河は流れてドロドロ行くの ジェフ・ニコルズ 『MUD』
今年で三回目となる『未体験ゾーンの映画たち』。昨年はこちらでも十本ばかり上映してくれたんですが、今回は代表的な一本だけがやってきました。でもそれが一番観たかったので良いのです。アカデミー主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒー出演の『MUD』、ご紹介します。
アメリカ南部。エリス少年は友人と探検に行った河の中の無人島で、MUDという風変わりな男に出会う。彼はある「用事」のためにその島に着の身着のままで滞在しているという。両親の不仲で気の塞いでいたエリスは、不思議な魅力を持つMUDにどんどん親しみを覚えていく。だがエリスはMUDを追って恐るべき男たちが町にやってきたことを知る…
ポスターには大きく「現代版『スタンド・バイ・ミー』」と書かれてるんですが、わたしが思い出したのは西部劇の名作『シェーン』。とある町にやってきたガンマンと少年の交流。心温まるエピソードが続く中、やがて男とならず者たちの対決の時が迫る…というあたりが。
ちょっとひっかかったのはMUDという男がそれしか手段がなさそうとはいえ、子供たちに危ないことをやらさせすぎなんですよ。いい大人だったら彼らが無法者たちに襲われることも考えて、「もう俺のことはかまうな」と遠ざけるはず。しかしこのMUDさんはよくも悪くも子供がそのまんま大人になったような男なんですよね。よく言えば純粋。悪く言えばずうずうしい(笑) そんな大きな少年のようなところに、エリスは友達として魅かれていったのだと思います。
個人的に「あるあるある」と思ったのはエリス少年の初恋のくだり。彼は三つ年上の高校生を好きになり、彼女もまんざらではない感じだったのですが、結局はエリスを「年下の男の子(ガキ)」としか見てないのですね。ひとしきりかわいがったあとガラッと冷たくなってしまう。
年上の女性に限らず、そして少年に限らずこういうことってありますよね。めっちゃ盛り上がって楽しいひと時を過ごしたから「俺のことが好きなんだな!」と調子に乗ってたら、次に会ったとき「いや、別に」みたくなってる(笑) ひどいや… ひどいよ… それとも単にわたしが非モテだからそういう目に逢うのでしょうか。
印象的だったのはエリス君がお父さんの運転するトラックの荷台から、通り過ぎる町並みを眺めるシーン。環境も友人も矢つぎばやに変わっていく少年時代を象徴するかのような場面でした。最近はSNSの発達でむかーしの友達ともひょっこり会えたりできますけど、それでもどこへ行ったかわからない友達もいたり。そんな古い友人のことを思い出してちょっと感傷的になったりしたのでした。
『MUD』は決して公開規模は大きくありませんが、日本の各都市でこれからも細々と上映される予定。アメリカ南部の風景や自然、R・R・マキャモンの小説が好きな人におすすめです。
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