汝の敵(ライバル)を愛せよ ロン・ハワード 『ラッシュ/プライドと友情』
「レースとジェームズのラウダ」というタイトルも考えましたが、わかりづらいのでやめました。『アポロ13』『ビューティフル・マインド』と、知られざる実話を巧みに映画化することにかけては定評のあるロン・ハワード。本日はその「知ってるつもり!?」シリーズ最新作『ラッシュ/プライドと友情』をご紹介します。
1970年代、F1界で注目を集めていた二人の天才がいた。派手な性格で情熱的な走りを見せるジェームズ・ハントと、メカマニアで冷静なレース運びをするニキ・ラウダ。彼らはサーキットの中では順位を争い、外では舌戦を繰り広げる。そんな二人のデッドヒートが極に達した1976年のドイツGP。雨の中決行された本戦において思いもよらぬアクシデントが彼らを待っていた。
F1のことはそんなに知らないのですが、日本でブームになった90年代後半はわたしもちょくちょく見てたりしました。そんなわけでF1といえば思い出すのは若くして亡くなったアイルトン・セナ。思わせぶりな予告編を見て「これはどっちか死んじゃうのかな…」なんてひどいことを考えてました。
いまはもう少し安全基準も上がったのかもしれませんが、当時のF1は「年間2人が死ぬ」という狂った状況だったそうです。当然ハントもラウダも恐怖を感じるわけです。ハントなんて走行の直前に必ず吐いてるほど(笑) それでも死と紙一重のレースにこそ生きがいを感じている。やっぱり飛びぬけた才能を持っている人ってのは、どっかおかしいところがあるんですよ。そんな変人二人なんで最初のうちはどちらにも感情移入し辛いんです。スポ根漫画だったら主人公は大体好感の持てるキャラになってるんですけどね(^_^; しかし中盤のある「事故」以降は「ラウダもハントもがんばれ!」と、手に汗握って応援するようになってしまいました。監督、脚本、俳優陣の力量に見事にやられたという感じです。
以降はほぼ結末までネタバレで…
「競争」ってあまりいい印象の言葉ではないですよね。下手すると自分が勝利を得るためには相手を蹴落としてでも… そんなイメージすらあります。けれどこの映画では「競争」の最も美しい面が描かれています。「あいつに勝ちたい」という思いが想像を絶するような苦痛をも乗り越えさせ、重傷を負った体を驚異的なまでに回復させてしまう。時として競いあうことは絶望の淵から人を這い上がらせることもあるんだなあ…と。彼の主治医が言った言葉…「あなたのライバルを、神からの祝福だと思いなさい」…が胸にずーんと響きました。
一方でこの映画は「勝利」というもののもろさというかあやふやさも描いています。最終決戦においてラウダは自ら勝負を降ります。奇跡的な復活を遂げ、まだ充分レースができることがわかった。そのことだけで彼は充分満足してたのだと思います。
対してハントは念願の勝利を収めたあと、急激に勝負への意欲が失せてしまったようで。本当に欲しかったものを手に入れてしまうと、また新たな目標を見つけるのはなかなか難しいものなのでしょうね。
勝利よりも大切なものを見つけたラウダ。勝利し続けることへの熱意をうしなってしまったハント。富士GPでの決戦のあとの二人には、最高に盛りあがった祭りのあとのなんとも言えないさびしさが漂っています。
二人が激しくぶつかった1976年という年はF1において恐らく奇跡のような年だったのでしょう。しかし奇跡というものはそうそうあるわけではない上に、あっという間に終わってしまうものなので、それだけに彼らの名勝負のはかなさが際立ちます。
ちなみにウィキぺディアを見ると知りたくなかったことも二三書かれてます(笑) やはりこれは映画ですから、実話が元といっても脚色も色々あるでしょう。しかしそれまでオファーを断り続けてきたラウダが、「この映画は本物だと思った」と述べていますので、完全なる再現ではなくても、実際に起きたことの本質をつかんだ映画なのだと思います。
『ラッシュ/プライドと友情』はアカデミー作品賞にノミネートこそされませんでしたが、選ばれた作品と比べて充分遜色のない作品だと思います。おすすめ。まだ公開されてるうちにごらんください。
それにしてジェームズ・ハント、幾らもてるからといってナースにモデルにCAを次々と…ってうらやましすぎだろ… ぼくも今からF1レーサーめざそうかしら。
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