まだ逝かぬカウボーイ ジャン=マルク・ヴァレ 『ダラス・バイヤーズ・クラブ』
早いモンで第86回アカデミー賞もさくさくっと終わってしまいました。その中で作品賞には届かなかったものの、主演男優賞と助演男優賞をかっさらっていったのがこの映画。『ダラス・バイヤーズ・クラブ』、ご紹介します。
80年代アメリカ。きままで放縦な生活を送っていた電気技師のロンは作業中事故にあい、病院に担ぎ込まれる。そこでロンは医師から、彼が既にエイズに感染していて余命一ヶ月しかないという衝撃の宣告を受ける。激しく動揺し、必死で生き延びる方法を探すロン。彼はメキシコで会った闇医者から、製薬会社の処方する薬品より裏で出回っている無許可の薬の方が免疫を高めるという情報を得る。その効果を身をもって味わったロンは独自のルートでそうした薬品を大量に仕入れ、エイズ患者に売りさばくことを思いつく。
冒頭で行われるロデオのシーンが象徴的であります。当時エイズに見舞われた人は遠からぬ死を待つほかない。ならばあっさりあきらめるか? それとも暴れ馬にしがみつくように、わずかでも生きる時間を延ばし続けるか… そんなロンの生き様を表していたのだな、とあとで気がつきました。
自分は「あと一ヶ月の命」なんて言われたら彼のようにあがけるかな、とふと考えてしまいました。それこそ重病ともたず馬から振り落とされてしまいそうな気がしてなりません。
ロンは「カウボーイ」であることにこだわり続けます。たぶん南部の男にとってはカウボーイこそが「男の中の男」ってやつだからなんでしょう。イギリスでいうところの紳士、日本でいうところのサムライみたいなもんでしょうか。
ただ最初のころの彼はやることなすことヘナチョコで、差別意識丸出しのカッコだけのカウボーイに過ぎません。ですが死の瀬戸際に立たされ、弱い人たちを思いやれるようになって真のカウボーイへと成長を遂げます。それを促したのが不治の病だというのがなんとも皮肉というか悲しいことですが…
あとこの映画は「オカマのすばらしさ」を描いた映画でもあります。ロンが変わるきっかけとなったのが病院で知り合ったオカマのレーヨンなのですが、このレーヨンがなんともいいヤツなのであります。
そういえば前に観た『レミントンとオカマゾンビの呪い』というフィリピン映画で、「オカマは陽気でオシャレで世の中を明るくするひとたち」と讃えられていましたが、レーヨンもそんなオカマの一人であります。ただ彼ら?が陽気で誰にでも優しいのは、差別を受けたり生きることの悲しさを人一倍知ってるからかもな…と映画を観ながら思いました。
『ダラス・バイヤーズ・クラブ』はアカデミー効果もあって上映館も増え、まだ当分公開してるものと思われます。
最後に主演のマシュー・マコノヒーについても少し触れておきます。わたしが彼の名を覚えたのは1997年の『コンタクト』。そのころは映画雑誌などで「さわやかなハンサムでキャーキャー」なんて書かれてたのですが、数年後の『サラマンダー』でいきなりこんな風になっててたまげました。
ツイッターでどなたかが「これで『サラマンダー』は二人のアカデミー男優賞受賞者が出演したすごい作品になった」とおっしゃってましたが、ここらで再評価の波が高まるとよいですね。
近日中にこちらではやはりマコノヒーが出演した『MUD』という映画が公開されるので、こちらも楽しみでありんす。
Comments
伍一くん☆
いろんな姿に変身するマコノヒーの最後の写真、ウケました。
本当に7変化どころじゃないですね。
そんな私はこのところシャーリーズ・セロン主演映画DVDを見て、その変貌振りに「マコノヒーもびっくりじゃん!」と驚いているところです。
Posted by: ノルウェーまだ~む | March 12, 2014 12:00 AM
お久しぶり。
マコとりましたー
知ってるとおもうけど
いよいよ翔がデビューです。
宜しくね
Posted by: mig | March 12, 2014 01:36 AM
>ノルウェーまだ~むさん
さっそくありがとうございました。
マコノヒーさんもすごいけど、ジャレッド・レト氏も『ミスター・ノーバディ』では青年から老人までこなしていて感服いたしました
シャリーズさんも割りと仕事を選ばない人ですよねw 『レインディア・ゲーム』でのビッチ役が好きです
Posted by: SGA屋伍一 | March 12, 2014 10:17 PM
>migちゃん
ご無沙汰しててごめんー
ディカプリオはかわいそうだったけど仕方ないか…
『1/11』はがんばって観にいく予定。最寄の劇場はいまんとこ平塚かな
Posted by: SGA屋伍一 | March 12, 2014 10:20 PM
デカプリオさんには次のアカデミーまでにガリガリに痩せてもらうか、ハゲでマッチョで「サラマンです!」な役を演じてもらう事にしましょう。それがアカデミー賞を手に入れるものに与えられた試練です。
Posted by: ふじき78 | March 21, 2014 02:35 AM
>ふじき78さん
やせたり太ったりが賞の評価につながるって、なんか釈然としないものがあります。それだったら公平にアカデミー賞にもバンタム級とかフライ級とか設けないと
Posted by: SGA屋伍一 | March 24, 2014 11:11 PM
伍一さん、
ほんと、マシュー・マコノヒーに尽きる映画でしたね。後一ヶ月の命って言われたら、、、、こういう風に生きる可能性もあるのかな?そうなって、真のカーボーイになったってむなしいけど。
Posted by: まみっし | March 25, 2014 05:04 PM
>まみっしさん
よく「細く長く生きるか、太く短く生きるか」なんて言われますけど、自分はやっぱり細々とでいいので長生きしたいですね…
ただこの映画、てっきり一ヶ月で死んじゃう話かと思っていたので、中盤からの展開は意外で嬉しい驚きでした
Posted by: SGA屋伍一 | March 26, 2014 10:20 PM