沈黙の貨物船 ポール・グリーングラス 『キャプテン・フィリップス』
世の中いろいろなキャプテンがおります。最近の有名どころだとキャプテン翼、キャプテン・アメリカ、キャプテン・ハーロック、キャプテン渡辺… やはりキャプテンと言われる人は心のうちで「あ、まずいかな」と思っていても、「大丈夫大丈夫!」と勢いでみんなをひっぱっていく… そんな存在でありますね。
そんなキャプテンにこのたびハリウッドを代表する名優トム・ハンクスが挑みます。監督は『ボーン』シリーズのポール・グリーングラス。『キャプテン・フィリップス』、ご紹介しましょう。
2009年ソマリア沖。フィリップス船長の指揮のもと航行していたマースク・アラバマ号は、海賊の乗った二隻のボートに追跡される。これといった武装もなく、非戦闘員しか乗り込んでいないマースク・アラバマ号は、果たして海賊の攻撃を逃れることができるか…
ま、ここでさくっと逃れられたらこれ、映画にはならないわけですね。クルーたち(特に船長)は、海賊たちを相手に死と紙一重の攻防をえんえんと繰り広げることになります。
これがフィクションのアクション映画であれば一度海賊に船が占拠されたあとに、傭兵あがりの主人公が化け物みたいな強さを発揮して、海賊たちを一人、また一人と血祭りにあげていくんでしょうね。しかし残念ながらこれは「実話をもとにした話」であり、主演はあんまり強くなさそうなトム・ハンクスです。戦闘力がなきに等しいキャプテン・ハンクスの武器は機転とハッタリとなだめすかし以外にありません。そして必ずしも主人公が助かるとは限らないのが「実話をもとにした話」の恐ろしいところです(世界のニュースに詳しい人であれば結末がどうなるか知ってるかもしれませんが…)
また、わかりやすいエンタメ映画だったら、海賊たちは血も涙もない極悪非道の輩として描かれるでしょう。まあ確かに銃をぶっ放して物資を略奪しようなんて連中なんだから悪いことは悪いんです。ただ彼らが船を襲うようになったそもそもの原因は貧困にあること、仕事をしないとボスからお仕置きされてしまうということ、仕事が成功しても組織から儲けをかなり巻き上げられてしまうこと、そしてぼろっちい装備と限られた人数で巨大な船を拿捕しなきゃならないこと… そういった背景を考えますと、「いかんいかん」と思いつつもどんどん海賊たちに同情したくなってしまうのでした。そして海賊さんたちは手際の悪さからついには世界最強の米国海軍を敵に回すことになってしまいます。これが同情せずにおられましょうか…
それはフィリップス船長とて同じことです。命が助かりたいということや、ストックホルム症候群も手伝ってるとは思います。でも後半船長は明らかに彼らの身を案じておりました。果たしてみんな助かってめでたしめでたしのハッピーエンドを迎えられるのか… それはご自分の目で確かめてみてください。
ツイッターなどでも観た方々は一様に海賊に同情的でしたw そのことをとっても、これが単なるアメリカ万歳映画、「米軍最強! ヒャッハー!」と言いたい映画でないことは明らかです。今後も起きるであろう世界のひずみが生み出すこういった悲劇の原因はどこにあるのか、どうしたらなくすことができるのか… そう考えずにはいられません。
ポール・グリーングラス監督の『ボーン』シリーズや『グリーン・ゾーン』を観ても、彼が米軍を100%肯定してるのでないことがよくわかります。ただそれなりに必要なのでは…いう主張もうかがえます。『グリーン・ゾーン』といえば「大量破壊兵器はありませんでした! でも現場の兵士たちは知らなかったから悪くないんです!」と若干居直ってるようなところがあり、ポカーンといたしましたw それに比べれば今回の『キャプテン・フィリップス』は素直に監督の心情に素直に寄り添えた気がします。
強引に結論をまとめますと、やっぱり海賊行為は漫画やフィクションだけにとどめておこう、ということですね。実際にやったらろくなもんじゃないということがよくわかりました。
そんなわけでぐれかかってる青少年たちにぜひ見てほしい『キャプテン・フィリップス』ですが、いまいち花のない主演・題材のせいかのっけから失速気味です。興味があってまだ観にいけてない方は早めに映画館に行ってください。
Comments
伍一くん☆
えー?これ失速ぎみなの??
私はすっごく気に入って、今年のベストにいれたいくらいょ♪
なにより、トム・ハンクスの演技が素晴らしかったわ。
海賊くんたちにも同情せずにはいられないけど、やっぱりパイレーツオブカリビアンのようにはスッキリとはいかないですねぇ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | December 17, 2013 04:36 PM
>ノルウェーまだ~むさん
すでに今週の興行成績トップ10からは姿を消してしますね… それよりももっと『47RONIN』の方がやばいみたいですが
半裸にさせられてネチネチといたぶられてるトムさん、大変そうでしたね… ああいうのお好きな人にはたまらなかったりするんだろうか
冗談はともかく、もっと多くの人に観てもらいたい映画であります。そういえばジャック・スパロウも大抵はお宝は入手できず、素寒貧で去っていくパターンでしたよね
Posted by: SGA屋伍一 | December 17, 2013 11:12 PM
> 戦闘力がなきに等しいキャプテン・ハンクスの武器は機転とハッタリとなだめすかし以外にありません。
黒魔術とか持ってたら面白いのに。
Posted by: ふじき78 | December 21, 2013 02:54 AM
>ふじき78さん
貨物船の船長では厳しいかと思いますが、幽霊船の船長だったら使えそうですね
Posted by: SGA屋伍一 | December 22, 2013 06:16 PM
>傭兵あがりの主人公が化け物みたいな強さを発揮
セガールですねwタイトルは『沈黙の船長――怒りのソマリア』で決まりだぜ!
この映画、評価高いと思ったんですが、興行収入はイマイチなんですか・・・やっぱ麦わら海賊団のがいいのかなあ(^_^;)
この人質事件はアメリカでは当時、大々的に報道されたみたくて、シールズを派遣したオバマさんも焦ってたんでしょうね。日テレの「世界仰天ニュース」でやりそう、ていうか既に取り上げてそうな話です。
あと船の名前マークスじゃなくて「マースク」アラバマ号(※言いづらい)だった気がします!
Posted by: 田代剛大 | December 23, 2013 10:31 PM
>田代剛大さん
「怒りの~」とつくあたりランボーと混じっちゃってますねw
麦わら海賊団といえば今冬はワンピースの映画ないですね。かわりに陸上の盗賊がコナンと対決して荒稼ぎをしております
人質事件といえばやはりフランスの実際にあった話を映画化した「神々と男たち」という作品があったのですが、チラシに思い切り結末が書いてあって脱力しました… そりゃフランスじゃみんな知ってる話なんだろうけどさー
>あと船の名前マークスじゃなくて「マースク」アラバマ号(※言いづらい)だった気がします!
訂正ありがとうござります!
Posted by: SGA屋伍一 | December 25, 2013 10:27 PM