ブラックボディに染められてるんだが、俺はもうロボかもしれない ジョゼ・パジーリャ 『ロボコップ』
80年代に人気を博したあの異色ヒーローが満を持して復活! 色々事情で遅れたものの、まずは無事完成・公開されたことを喜びましょう。『ロボコップ』(2014)、ご紹介します。
近未来、米国政府は紛争地帯の治安維持のため、ロボット兵器を投入。成功に気を良くした米国の右派勢力は、今度は国内の犯罪抑止に向け、その兵器を配備しようとする。だが世論は得体の知れない「ロボット」が警察となることに反発。軍とロボットを開発したオムニ社は、人々にロボットが受け入れられるように、人間とロボットのハイブリッドとなる刑事を生み出すことを決定。その白羽の矢が立てられたのは犯罪組織との戦いで重傷を負ったアレックス・マーフィー巡査部長だった。
オリジナル第一作は「悪趣味の大家」ポール・バーホーベンが監督だったゆえに、隠し味程度の風刺はあったものの、そんなに深いテーマはなかったように思えます。しかし今回はベルリン金熊賞をも受賞した社会派のジョゼ・パジーリャがメガホンを取ったせいか、国や大企業への批判が満ち満ちた作品となっています。
まず人命尊重というよりも、自分たちの権力を広げるために強引に兵器を導入しようとする政治勢力。そして彼らに協力する大企業。その代表者たちはマーフィーのことを実験材料くらいにしか思ってません。貴重な例として扱ってはいますが、保身のためならあっさり廃棄処分にしようとします。
そんなブラック企業の恐ろしさと並行して、「人を人たらしめているものとは何か」「いったいどこからどこまでが人なのか」ということも語られます。なんせ新ロボコップは頭部・心臓・片腕以外は全て機械です。全体の6割は失われているような状態。そんな風にただでさえアイデンティティが危うい状態なのに、ブラック企業はさらにマーフィーを洗脳して機械のように従わせようとします。加えて捜査のためにサーバーから大量の情報が彼の脳になだれ込んで来ます。心も体もじわじわ侵食されていくなかで、マーフィーは果たして自分の「個」を保てるのか? 保てるとすればその力となるのは何なのか? このあたりは『寄生獣』で「既にミギーにのっとられてるんじゃないのか?」と怯えるシンイチ君の姿とも重なるものがあります。
で、そこで重要となってくるのが「家族との絆」であります。この辺は旧作ではあまりなかった要素ですね。異形の体になっても家族を守ろうとするマーフィー。しかしもう彼はかつての彼ではありません。ほぼ全身金属のボディで自分の家に戻り妻子と会話するシーンは、こっけいでもあり、きまずくもあり、悲しくもなる忘れがたい場面でした。
そんな風に痛快さやカタルシスの代わりに重苦しさの方が印象に残ってしまう今作。時々悶絶するほどかっこいいシーンもあるのですが、それが「燃え」や興奮に微妙につながらないというか。
単純にスカッとする映画を作りたいのであれば、ラスボスはもっと滅茶苦茶に悪くてべらぼうに強い存在にすべきです。そうであればあるほど、倒されたときの快感は深いものになります。
しかしクライマックスでマーフィーと対峙するオムニ社社長は確かに悪人ではありますが、「ぶち殺して~」というほどの極悪人でもありません。戦闘能力にいたっては皆無に等しい。そんなやつを倒したところでなんかこう、釈然としません。もしかするとパジーリャ監督はあえてそういうわかりやすいカタルシスを避けたのかもしれません。
話は変りまして。今回改めて思ったことのひとつは、やはり欧米人にとって「ロボット」は怪物の一種であるということです。これはもうその名が作られたカレル・チャペックの戯曲『R.U.R』からしてロボットが人類を征服するという話なので仕方ないのです。日本では友達とか機械・乗り物の延長くらいにしか思われてない「ロボット」ですが、白人社会の人たちは自律して勝手に動く機械というものに、得体の知れない薄気味悪さを感じるようです。古い映画だと『2001年宇宙の旅』や『ウエストワールド』なんかにそれがよく現れていますね。もっとも『トランスフォーマー』や『アイアンジャイアント』のように愛すべきモンスターとして描かれている作品もありますが。
新生『ロボコップ』は現在全国の映画館で上映中です。が…興行的にはちょっと厳しい模様。既に一日の上映回数が一回になってしまってるところもあります… がんばれ、ロボコップ!
ちなみにパジーリャ監督はあるインタビューで「子供たちはみんなヒーローになりたいと思うものだけど、ロボコップになりたい子なんていないだろ? そこがいいんだ!」と語っておられました。いや! 俺はなりた… やっぱいいかな。うん
Comments
伍一くん☆
あー、これあまりパッとしない評判みたいだったから、観る気まんまんが薄れてきていたところ。
伍一くんのを読んだら案外面白そうな気がしてきましたよ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | April 08, 2014 12:52 AM
>ノルウェーまだ~むさん
そうですねい。夫婦の危機を愛で乗り越えていく話…ととらえればまだ~むさんにも十分楽しめるかと思います
ただわたしとしてはこっちよりも『レゴ(R)ムービー』の方が断然お勧めだったりするのですが…
Posted by: SGA屋伍一 | April 08, 2014 10:25 PM
SGAさんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪
自分は公開前から結構楽しみにしてて実際あんまり損は無かった作品だったのですが、世間の評判はやはり厳しいですね。地元のホームグラウンドももはや22時の上映1回だけ。そしてそんな夜に誰がブラック企業のゴタゴタ物語を観るのだろうとも思っちゃったり・・^^;(汗
でも確かにロボコップの悪役が極悪人でもなければ凄い強い存在でもなかっただけに、自分もなんかスカッ!という気分は薄かった気がしますね。家族との絆を盛り込んで機械と人との間で苦悩するドラマも悪くは無かったのですが、アクションとドラマ半々にも見えて中途半端ぽいのも正直否めなかったかもしれませんね(汗
Posted by: メビウス | April 21, 2014 09:31 PM
今回は黒いロボコップが白いロボコップになる話でした。
次回は女刑事がロボ化して紅いロボコップが作られて、紅白になってめでたいな、という話になると思います。
Posted by: ふじき78 | April 22, 2014 09:36 PM
>メビウスさん
こんばんは。やはりアナ雪とかぶってしまったのが痛かった…というわけでもないか。客層ぜんぜん違いそうですしね。今の日本がロボコップを求めていないということなのか? タイミングをみはからってまた再挑戦してほしいものです
ラスボスはできればサミュエル・L・ジャクソンにしてほしかったですね~ あの人なら強そうですし、この映画ではかなり憎たらしい感じでしたし(笑)
Posted by: SGA屋伍一」 | April 23, 2014 09:58 AM
>ふじき78さん
赤いロボって警察というより消防にむいてるんじゃないですかね~ ロボレスキュー?
Posted by: SGA屋伍一 | April 23, 2014 10:00 AM