そのままの髪でいて デイビッド・O・ラッセル 『アメリカン・ハッスル』
アメリカン・サイコ、アメリカン、ジゴロ、アメリカン・ビューティー、アメリカン・パイ、アメリカン・ヒストリーX、アメリカン・ギャングスター…
なぜか「アメリカン」と付く映画は道徳心の欠如したような連中の映画ばかり。まったくもう! アメリカ人は!
本日ご紹介するアカデミー賞有力候補のこの作品もそんな映画です。『アメリカン・ハッスル』、まいりましょう。
1970年代アメリカ。「だまし」の才能に恵まれたアーヴィングは、愛人のシドニーと共に素直な人からお金を掠め取る毎日を送っていた。だがある時とうとう警察に証拠を握られ、最愛の息子と引き離されそうになる。FBIはそんな彼に奇妙な交換条件を持ちかける。詐欺のノウハウを伝授して同業者を差し出せば、罪は問わずに自由の身にするというのだ。選択の余地のないアーヴィングは無精無精それを承知するが、担当の刑事ディマーソが野心を膨らませたために事態はどんどん収拾がつかなくなっていく。
これまた「実話に基づいた」映画であります。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』や『アメリカン・ギャングスター』もそうでしたがアメリカの警察ってのは面白いですね。使えそうな知能犯は罰するよりもエサを与えてアドバイザーとして利用するんですね。「立ってるものは親でも使え」とも言いますが、それじゃ公平な裁きというのものはどうなるんでしょう! でもまあそうすることで善良な人々がより犯罪から守られるのであれば、「それもアリか」という気もします。いずれにしても建前よりも実益を重んじるアメリカさんらしい発想ですよね。
冒頭でアーヴィングが薄くなった頭に丹念に丹念にかつらをセットする姿が、この映画のテーマをよくあらわしています。すなわち、人は嘘をつく生き物であり、みんなの前ではなかなか本当の自分を見せないということであります。クリスチャン・ベール演じる主人公のように詐欺の常習犯とまではいかなくても、自分をかっこよく見せようと必死に取り繕ったり、生活のために好きでもない仕事を喜んでやっているようなフリをしたり…ということはよくあると思います。あなたはそういうことありませんか? なに、ない!? そんなあなたとは友達になれそうもありませんね!!
…失礼しました。でもまあそういう風に自分を偽り続けるってことは疲れるんですよ。普通の人間ならね。真っ正直な友達に、なかなか自分の本心をさらけだせない場合はなおさらそうです。アーヴィングも悪党としては根っからの悪党ではなく、良心と呪われた「詐欺」という才能の間でゆらゆらと揺れ動く男。ただそこはデビッド・O・ラッセル得意の喜劇調で描かれているので、彼の悩みは見ていて面白かったりします。
そんなアーヴィング=クリスチャン・ベールを支えるのが、芸達者で派手でくどい役者さんたち。キザな色男の役が多いブラッドリー・クーパーは、キザであることは変わらないものの、その裏のかっこ悪さも色々見せてくれます。アーヴィングのパートナー・シドニーを演じるのはエイミー・アダムス。こちらは普段はさっそうとしたヒロインのイメージですが、今回は脇の涼しそうな横乳のはみ出た服で痛々しい印象を振りまいております。
もう一人印象的だったのがアーヴィングの若き「正妻」を演じるジェニファー・ローレンス。これがもうわかりやすい絵に描いたような「どビッチ」役。『オン・ザ・ロード』のクリスチャン・スチュワートもそうですが、ティーン向け映画のアイドルとしてガッポガッポ稼いでるだろうに、どうしてこうあえてビッチの役を選ぶのでしょうか。それが「役者魂」ってやつなんでしょうかね。
そして監督は先も述べたデイビッド・O・ラッセル。彼の作品はダメダメな人々がダメっぷりをさらけ出しながらも、あることをきっかけに「ダメ」から脱却しようとする、そんな映画が多い気がします。そして近年の作品ほど題材が地味になり、評論家の評価が高まっているような。
ラッセル監督はこの映画を撮る直前離婚を経験してえらいストレスにさいなまれたんだとか。なるほど、その影響かたしかに『スリー・キングス』や『ザ・ファイター』などと比べると、『アメリカン・ハッスル』では人間関係のややこしさや面倒臭さが濃厚に漂っておりました。結婚とはまさしく人生の墓場でありますなああ。
それはともかく、そんな自分の悲劇をも創作の肥やしにしてしまうというのはクリエイターとしては見上げたもの。これからもどんどん不幸な目にあってどんどんいい映画作ってほしいと思います。
若干フライングした感はありますが、『アメリカン・ハッスル』は「アカデミー賞作品賞最有力候補!」ということでまだ少しは公開しているでしょう。来るべき3月3日、雌雄を決するのは『ゼロ・グラビティ』か本作か!?(『それでも夜は明ける』かも…)
Comments
伍一くん☆
あらら?どうしましたかー?
「結婚は人生の・・・・・」うーん、いい言葉が思いつかないけど、少なくとも墓場ではないよ~ん☆
ジェニファー・ローレンスは普通のかわいい子ちゃんとか、普通の恋愛ものとかには一生出ないのでしょうね。そんな気がします。
そしてそこが彼女のいいところでもありますね。私は好きです☆
Posted by: ノルウェーまだ~む | February 25, 2014 06:14 PM
>ノルウェーまだ~むさん
すいません…
いつまでも結婚できないひとりモンのやっかみとお笑いください… ふふふふ…
全米のキッズたちから「もっとも好きな女優」の一人に選ばれたジェニローちゃんですが、先日「一年間休養する」という宣言がありましたね
ゆっくり休んでまた危なっかしい役に挑戦してほしいです
Posted by: SGA屋伍一 | February 27, 2014 04:18 PM
伍一さん、
あまりにも御無沙汰していてすみません。
この映画、オスカーの最高粋から外れましたね。
演技は皆様、上手かったと思っていましたが。
私、サントラまでゲットしてます。
ちょっと古臭い感じで、常に聞きたいとは感じませんが。
伍一さんは少なくとも今まで悪い女に騙された事がないのですね ?
失礼しました。
Posted by: まみっし | March 04, 2014 12:55 AM
>まみっしさん
おお、コメントありがとうございます。嬉しいです!
昨日のアカデミー賞はまたもりあがりましたねー 『ゼロ・グラビティ』の対抗馬としていっぱいノミネートされてたのに、ことごとくはずれてしまったのでちょっと気の毒でした
わたしもオールディーズ好きなのでこの映画の音楽は心地よかったですね。クラブでクリスチャン・ベールとジェレミー・レナーが『ディライラ』を熱唱するあたりが好きです
悪い女にだまされたことはないけど、わがままな女子に振り回されたことはあった…なんて話を前にしませんでしたっけ(^^;
Posted by: SGA屋伍一 | March 04, 2014 10:23 PM