アイスを溶かすのは愛っす クリス・バック ジェニファー・リー 『アナと雪の女王』
ノリのいい主題歌からそこそこヒットはするだろうと思ってましたが、まさかここまでバカ売れするとはね… 今や社会現象とも言われているディズニー王道のプリンセスストーリー、『アナと雪の女王』ご紹介いたします。
近世ヨーロッパっぽい雪深い国アレンデール。その国の王女エルサは不思議なことに周りのものを凍りつかせる力を持っていた。エルサには仲の良いアナという妹がいたが、ある時その力のせいでアナは命を落としかけてしまう。以後、エルサは自らの望みもあり、城の一室に閉じこもりの暮らしを送るようになる。
それからしばらく後、国王夫妻は海難事故で帰らぬ人となった。エルサは女王として即位することになるが、彼女は戴冠式の際、もしあの「力」のことが公になったら…と不安に苛まれる。
…と書くとなんだか主人公はエルサさんみたいですが、どちらかといえば表のヒロインはタイトルにもあるように妹のアナさんの方です。『きまぐれ☆オレンジロード』に例えるとクールで影のあるエルサはまどかタイプ、陽気で惚れっぽいアナはひかるタイプ… って若い人にはわかりにくい例えですね。すいません。
昔は悪者がプリンセスをピンチに追いやり、ハンサムな王子様が颯爽と助けに現れる…という童話の世界を忠実に再現していたディズニー。ところが最近はこうした王道的な展開をひねくったような作品が目立ちます。『アナと雪の女王』では本当は悪者になるはずの「雪の女王」が同情を誘うような愛情豊かな女性として描かれています。じゃあ悪者はいないのかというと、これがなかなか意外なところから出てきます。
ほかにも『塔の上のラプンツェル』などディズニーご本家でこうした実験的な作品が増えたのは、ピクサーの創設者ジョン・ラセター氏が、デイズニー・アニメーションスタジオのCEOに就いたことが大きいかと思われます。その影響で最近はピクサーと本家の境界がだいぶあいまいになってきた…というより、ピクサーの方が力が抜けてきた感があります。長年のピクサーファンとしてはここらでいい加減盛り返してきてほしいものですが…
以下から本作品はおろか『ラプンツェル』までどんどんネタを割っていきますので未見の方はご注意ください。
わたくし先日ようやく『塔の上のラプンツェル』を観たのですが、いろいろ『アナ雪』と似通ったところがありました。
「ひきこもりで超能力を持った王女様が登場する」「馬系の生き物がヒーローを発奮させようとがんばる」「ヒーローは身体能力は高そうだけど社会的立場が低そう」「ヒーローが自分の幸福を投げ打ってヒロインを助けようとする」などなど。ただ決定的に違っていたのは「最後に魔女が罰を受けて死ぬ」というところでした。
『ラプンツェル』に出てくる魔女はエルサと違って罰を受けてもしょうがない理由があるんですけど、それでもヒロインと家族のような関係を築いていたことも確かで。そんなキャラクターを悪者とはいえあっけなく死なせちゃっていいものなのだろうか? 『アナと雪の女王』はそういった『ラプンツェル』における反省点を踏まえて作られたような気がしてなりません。
というわけで全編に「やさしさ」があふれた好感のもてる映画でしたが、2点ばかり「おや?」と思うところがありました。
ひとつは「一人でやっていくわ~♪」と氷のお城に閉じこもったエルサ様ですが、従者も何もいない状態でご飯はどうするつもりだったのでしょうか? 寒さエネルギーがみなぎっていればご飯なんか要らない体なんでしょうか… あるいは例の氷のトゲトゲで動物でも狩るつもりだったのか。その辺は想像の翼を広げて見過ごすことにしましょう。
もう一点はこの映画の「悪役」となるハンス王子です。最初かれは高感度100%のさわやかイケメンとして登場します。殺されそうになったエルサ女王を必死で助けたりしてるのですが、中盤過ぎから突然ダークサイドが発動。今度は自分がエルサを殺そうと躍起になります。あれ? それじゃ最初から見殺しにしとけばよかったんじゃ… 何がしたいのかてんでばらばらだよね? と思わずにはいられません。
この問題に関してはこういう考察があったりしてなかなか「深え…」と感じ入りましたが、わたしはもうちょっと単純に考えてました。
ハンス君はたぶん最初は本当に二人のヒロインのことを心配するいいやつだったのではないかと。でもあれよあれよという間に自分に権力が転がり込んで来て、このまま行けば長年欲しかったものが手に入るじゃない?ということに気づいてしまったんでしょうね。その時からさくっと心変わりしてしまったんだと思います。権力を手に入れると人が突然変ってしまうという例は、歴史上でもよくあることですからね。
そんなことは全然考えてなくて単にスタッフのキャラ設定が適当だったのか、それとも深い計算があったのか。気になるところですが、まあ好きなほうに考えるとしましょう。
わたしがこの作品で一番好きだったのはマスコット的なキャラクターである動く雪だるまのオラフ。こいつ、別にいてもいなくても支障のないキャラだし、空気を読まないギャグでいらっとしたりもするんですけど、大事な場面ですごくいじらしいことを言うんですよね。正直アナとエルサにはチラッとしか泣けなかったけど、オラフが「ぼくのことはいいんだよ」というくだりでは鼻水大噴出でした。おお~ん
このまま行くと『風立ちぬ』の記録も超えるか?というほどの『アナと雪の女王』は、まだ当分全国の映画館で上映されてるでしょう。めっちゃ少なかった3D版も公開劇場が増えたとか。わたしゃ平面版で観たのでできれば立体版の方も観てみたいなあ…
Comments
ハンスは言ってみれば「アウトレイジ1」の会長や、「ビヨンド」の片岡ですよねw
よく考えてみると、結局何がやりたかったのか分からないという(^_^;)
まあお話を作るときは、すべてのキャラクターの心情を合理的に描くのは難しい上にプロットが散漫になっちゃいますしね。
オラフは「ココリコミラクルタイプ」を思い出してしまったなあw
Posted by: ゴーダイ | April 10, 2014 10:51 PM
>ゴーダイさん
まあ現実では人間の行動ってそんなに一貫してないもんですよね(^^;
ただアート系の人間ドラマならともかく、王道的エンターテイメントでそれをやられると混乱が生じたりして
ココリコミラクルタイプはちらちら見てたけど、こんなキャラクターいたか覚えてないな~ 「笑う犬」のマスコットは覚えてますw
Posted by: SGA屋伍一 | April 11, 2014 10:55 PM
> ご飯はどうするつもりだったのでしょうか?
エルサは原子力で動いてるんだよ。だから、ちょっとくらい食べなくても平気の平左さ。
Posted by: | April 24, 2014 10:39 AM
>名なしさんというか十中八九ふじきさん
ああ、ゴジラみたいなもんか?(違う)
Posted by: SGA屋伍一 | April 25, 2014 09:07 PM