吸いたいヤクも吸えないこんな世の中じゃ ジョニー・トー 『ドラッグ・ウォー 毒戦』
地方に住んでおりますと「名前はよく目にするけれど、作品を映画館で観たことがない」という監督がけっこういます。中国映画の雄ジョニー・トーもそのひとり。『エグザイル 絆』とか本当に観たかったんですけど、そういうときに限ってなかなか遠出できなかったりして。
そのジョニー・トー作品がとうとう最寄のコロナO田原で上映される!と知り、喜び勇んで初日に観にいってまいりました。『ドラッグ・ウォー 毒戦』、紹介いたします。
麻薬組織壊滅のために日夜奔走し続ける中国公安警察。麻薬の製造に深く関わっていたマフィアの幹部テンミンは、工場の爆発がきっかけで鬼警部ジャンに捕らえられる。なんとか極刑を免れたいテンミンは、警察に協力する見返りとして減刑を願い求めるが…
おそらく今世界で最も麻薬に厳しい国は中国でしょう。かの国における麻薬の密輸は重罪で、見つかったらよくて無期懲役、悪くて死刑らしいです。そりゃいけないことだとは思いますが、「○キロ持ってたら死刑確実」って、それもまた極端ではないかと思います。
それでもまー、やっちゃう人はやっちゃうんようで… 貧困が彼らを追い詰めていくのか、単にバカなのか。ともかくどんなに政府が脅しても、お薬に手を出す人は一定数おられるようです。
メインとなるキャラクターは二人。まずマフィアのテンミン。麻薬を作って売りさばいてたくらいなので当然悪人です。でもその悪人ぶりがいちいち中途半端なんですよね。組織の仲間を裏切ることに負い目を感じていたり、自分を虐げる警部のことをちょいちょい助けてやったり。でもいざ自分の命が危ないとなると、なりふり構わず保身に徹する。そんなところがなんとも情けなく、かつ共感してしまう男です。あと無駄にイケメンでした。
そんなテンミンと対照的なのがいささか怪物的なジャン警部。普段は無口で無表情ですが、マフィアを陥れるためには突然饒舌になってゲラゲラ笑い出したりもする。で、演技する必要がなくなったらまたすっと仏頂面に戻る。彼の非人間性と比べると『踊る大捜査線』の青島刑事などはあまりの隔たりぶりに、本当に同じ刑事なのかと疑りたくなるくらいです。
テンミンだけではなく、彼の後に従う捜査官たちもみんなこんな感じです。軽口をたたくこともなく、ただ黙々と侵食を削って密輸組織を追いかけていきます。たまに疲れた同僚を気遣っている描写などに、辛うじて人間らしさが垣間見えるくらいです。事件を解決してもスポットライトを浴びるでもなく、絶えず命の危険にもさらされているというのに、何が楽しくてこんな仕事に情熱を注いでいるのでしょう。特に警部の右腕存在的な女性刑事がこんなハードな職業にはもったいないくらいの美人で、「なんであんたは刑事なんてやってるんだ! モデルか女優でもやっててくださいよ!」と思わずにはいられませんでした。
以下、ネタバレ気味で
この『毒戦』、ストーリーのほとんどは警察がマフィアをつぶすべくあれやこれやと罠をはりめぐらせる部分に費やされています。「そこまでまわりくどいことをせずとも、目の前のそいつをとっとと捕まえちゃえばいいのに」と自分のような素人は思います。でもまあもっとでっかい獲物を、ねっこから粉砕すべく一生懸命忍耐してるんでしょうね。
ところがそんだけ労を費やした作戦が、ちょっとした見落とし?から大崩壊してしまう。この辺に頭を抱えてしまうか、スカッとカタルシスを感じるかでこの映画の評価が別れると思います。
20代の映画ファンにはこういうニヒリズムや突き放した感性が好きな人が多いみたいですね。でも自分は年のせいか、最近破滅に向かってひた走っていく作品はなんだか観ていてぐったりしてしまうのでした。まあ世の中確かに非情で残酷なもんかもしれないけれど、あたしは嘘でもいいから夢が見たいのよ! やさしさが欲しいのよ!
というわけで楽しみにしてたわりに疲労感に包まれてしまった『毒戦』ですが、パワフルでエキサイティングな話であることには間違いありません。息詰まるデッドヒートがお好きな人におススメします。
ちなみに今回の画像、わたしが描いたものではもちろんなく、とあるまとめサイトから引っ張ってきたものです。なかなか笑えて教訓になるのでよかったらご覧ください
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