レッド・ウィング・ダウン ピーター・バーグ 『ローン・サバイバー』
一連の「アカデミー有力候補!と言われながら実際にはノミネートされなかった!」作品の最後の一本。もう公開終わっちゃってるっぽいですが… 知られざる「レッド・ウィング作戦」の真実を描いた『ローン・サバイバー』、紹介いたします。
2005年、米軍最強ともうたわれるシールズの精鋭4名は、タリバンの指導者を暗殺すべくアフガニスタンに潜入する。だが作戦遂行中に身を潜めていた彼らは、運悪く土地の羊飼いたちに見つかってしまう。生きて帰せば200人以上のタリバンの追跡を受けることになるのは必定。任務遂行のために、そして生還するために子供を含む民間人を殺すべきなのか。チームのリーダーがくだした決断とは…
監督はピーター・バーグ。この人もよくわからない人で『キングダム 見えざる敵』のような重厚な社会派作品を作ったかと思えば、『ハンコック』『バトルシップ』のような単純おバカなエンターテイメントも撮ったりする。で、今回の作品は実話が元になっているということもあって『キングダム』よりの作品。米軍人が主人公だとそれだけで反米派から「プロパガンダプロパガンダ」と言われたりするもので、本作品もそんな評価をよく見ます。
ただ監督は『キングダム』でいつ果てるともしれない報復合戦のむなしさを嘆いたりもしていたので、「米軍最強! 俺たちが正義だ!!」という主張の人ではないと思うのですよね。『バトルシップ』を思い出すとその印象がちょっと揺らいだりもするのですが(^_^;
わたしがむしろ印象に残ったのは、イデオロギー云々よりも「人の良心」に関してでした。たとえばシールズの隊長は国際世論のことも気になったんでしょうけど、自分を窮地に追いやるとわかりつつ一度つかまえた子供を解放します。「軍隊は人を洗脳する集団」みたいなことも言われますが、「無関係の子供を殺したくない」という思いまでは支配できなかったようで。あとタリバンを敵に回すと知っていながら、それでも主人公を命をかけて助けたアフガンの人たちもいます。立場も国も違えど、世界共通の「これだけはやっちゃいけない」というモラルは確かに存在するんだな、と思いました。そういうモラルが麻痺してしまう例もまた多くありますが…
あととかく人は「○○人はみんなこう」と考えがちですけど、ひとつの国の中にも様々な考え、立場の人がいるということも認識を新たにしました。わたしたちだって「日本人はみんなこう」と思われたら腹が立ちますからね。強いて共通点をあげるとするなら「みんな日本語を話す」ってくらいのものじゃないでしょうか。だから他の国の人たちもなるべくステレオタイプに考えないようにしたいものです。
映画は中盤あたりからとめどなく痛いシーンが頻出しますので、そういうのが苦手な人にはおすすめできません。幾らピンチとはいえ断崖絶壁から躊躇なくジャンプするシールズさんたちには背筋が凍りました。まあコツがあるのかもしれませんが、普通死ぬよね… でも着地してちょっと痛がりながらもまたガンガン戦闘を続ける主人公たちを見て、「シールズすげえ…」って思いました。
一方で地獄のような訓練を積み、最新鋭の装備を持っていても「ダメな時はダメなんだな」ということもよくわかる映画となっています。まあダメとわかっていてもやらなきゃいけないということも時にはありますけんど。
『ラッシュ』『大統領の執事の涙』『LIFE!』『ウォルト・ディズニーの約束』、そして本作と一連の「惜しくもノミネートされなかった」作品群、どれも見ごたえありました。その中では『ラッシュ』が頭一つ抜けて気に入っております。あと『LIFE!』を除いて全部「実話を元にした」話ですね。
そんなわけで『ローン・サバイバー』は主な公開は終わってしまいましたが、惜しくも見逃された「痛い映画」好きな皆さんはDVDか二番館での公開をお待ちください。先に原作『アフガン、たった一人の生還』を読んでおくのもよいかも。
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