オープン・ザ・プライス&ドア ジュゼッペ・トルナトーレ 『鑑定士と顔のない依頼人』
『ニューシネマ・パラダイス』が今もなお多くの人から愛されているイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレ。そのトルナトーレ監督の新作は、美術品の老鑑定士を主人公にした一風変わった恋愛ミステリー。『鑑定士と顔のない依頼人』、ご紹介いたします。
ヴァージルはこの道何十年という名鑑定家。彼は誰も気がつかぬ名画をこっそりサクラに競り落とさせて、自分のコレクションに加えて悦に入っていた。ある時彼の元に屋敷の美術品を鑑定してほしいという依頼が入る。約束の場に彼は向かうが、ものの見事に待ちぼうけを食わされる。その後も電話で連絡してくるだけで、一向に姿を現さない依頼人に激怒するヴァージルだったが、彼女の変わった境遇を知るにつれ次第にその素顔を見たいと願うようになる。
トルナトーレ監督といえば『ニュー・シネマ~』もそうでしたが、主にシチリア島を舞台とした「島映画」でよく知られています。しかし今回の作品はもろに街中・都市部が舞台。あまり彼らしくないな…と思いながら鑑賞にのぞみました。
けれど観てみるとやはりトルナトーレらしい要素が幾つかありました。ひとつは住み慣れた場所からいまひとつ外へ踏み出せない戸惑い・恐れが大きなモチーフとなっているところ。ヒロイン・クレアはある種の神経症からどうしても他人に会えない、家の外に出られないと嘆き続けます。そんなクレアが歩き回った後に転がっている謎の歯車。もしやクレアは…ロボなのか!? と島田荘司的展開を期待しましたが、果たしてどうだったでしょうか(笑)
あともう一個トルトレさんらしいところは、「切ない恋心」ってやつですね。言ってて恥ずかしいですよ! 大体もういいじいさんなのに若いピチピチの女の子に夢中になるってあなたは加藤茶ですか!? トシ考えろ! と言いたくもなりました。けれどまああまり女性に縁のない身としては、じいさんの胸のうちが非常によくわかってしまったりもして。ふうう。わたしもやがてあんな風になっちゃうんでしょうかねえ。
さて、こっからはネタバレで。
壁の中からなかなか出てこようとしないクレア。しかし映画が終わってみると、実は外に踏み出すことを恐れていたのはヴァージルの方だったことがわかります。
ヴァージルはクレアにけっこうきつい仕打ちを受けるのですが、彼が自分の殻を破るにはこれくらいの荒療治が必要だったのかもしれません。生身の人間ではなく美少女フィギュア…じゃなく肖像画の方に安らぎを感じるというのはやはり人間として不健全です。ですからそこから抜け出すためには、オタクコレクションを一気に手放さなきゃいけなかった…ということなのですね。
これ、書くと簡単なことですが、実際にオタクがそこまで踏み切るのは相当なプレッシャーや覚悟を要します。何度か引越ししてそんな経験をしているわたしが言うのですから本当です(まあ手放したのは全部じゃありませんでしたが…)。
「たとえ老人といえども、未来に向かって歩かなきゃいけないのだよ」という好きな漫画のセリフを思い出しました。
『鑑定士と顔のない依頼人』はたぶんまだ全国で公開中。たしか暮れくらいからかかってるのに、先日都内の某劇場で観たらほぼ満席だったのには驚きでした。
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Comments
お久しぶりです。
これ3月と4月に2度劇場で観ました。
一度観たらもう一度観たくなるんですよね。
騙しぶりを確認したくなっちゃう・・・
おおお,こいつもグルだったんだねぇ・・・とか。
わたしの行ったミニシアターでは,この作品はリピーターは二回目は割引してくれました。
オタク老人の初めての女性がこんな若い美女だなんて
そりゃ騙されるしはまり込んでしまうだろうなぁと
私も痛々しく,少しは呆れながら観てしまいましたが・・・
ところで「猫侍」という映画はごらんになりましたか?
わたしは予告編しか見てないし今後も観に行く暇はないのですが
出てくる白猫ちゃんがめっちゃ可愛いです。
Posted by: なな | May 07, 2014 12:56 AM
>ななさん
ご無沙汰しててすいません。おいでくださってとっても嬉しいです
いい映画でしたがわたしは二度観るのは辛いな…
きっとだまされてるんだろうけど、そうでないといいな…と思っていたらあらやっぱり、と。わたしとしてはめずらしく予想が的中しましたができれば外れてほしかったな~
でも、最後のヴァージルの表情は傷心だけではなく、一皮向けたいい顔になっていたと思います
『猫侍』は気になっていたんですけど、こちらでやってた時他に見たい作品が集中してて見逃してしまいました。DVDで出たらぜひチェックしたいと思います。主に猫を!
Posted by: SGA屋伍一 | May 07, 2014 09:52 PM