苦労執事 リー・ダニエルズ 『大統領の執事の涙』
毎年アカデミー賞の時期になると「最有力候補!」と宣伝されてるのに、いざ蓋を開けてみると「ノミネートされなかった…」という作品が幾つかあります。しかしそういう中にももちろんいい作品はあります。先日レビューした『ラッシュ』、そして今日ご紹介する『大統領の執事の涙』(邦題長いよ)がそうです。ではあらすじから。
20世紀初めのアメリカ南部。綿花農場で働いていたセシルの父は、横暴な領主に逆らったために撃ち殺されてしまう。セシルを哀れに思った領主の母は、彼が家の中で働けるよう「ハウス・ニガー」としての作法を教えたのだった。やがて成長したセシルは農園を出て、町で「執事」として働くようになる。そしてその働きを買われて、ついにはホワイトハウスに雇われることになるのだが…
突然ショッキングな場面からお話は始まります。しかし目を覆いたくなるのはせいぜい冒頭の10分くらいで、そのあとしばらくは平和で平凡な一家庭の風景が続きます。あまりの落差に戸惑わずにはいられませんでした…
原題は『Batler(執事)』。そのまんまです。けれど話の半分近くは執事さんの長男に割かれています。この長男というのがなかなかの親不孝者でして、過激なデモ運動ばかりに精出してお父さんを困らせるんですね。その身勝手振りには少々腹は立ちますが、わたしたちは彼の目を通して主だった黒人の政治運動の流れを追体験することができます。このあたりはなかなか勉強になりました。
一方お父さんのセシルは地道に勤勉に働くことによって、黒人の立場を向上することに努めます。劇中でキング牧師が「彼らはそうすることによって戦ってきたのだ」と語っていますが、セシルは息子とは180度違うやり方で同じ目標を目指していたわけです。また、彼の次男はベトナム戦争に参加することでアメリカ国民として認められようとします。
南北戦争のあとも米国の黒人たちはずっと人としての基本的な権利を、対等に扱われることを求めてきました。しかしそれにも本当にいろいろな試みがあり、そのどれもが忍耐を強いられるものだったことを思うと彼らには頭が下がるばかりです。それこそアカデミー賞受賞作品のタイトルではないですが、いつ来るともわからない夜明けをひたすら待ち続けるような、そんな戦いだったのではないでしょうか。
アメリカの事情には全く疎いので、今米国における黒人の立場がどの程度のものなのかはよくわかりません。もしかしたらそうした戦いも未だ続いているのかも。それでもオバマ氏が大統領になったことで、確実にひとつの目標を達したと言えるでしょう。
もちろんタイトルどおりに歴代の著名な大統領も次々と登場します。アイゼンハワー、ケネディ、ニクソン、レーガン… 自分のイメージとどれくらい違っているか確かめながら観るのも一興かと。
…とここまで書いてまいりましたが、『大統領の執事の涙』、近隣ではもう上映が終わってました(あちゃー)。興味を持たれた方は二番館の上映かDVD発売の情報をチェックしてみてください。
やはり黒人差別を扱った『それでも夜は明ける』も観たいんですが、相当ハードな内容らしいのでまだ二の足を踏んでおります…
« マジカル・樽ルート・ツアー J・R・R・トールキン ピーター・ジャクソン 『ホビット 竜に奪われた王国』 | Main | ワタシの名前はワジダ ハイファ・アル=マンスール 『少女は自転車に乗って』 »
Comments
こんばんは。
なんか息子のパートはフォレストガンプ見たかったですよね(^_^;)
やっぱ若いうちは一度くらい体制に歯向かってみたいもんですよ!
あとニクソンの次のフォードとカーターが割愛されたのが残念でした・・・でもレーガンが激似だったので許すw
あれれ、個人的に最もキャラ立ちしていたジョンソン大統領はケネディとニクソンの間に入るんですっけ??(大学で政治学やっているのにうろ覚え・・・
Posted by: ゴーダイ | March 24, 2014 11:14 PM
>ゴーダイさん
なかなか過激なことをおっしゃる(^_^;
もう少し前に生まれて学生運動に参加したかったクチでしょうか
わたしもカーターは最初に記憶にある大統領だったのでこちらでも見たかったですね。この映画で一番印象に残ったのはなんだかんだでやっぱりケネディ氏。
しかしああも強烈な個性派を次々と相手しなきゃいけないんだから、ホワイトハウスの執事ってめっちゃ大変そうです
Posted by: SGA屋伍一 | March 24, 2014 11:29 PM