ねているブラピの人脈か。とりあえずどなたも既存のイメージを捨ててひどい役を熱演しておられました。見事です。

Cottonfield『それでも夜は明ける』はさすがにもう広島、栃木、青森くらいしか上映館が残っていないかな… 毎度のことですが出遅れが悔やまれます。見逃した方はDVDを待ちましょう。


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Comments

伍一くん☆
差別や虐待に関しては、長い歴史のなかで違う人種の人たちと関わることが近代まであまりなかった日本人には、理解しがたい感情かもしれないですね。
ただ、現代でもブラック企業やオレオレ詐欺、児童虐待などは弱いものから平気で搾取する事と定義すると、ほぼ奴隷への扱いと同じなのではと考えずにはいられないです・・・

Posted by: ノルウェーまだ~む | June 11, 2014 10:41 PM

>ノルウェーまだ~むさん

こんばんはー 何カ国か移り住んできたまだ~むさんはきっと人種の違いや、それに対する感情も肌で知っておられるのでしょうね。せまい日本からほとんど出たことのないわたしは想像するのがせいいっぱいです
ブラック企業といえば先日わが社も「す○屋」の新店舗を作るのにちょっと関わったりしたんですが、その後騒動を知ってちょっとうしろめたい気分。値上げしてもいいから待遇よくしてあげてほしいっす

Posted by: SGA屋伍一 | June 12, 2014 10:49 PM

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