氷の世界の車窓から ポン・ジュノ 『スノーピアサー』
パク・チャヌクに続けてハリウッド進出を果たした韓国映画の雄ポン・ジュノ。本日はフランスのコミック(BD)を原作としたそのディストピア映画『スノーピアサー』をご紹介します。
近未来、人類は温暖化を防ごうと大々的に化学薬品を散布した結果、世界全域を極寒の地へと変えてしまう。半永久的に走り続ける列車「スノーピアサー」に逃れた人たちのみが、人類の生き残りとなった。その最後尾に押し込められたグループは、上層階級の奴隷として最低限の食事と劣悪な環境を強いられていた。グループのリーダー・ギリアムとカーティスはより良い暮らしのために、列車の独裁者であるウィルフォードを倒すべく仲間たちとともに武器を取るが…
「雪原を走る列車」というとなんとなく川端康成の『雪国』が思い浮かびますが、内容的には小林多喜二の『蟹工船』の方が近いかもしれません。
ハリウッドデビューということでポン・ジュノのカラーが充分発揮されてるかあやしみながら鑑賞に臨みましたが、ちゃんとポン氏らしい要素があちこちにちりばめられておりました。
わたしが思う「ポンらしさ」とは、まずシリアスな場面で場違いとも思えるような変なギャグが入ってくるところ。『殺人の追憶』における「犯人はあそこの毛が全然ないやつなんですよ!」とか、『母なる証明』におけるカラオケ紹介シーンとか。今回でも中盤あたりでいろいろ炸裂してました。あと「こどもがひどい目にあう」とか、「権力(政府)は役に立たないか悪」という点もこれまでの作品と一緒でした。
一見王道のアクションものと見せかけて、徐々に変化球的な展開になっていくあたりもポン監督らしいといえばらしい。普通娯楽的に盛り上げるのであれば、ストーリーがラストに近づくにつれどんどん強い敵を出してくるものだと思います。ところが『スノーピアサー』ではバイオレンス面での盛り上がりは真ん中辺あたりで頂点を向かえ、あとは「この列車がいかにヘンテコか」ということを主人公たちの目を通して語り続けます。ひとつドアを開けるたびに、予想だにしなかった光景に唖然とするカーターたち。まるで次から次へとビックリ箱を開けていくような楽しさがありました。
この「スノーピアサー」という列車は世界や国の縮図でもあります。その中には様々な人たちが暮らしていて、軋轢もあれば内紛もあります。そして常に一定の状態にとどまらず変化を続けている=走り続けております。
作品の中では資本主義にしろ共産主義にしろ、多くの国家が抱えるであろうジレンマが語られます。国家は秩序を維持するために人々を管理し、法に従わせようとします。しかしそれが行き過ぎると国民を虐げて抑圧しているのと変わりなくなってしまう。かといって法や警察の力が弱ければ治安は荒れ、やはり弱者は苦しむことになります。観ている側としては弱き者たちのために立ち上がったカーティスを応援したくなりますが、やがてその行動が本当に正しいのかどうか、列車の先に進むほど彼と共に悩むことになるでしょう。
そうそう、「結末がもやもやする」というのもポン・ジュノ作品の大きな特徴でありました。果たしてこの映画もそうだったのかは、自分の目で見て確かめてください。
『スノーピアサー』はまだたぶん全国の映画館で公開中。ただわたしの住んでるところの近くでは上映予定がなかったので、プチ遠い平塚まで車で観にいったら雪に苦しめられたのはいい思い出です。
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