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June 24, 2014

奪えるものなら奪いたい名画 ウェス・アンダーソン 『グランド・ブダペスト・ホテル』

140617legograndbudapesthotelキュートでシュールな作風で熱心なファンを持つウェス・アンダーソン。そんな氏の新作が小規模公開ながら現在(主に都市部で)人気を集めております。第64回ベルリン国際映画祭の審査員グランプリに輝いた『グランド・ブダペスト・ホテル』、ご紹介しましょう。

①ある著名な作家の胸像の前でたたずむ一人の少女。
②次いで場面はその作家のインタビューの場面へと変わる。作家はかつて自分が長く滞在した欧州の「グランド・ブダペスト・ホテル」の思い出について語りだす。
③作家はそこでホテルのオーナーと懇意になり、彼がどうやって先代からホテルを譲り受けたのか、その数奇な物語について知ることになる。
④オーナーはかつては異国から逃れてきた一介のベルボーイだった。ホテルの名コンシェルジュ、グスタフ・Hと師弟関係になった彼は、富豪からグスタフに譲られたある名画をめぐる陰謀と冒険に巻き込まれることに。

というわけでこれ、なんと三重の昔話になってるんですね。さして必然性があるとも思えないそんな構成にどうしてなっているのか? ぼんやりと思うことはありますが、はっきり言ってわかりません。偉い評者のみなさんにおまかせします。

自分、ウェス・アンダーソンは『ダージリン急行』から観はじめて、以後『ファンタスティック・Mr.フォックス』『ムーンライズ・キングダム』と付き合って来ました。『ダージリン~』より前の4作は観てないのですが、ずうずうしくもアンダーソンさんについて語らせていただきます。
まず近年の作品でよく見られる傾向について。

・映像が絵本のよう(カラフルだけど目に優しい)
・脱出劇が多い
・乗り物が活躍する場面が多い
・小動物がひどい目にあうことが多い
・毒にも薬にもならないような、人を食ったお話が多い

…とこんな感じなんですが、『グランド・ブダペスト・ホテル』は最後の項だけちょっと違い、お話の最後の方で現在の世界に対する批判というか嘆きのようなものがこめられております。この辺の背景についてはわたしがウダウダ語るよりも(例によって)町山智浩氏の解説を読んだ方がはやいですね。というわけでリンク先もぜひ一読していただきたいのですが… これ、けっこう重いですね…(内容が)
となるとアンダーソン氏はインスピレーションを受けた作家のツヴァイク氏を、ジュード・ロウ演じる作家と、コンシェルジュのグスタフの二人のキャラに投影しているということでしょうか。ジュ-ドさんが子供にいじられているシーンがとても微笑ましかったので、実際のツヴァイク氏のようになってほしくはないんですが。
そんなわけで観ている間はチャカチャカしてて楽しいんですが、観終わってみると「今は失われてしまった美しいものへの哀愁」がひたひたと胸に迫ってきて、思い返すたびにあとをひきます。こういうこと、これまでのウェス・アンダーソン作品にはなかったような。
あとコロコロ人が死んだり痛そげなシーンが多かったのもちょっとウェスさんらしくなかったですかね。クレイブンの方ならともかく。

今回ヴィジュアル的に気に入ったのは、やはりグランド・ブダペスト・ホテルの全景でしょうか。ピカピカだった時といささかくすんでいる時の両面が印象深かったです。出番は少ないながらも奇妙な形をした登山電車もかわいらしかったですね。
登場人物ではだんとつにコンシェルジュのグスタフ氏が強烈でした。老女専門のプレイボーイで、詩人で、高慢のようで人情に篤く、浮世離れしているようで俗物っぽくもある。達観しているようで子供っぽくもある。色々忘れがたいキャラクターでした。そんな風変わりなおじさんと、ぼーっとしているようで悲しい過去を背負っている「ゼロ」君のコンビがまたよかったです。上司と部下であり、師弟であり、年の離れた友人であり、親子のようでもある。そんな二人のやりとりがいちいちおかしく、時にホロリとさせられました。

グスタフ氏を演じるのは名優レイフ・ファインズ。わたくし観ている間ずーっと「この人リーアム・ニーソンに似てるけど微妙に違うなー。誰だっけなー」と思ってました。どうもハリポタの鼻のないフェイスになじみすぎてしまって、鼻のある状態がどんなだったか忘れていたようです。余談ですがこの二人『シンドラーのリスト』や『タイタンの戦い』二部作で共演していて混乱させてくれます。

Gbh2『グランド・ブダペスト・ホテル』は現在全国で公開中。わたしが住んでるところでは通例彼の作品は都市部から3ヶ月くらい遅れてかかることが多いのですが、今回は遅れなく上映されました。映画館も配給さんも勝負に出たな!と思いましたcoldsweats01 黒字になるといいですが…

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June 19, 2014

グラディエイ・タイタニック ポール・W・S・アンダーソン 『ポンペイ』

Pompei5なぜか今年はハリウッドの古代系・神話系の大作が目白押しでございます。その先陣を切るのがこの作品。あの『バイオハザード』シリーズのポール・W・S・アンダーソン(…)がローマ史の悲劇に挑む『ポンペイ』、ご紹介します。

時は西暦79年。幼少のころ一族をローマ軍に滅ぼされた男は、人買いにさらわれた後剣闘士として育てられ、その才能を開花させていく。やがて男は当時栄えていた街ポンペイで試合をすることになる。その旅の途上、男はカッシアという心優しい貴族の娘と出会う。ポンペイで開かれた祝宴で再会した二人は互いに惹かれあう。だがその晩、街のそばに位置するベスビオ山では異変の兆候が現れていた。

世界史で火山の惨劇というとよく出てくるのがこのポンペイの話。ちなみにわたしもよく混同してましたが、今はムンバイと言われているインドの都市は「ボンベイ」です。濁点と半濁点の違いですね。
あらすじを聞いたとき、「『タイタニック』と『グラディエイター』を足して割ったような話だなあ」と思いましたが、実際に観てみてどうだったかというと… かなりそれに近かったです(笑) そんな既視感こそありましたが、いろいろ良かったところもありました。

まず前半、あのバイオの監督が作ったとは思えないくらいお話が重厚で現実的に出来てる。わたしが特にひかれたのは主人公と、剣闘士のチャンピオンとの友情の部分。最初こそ角つき合わせていたものの、お互いの誠実さや剣技に関心して次第に認め合う二人。しかし親しい友となってもやがては市民の余興のために殺しあわなければならない… わたしこういうの(いい意味で)ダメなんです。本当にあのポール(・ボンクラ)・アンダーソンがこんな哀愁溢れるストーリーを作れるとはねえ… 
ただお話も後半の大噴火のあたりになってくると、次第に監督本来の持ち味が目だってきます(笑) それはもう乱れうちのように火山弾が景気よく飛んでくるんですが、周りの人たちが片っ端から直撃を食らっていてもなぜか主人公二人には当たらないという… まあその辺をつっこむのは野暮ってもんでしょうか。

あと以下はネタバレですが

annoy
annoy
annoy
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ディザスタームービーってのは概ね結末が決まってて、普通は「主人公たちは助かる」「主人公が犠牲になってヒロイン・子供は助かる」というところに落ち着きます。しかしこの映画はそのふたつにあてはまりません。ある意味非常にリアルで、ディザスターものとしては斬新な結末。しかしまあ爽快なエンターテイメントを期待していくと「納得いかーん!!」ということになるかもしれません。だっていい人も悪い人も見ようによっては結局みんな同じ最後なわけですからね。ただ、主人公たちと悪役たちの死に様で決定的に違うところがあるとすれば、それは「満足して死ねたか、そうでないか」というところだったと思います。
昔の人は今以上にいつ死んでもおかしくない境遇だったのでしょうけど、そんな命のはかなさについて感傷的にさせられる映画でした。
本当にあのポール・W・S・アンダーソンがこんな映画を作るとはねえ…(くどい)

Pompeiitissue_presentそのポールさんはいよいよこのあと『バイオハザード』の完結編に取り組むようです(一回終わったはずなんだが)。個人的には楽しみにしてます。
古代史劇・伝説ものはすでに『ノア 約束の舟』が大ヒット公開中。さらに『300 帝国の進撃』『ヘラクレス』『ザ・ヘラクレス』(…)『エクソダス』と続きます…
下の画像は前売り特典の「ベスビオ火山大噴火箱ティッシュ」。誰だこんなの考えた人coldsweats01

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June 13, 2014

総決算だよ! X-MEN! ブライアン・シンガー 『X-MEN:フューチャー&パスト』

Img00681西暦2000年からコツコツと続き、いつのまにやら14年も経ってしまった長寿アメコミ映画シリーズ『X-MEN』。その総決算ともいうべき映画が先日より公開されているのでご紹介します。『X-MEN フューチャー&パスト』(原題は『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』)参ります。

西暦2023年。ミュータント撲滅のために作られたロボット兵器「センチネル」の開発のため、X-MENと仲間たちは壊滅の危機に瀕していた。やがてセンチネルはミュータントだけでなく、「ミュータントを生み出す可能性もある人類」まで襲いだしたため、人類全体に絶滅の危機が及ぶ。
X-MENの指導者プロフェッサーXとビショップは、この事態を解決するため、メンバーのウルヴァリンを過去へ送り込み、センチネルが作られる原因そのものを消去することを試みる。
キティ・プライドのパワーにより70年代の自分へと意識を飛ばしたウルヴァリンは、その時代のプロフェッサーから助力を得ようと彼を探す。だが過去の時代のわかきプロフェッサーは、そのころ失意のどん底にいた…

なんとなくハリウッド映画シリーズには「基本3作目まで」みたいな決まりがあります。それ以上続けると新鮮味がどんどん薄れるし、初心者は途中から入り辛くなってきます。権利や役者のゴタゴタも起きます(笑)というわけでこの14年の間にバットマンもスーパーマンもスパイダーマンも1からやりなおされる(リブート)ことになりました。
ところがそんな風潮にも影響されず、意地でもリブートせずに続いてきたのがこのX-MENシリーズ。原因のひとつはヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンが、あまりにはまりすぎ&人気を得てしまったからでしょうか。しかし3作目『ファイナル・ディシジョン』でひとまずの完結を迎えてしまったシリーズは、その後スピンオフと前日談ばかりが続くことになります。そしてシリーズ上の矛盾点もいろいろ出来てしまいました(笑)
そんなグダグダ感あふれた状況で作られることになった本作品。わたしも最初はあんまり期待してなかったんですけど、実際に観てみたら見事なまとめっぷりと仕切りなおしっぷりにただただ感心いたしました。もちろん全ての矛盾を解決できたわけじゃありませんが、これまでのストーリーをとてもよく把握しており、新機軸も盛り込み、そして非常にカタルシスあふれた作品となっております。
この超絶技巧は1作目・2作目監督のブライアン・シンガーと、ファイナル・ディシジョン脚本&ファースト・ジェネレーション製作のサイモン・キンバーグががっちりタッグを組んだからこそなせた業でしょう。シリーズをよく知る二人が作っていることが、非常にいい効果となって表れております。
そんな風に常連さんにはたまらない作風の代わり、一見さんにはかなりハードルの高い作品となってしまいました(^_^; まあ仕方ないね。初心者さんはちゃんと予習してから観ればいいじゃない!! と、つい製作陣の味方をしてしまいたくなります。でもまあ日米共に客入りはこれまでと比べて持ち直しているようで不思議なことでありますね。

ストーリーに関して高く評価したいのは、まず悪役となるセンチネル開発者の、ボリバー・トラスクの人物像。彼はミュータントを憎んでいるわけではなく、むしろ高く評価していると言います。このままではネアンデルタール人が現人類に駆逐されたように、ミュータントにより現人類が滅ぼされてしまう。弱者が自衛するための当然の行いとして、ミュータントを滅ぼさなければいけないのだ…と。聞いているとなんだかこちらまで説得されてしまいそうです。こんな風に理路整然と自分の動機を述べられる悪役って実はかなり珍しいんじゃないでしょうか。そして彼の論理は世界で多く見られる人種同士の摩擦にもよく見られるものであります。
そしてもうひとつよかったのは、以下ネタバレですが
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sandclock
sandclock
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これがアメコミヒーロー映画なのに、誰も倒したり殺したりせずにめでたしめでたしとなるところです。ある意味かなり異例な決着のつけ方ですが、観ていてとってもさわやかになりました。やっぱり人類はみな兄弟、世界はラブ&ピースですよ。これが70年代がメインの映画だから言うわけじゃありませんけど。

さて、アメコミオタクの立場からキャラ説明をちょっと。
未来編に登場するメンバーはX-MENの主力よりもちょっと若手を選んであるのが心憎いですね。アイスマン、キティは加入時マスコット的な扱いだったし、ウォーパス、サンスポットは二軍的存在だったXフォースのメンバーです。ブリンクはさらにそれより一回り若いジェネレーションXのメンバー…というか加入直前に異次元に飛ばされちゃったんだったかな。ビショップは原作では未来からやってきたという設定で、先の時代の要らん情報を教えてはX-MENを混乱させます。
過去編ではそんなに新顔はいませんでしたが、一人強烈な印象を残すのが高速で移動する能力を持つクイック・シルバー。最初はマグニートー配下の悪役として登場しますが、すぐにヒーローチームのアベンジャーズに鞍替えします。映画では軽い感じの気のいいアンちゃんでしたが、原作では気難しい上に重度のシスコンというキャラです。あと悪気はないんだけどヒーローのくせにいろいろ問題やら火種やらをこさえてはみんなに迷惑かけてますね。彼は来年の『アベンジャーズ2』にも別設定で登場するようなのでそちらも楽しみです。

ある意味見事に完結したともとれる映画版X-MENシリーズ。しかし20世紀フォックスはすでに再来年新作の『X-MEN:エイジ・オブ・アポカリプス』を予定。リブートさせた(笑)『ファンタスティック・フォー』と世界を共有させるという情報もあります。せっかくうまくまとまったものが、またてんでバラバラになりそうな予感がしますが、そんなのはわたし『ゲッターロボサーガ』で十分味わってますから! 何の問題もありません!
Img00682おしまいに大したこと書いてないですけど、これまでのレビューのリンク貼っておきます。お暇な方は読んだってー

1作目
2作目
ファイナル・ディシジョン
ウルヴァリン
ファースト・ジェネレーション
ウルヴァリン:サムライ

原作60年代編
原作70年代編
原作80年代編

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June 11, 2014

奴隷としての約4300日 スティーブ・マックイーン 『それでも夜は明ける』

1_6かれこれ二週間前になりますが、ようやっと本年度アカデミー賞作品賞観て来ました… すでに『シェイム』などで注目を集めているスティーブ・マックイーン監督が、衝撃の実話を元に描いた問題作。『それでも夜は明ける』、ご紹介します。

南北戦争以前の1861年。北部で自由な市民としての権利を持っていたアフリカ系の演奏家ソロモン・ノーサップは、仕事の依頼を装った人身売買の罠にはまり、奴隷として南部へ売られてしまう。
地主の気まぐれでいつ殺されるかもわからないような環境の中、ソロモンは過酷な労働に耐え、再び妻子の元に戻る道をなんとか見出そうとあがきつづける。

この冒頭の部分、漫画『エリア88』とすごく似てるように思うんですが… え? 知らない? ともかくごく平凡な生活を送っていた人があれよあれよといううちに「商品」として売られてしまうくだりはなかなかホラーです。
そして向こうの支配階級は黒人の命なんて屁とも思ってないのでねえ。ちょっとでも反抗的な態度を見せればたちまち射殺か縛り首です。そしてそういった蛮行が普通に日常生活の中に溶け込んじゃってるのが本当に恐ろしい。
映画評論家の町山氏がある解説でしきりと「南部が南部が」と強調していましたが、同じアメリカ合衆国でも北部と南部とで黒人の待遇にはだいぶ温度差があったことも改めて知りました。
まあ、やっぱり「人種差別」をテーマにした話なんでしょうね。ソロモンの肌が黒くなければ、彼がこんな目にあうことはまずなかっただろうし。
ただわたしは単なる差別というよりも、人を人として見るか、ものとして見るか…というのがより正確な主題だと思いました。
ソロモンにとっては地獄のような南部にあっても、本当に全ての人が黒人にとって鬼であったわけではありません。といって慈愛に満ちた人というのはほんの一握り。多くは淡白に差別しているか、あからさまに虐待してるか、という程度の違いです。
で、ひどく黒人を虐げる人たちというのは、彼らがにくいからというよりは、不満やいらだちのはけ口として奴隷に暴力をふるいます。なんでそんなひどいことができるのか… これに関してはこの映画の中で最も悪魔的なマイケル・ファスベンダー演じる農場主が非常にわかりやすく説明しております。
「おまえらは私のおもちゃなんだ。お前らで遊んでいるとわたしは本当に楽しいんだよ」と。
つまり自分が所有している黒人たちを人間だとは思ってないのですね。本当に「物」としか見ていない。だから幾らでも残酷なことができるわけです。
そこへいくとソロモンの最初の「主人」であるベネディクト・カンバーバッチが演じる男はもう少し人間的です。ソロモンの能力を高く評価し、成果を生み出せばその労をねぎらったりもする。しかし彼もまた奴隷制度を十分に利用しており、いざとなったらソロモンをひどい農場主に売り飛ばしたりもする。「物」としては見てないかもしれませんが、せいぜいかわいいペットか家畜くらいの認識なのでしょう。
生まれた時から「黒人は奴隷」という環境で育っていれば、それが当たり前だと思ってしまっても仕方ないのかもしれません。でも中には同じ言葉を話し、同じ感情があるのですから「やっぱり同じ人間では?」と思う人も多くいたのではないでしょうか。

ただ、わたしたち日本人にとって、当時のアメリカ南部の人々の気持ちを理解する…というのは相当むずかしいでしょうね。まずわたしたちの周りにはそんなに肌の色の違う人は見かけないし、建前とはいえ「人はみな平等」ということになってる。中国や韓国の人は場所によってはそれなりにいるかもしれませんが、わたしなんか彼らが口を開かなければそうとはわからないし(笑)
まあ、差別的な思考がバリバリしみこんでいる人たちの考えなど理解しなくてもいいのでしょう。むしろそういうものから解き放たれた環境で生まれ育ったことを幸運と思わなければいけません。そしてなにかの摩擦があったり、一時的な熱狂に駆られたとしても、この映画のファスベンベンのように人を「物」とは考えないようにしたいものです。

というわけで幾つか目を覆わんばかりの残酷な場面もあるのですが、奴隷たちの高らかな歌声や、南部の雄大な自然が多少はそれを中和してくれます。女性たちにとってはファスベンダー、カンバーバッチ、ブラッド・ピット、(ちょっと落ちて)ポール・ダノといった今をときめくイケメン俳優も目の保養になるでしょう。ブラピ以外はどれもひどい役どころなんですけど。なぜこんな重いテーマの映画に、こんなに無駄にイケメンが集められたのか。(ゲイらしい)マックイーン監督の趣味か、製作も兼ねているブラピの人脈か。とりあえずどなたも既存のイメージを捨ててひどい役を熱演しておられました。見事です。

Cottonfield『それでも夜は明ける』はさすがにもう広島、栃木、青森くらいしか上映館が残っていないかな… 毎度のことですが出遅れが悔やまれます。見逃した方はDVDを待ちましょう。


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June 05, 2014

アンドロイドは電磁エンドの火花を散らすか 石ノ森章太郎 下山天 『キカイダーREBOOT』

Img00672電流火花が体を走る~♪ 本日は40年ぶりの復活で喜ばしいはずなのに、例によって特撮ファンの間に物議をかもしちゃってる(^_^;『キカイダー REBOOT』を紹介します。スイッチ~~オン!

現代日本。災害救助や資源発掘のためロボット開発に携わっていた光明寺博士は、スポンサーである政府の機関が、彼の研究を軍事目的に利用しようとしていることを知る。激怒した博士は研究のデータをある場所に隠したが、ほどなくして彼は不可解な死を遂げた。
それから少し後、博士の遺児であるミツコとマサルは、突然謎の集団により拉致されかかる。二人の窮地を救ったのは、博士が作ったアンドロイド、「ジロー」こと「キカイダー」だった。

説明不要とは思いますが『キカイダー』とは第二次特撮ブームに作られた石ノ森最章太郎原作の特撮ヒーロー。鉄腕アトムのように自分が「作られた機械」であることに悩む主人公の姿が、根強いファンを生んだ作品でした。さて、最近の東映の特撮映画というのは、ほとんどがTVシリーズの番外編であります。地獄のようなスケジュールの合間を縫って作ってるわけですから、当然かけられる時間と完成度には限界があります。
それらはそれらで楽しんでいたわたしですが、ここらでハリウッド映画のように、ちゃんと映画だけで独立したヒーロー映画が観たいと思っておりました(東映以外だと少し前に『電人ザボーガー』がありましたが)。
そんなところへ流れてきた『キカイダー』新作の予告編。おお、これはかなり気合入ってる! 少なくとも予告だけならハリウッドとそんなに遜色ない!と、期待に胸躍らせたのでした。では結果はどうだったでしょう(笑) 

まず主演の俳優さんがロボットに見えるかどうか。これは新人さんのぎこちなさゆえか、一応それらしく見えました。序盤・中ごろのスピーディな戦闘シーン、スタイリッシュでありながら旧デザインを踏襲した造形もよかった。なぜいまロボットであり、「キカイダー」なのか。その題材を選んだ理由もきちんと作中で語られ、十分納得のいくものでした。
で、ストーリーの方… 以下は中盤過ぎまでネタバレしちゃってるのでご了承ください。

導入部、ヒーローの登場、序盤の見せ場、そこまではけっこう食い入るように見てました。少々長いかな~と思いつつも、逃亡するジローと姉弟の交流のくだりも『ターミネーター2』のようで好感が持てました。問題はその後です。
戦闘を制御する「良心回路」のゆえか敵組織のアンドロイドに敗北を喫したジローは、ミツコとマサルが投降したことにより救われます。ここから自分の「使命」を失ってしまったジロー君の自問自答がここからえんえんと始まります。その辺がやっぱりくどくて長い(笑) もう少しコンパクトにまとめられなかったものかと思います。
そしてここが『キカイダー REBOOT』の最大の問題点というか特異な点なんですが、ヒーローであるキカイダーが後半から救う側から救われる側になってしまうんですよ。ヒロインはもう完全に安全圏内にいるのに、無茶をするジローを助けるために自分から危険な領域に飛び込んでしまうのですね。
まあジローの存在自体がヒロインを精神的に救ったとも言えないこともないし、こういうヒーロー像も斬新といや斬新です。ですが「スカッとするか」と言えばどうにも厳しいものがありますcoldsweats01

ヒーローものだから必ずしもカタルシスがなければいけない…とはわたしは思いません。でも爽快感を犠牲にするのであれば、もっと観客の心にズシンと来る様な衝撃というか「狂気」がなければならないと思います。『キカイダー REBOOT』には「本気」は十分感じられたけど、そこまでの「狂気」は正直感じられませんでした。

しかし、です。ようやくこのような特撮映画が本気で作られるようになったのですから、そのことをまず喜ばなければなりません。何事も最初から100点満点が取れるわけではありません。ここをスタートとして、さらなる高みを目指してほしいものです。
で、課題としてあげておきたいのはやはり「脚本」ですね。日本特撮界には小林靖子、太田愛、長谷川圭一といった豪腕ライターたちがいらっしゃるので、そうした方たちを積極的に起用していただきたい。小林さんなんかはTVで手一杯かもしれませんが、いつか時間が空いたらね…

というわけでいろいろくさしてしまいましたが『キカイダー REBOOT』、無理と知りつつそれでも多くの人に観てもらいたいです。日本の特撮映画がなんとか次の段階へと進むために。Img00673


予断ですが、原作漫画『人造人間キカイダー』のラストはかなりひどいです。「衝撃的だ」と見る向きもあるようですが、あれはやっぱりひどい(笑)折りよくコンビニで廉価版が全二冊で出るようなので映画と合わせてぜひごらんください!(それで薦めてるのかお前は!)

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June 03, 2014

シロクマは出てこない レオス・カラックス 『ポーラX』

Polalogo01つい先日、惜しまれつつ閉館した吉祥寺バウスシアター。その名物の「爆音上映」というイベントに行かないかというお誘いがあったので、貴重な機会とばかりに行ってきました。お題はレオス・カラックス監督の『ポーラX』。あらすじから参ります。

森の中の屋敷で母と二人暮らす青年ピエール。覆面作家として人気を博し、美しい恋人と親友にも恵まれ、彼は幸福そのもののはずだった。しかし身の回りに怪しい女性の影がちらつきはじめた時から、ピエールの平穏はゆっくりと崩れ始める。ついにその謎の女性と相対した時、ピエールは自分と女との意外な関係を知る。彼女はピエールの腹違いの姉だと言うのだ…

カラックス作品としては4本目となる映画。ほかの長編もたまたま全部観てたので、ついでにリンク張っておきます。全然たいしたこと書いてませんが。
『ボーイ・ミーツ・ガール』(1983) 『汚れた血』(1986)
『ポンヌフの恋人』(1991)
『ホーリーモーターズ』(2012)

『ポーラX』は1999年の作品。タイトルはシロクマとなにか関係しているように思われますが、wikiによりますとハーマン・メルヴィルの原作タイトル「"Pierre ou les ambiguïtés"の頭文字"Pola"に映画に使われた10番目の草稿を示すローマ数字"X"を加えたもの」だそうです。
というわけでこの映画、カラックスのキャリアの中では少し異質な作品。これだけが(大胆にアレンジしてはありますが)「原作付」なので。そして短編を除くとドニ・ラヴァンが主演でないのもこの作品のみです。
あと前三部作のアレックス君は、愛する女性にかなり依存しているようなところがありましたが、ピエール君はどちらかというと女性の方から依存されております。さして頼りがいがありそうなわけでもなく、けっこう自分勝手なのにも関わらず二人の美女から言い寄られているのは、やはり彼が美形で文才があるからなのでしょうか。

「後先考えずに衝動的に行動する」という点においてはピエールもアレックスとまったく一緒であります。家も母も恋人も投げ捨てて、なぜ彼は姉と離れた街で暮らそうと決意したのか。自分とは対照的に哀れな人生を歩んできた姉に負い目を感じたからか。あるいは直感的にこの女性と共に新しい世界に踏み出せば、創作のインスピレーションが得られそうだと思ったのか… なんとかそれまでにないものを生み出そうとあがくピエールの姿は、ジュリエット・ビノシュとの別れを経て映画監督として再起を図ろうとするカラックス監督の姿とも重なりました。
しかし傍から観てる側からすれば、ピエールの行き着く先は悲劇以外予想できません。実際彼に関わった人間はことごとく不幸になっていきます。正直言うとそういう映画を2時間見続けているのはけっこう辛うございました。主演二人が現在では故人というところも一層悲劇性を際立たせています。『ボーイ・ミーツ~』や『汚れた血』も悲劇といえば悲劇ですが、不思議と観ていてあまり暗い気分にはなりませんでした。しかし『ポーラX』はなんかこう、ひたすら陰鬱な気分になります。

ひとつ独特だな、と感じたのはこれが姉と弟のラブロマンスであるところですね。妹に恋してしまった…という話は割かしよくある気がします。昨今のライトノベルではそんな話が人気ですし、聖書の中にもそんなエピソードがあります。しかし姉に恋焦がれるというのは不勉強ながらあまり聞いたことがありません。浦賀和宏先生の『記憶の果て』くらいかな? あと全作観ていまさら気がつきましたが、カラックス監督は乗り物が好きですよね。時にゆったり、時に爆走する水・陸・空の乗り物のシーンが作品の中で定期的に出てきます。その辺の分析はあとで偉い人のレビューでも探して読んでみよう…

ぺシミスティックな空気に満ちた『ポーラX』ですが、それから13年後(…)の『ホーリー・モーターズ』はかなり軽快でぶっとんだ作品になっておりました。これでようやく監督も吹っ切れたと思っていいのかな(^_^; どんどん次回作の間隔が空いていくカラックスさんですが、次はそう間を空けずに新作を作ってほしいものです。

20060714194835そうそう、噂の爆音上映について。込み合ってた関係でなんと最前列のスピーカーのまん前になってしまい、冒頭の爆撃のシーンでは死ぬかと思いましたが、そのあとは全体的に静かめの映画だったりので助かりました。そんでぼーっとしてきたあたりで大音量の演奏シーンがちょこちょこ入ってきて、ちょうどいい目覚ましになりましたね。
こういう変わったイベントをやってくれる映画館がなくなってしまうのは残念ですが、現在静かに復活への動きも進行しているようです。実現を祈っております!

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