走れアレックス レオス・カラックス 『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』
今年13ねんぶりの新作『ホーリー・モーターズ』が公開されたフランスの鬼才レオス・カラックス。そのカラックスが1983年から1991年にかけて手がけた「アレックス三部作」が高田馬場で一挙上映されるというので、1作目『ボーイ・ミーツ・ガール』と2作目『汚れた血』を観て来ました。わたし三部作ってのに弱いんですよね… ほら、一作だけではわからなかったことが、三作通してみるといろいろ見えてくるようになることってあるじゃないですか。そういうカタルシスを期待して。ちなみに以前観た3作目『ポンヌフの恋人』のレビューはコチラ。
☆『ボーイ・ミーツ・ガール』(1983)
兵役を控えている上に、親友に恋人をとられてどんぞこ状態の青年アレックス。彼はあてどもなく夜の街をさまよい、様々な人たちとわずかな時間触れ合っていく。その中の一人ミレーユに強く弾かれた彼は、彼女に熱心に愛をささやくが…
3作中最も淡々とした語り口の作品。そしてこの作品のみモノクロ。内容、鬼才のデビュー作であること、発表年代など、ジム・ジャームッシュの『パーマネント・バケーション』といろいろかぶっているような。
☆『汚れた血』(1986)
「生活をたてなおしたい」と願う貧しい青年アレックスは、亡父の仕事仲間だったリーズとマルクに誘われて、奇病の治療薬を盗み出す計画に加わる。準備を進めていく中で、アレックスはマルクの恋人のアンナに心を奪われてしまう。だが彼の揺れ動く思いをよそに、決行の日がやってきた…
恋愛もの、青春ものであると同時にフィルム・ノワールでもあり、地味なSF映画でもある。ただ最も重きが置かれているのは、やはりアレックスとアンナの奇妙な恋模様ではないかと。
三作品ともかなりカラーが違います。それでも共通項をあげてみると
・主人公はアレックスという名の青年である
・アレックスは一方的な恋愛にのめりこんでいく
・そして相手も思いを寄せられて悪い気はしていない(だからややこしくなる)
・アレックスが豪快にダッシュするシーンがある
こんなところでしょうか… 特にわたしが心惹かれるのは最後にあげたアレックスが力の限り疾走する映像ですね。若さゆえにもてあます激情を、がむしゃらに走ることで全身で表現しております。演じるドニ・ラヴァンのしなやかな肉体がおじさんの目にはまぶしかったです。ホモじゃないですけど。
あと三作品比較してみて気づいたのは後の作品ほど
・わかりやすい話になってる
・ヒロインとの仲が親密なものになっている
・予算が上がっている
・それとは対照的にアレックスの生活水準はどんどん落ちぶれていく
・アレックスの頭髪が薄くなっていく
導き出される結論は… 偉い人、どなたか教えてください。
貧乏で自分の足で走っていたアレックス君。しかし『ホーリー・モーターズ』で同じドニ・ラヴァンが演じる謎の男オスカーはもっぱら走るのは車にまかせ、かなりはぶりのいい暮らしをしている様子。これはもう恋愛含めて「若いころの問題はもう解決しちゃったよー」ということなのか… 考えすぎですかね。
『ボーイ・ミーツ・ガール』の方は若干我慢タイムみたいなところもありましたが、それでも伝説と言われる二作品を観る事ができてよかったです。唯一ドニさんが主演でない『ポーラX』もいずれ観てみたいものです。
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