« 荒野の忠臣蔵 カール・リンシュ 『47RONIN』 | Main | 迷子と迷子の子猫ちゃん ロマン・カチャーノフ 『ミトン+こねこのミーシャ』 »

December 25, 2013

彼女が宇宙服に着替えたら アルフォンソ・キュアロン 『ゼロ・グラビティ』

1おととしでしたか、「はやぶさ」ブームの影響でその関連の映画が立て続けに三本くらい作られたことがありましたっけ。残念ながらどれも不振に終わりましたが、2013年も終了間際に来てえらく気合の入った宇宙映画が海の向こうからやってきました。『ゼロ・グラビティ』、ご紹介します。

おそらく近未来。宇宙飛行士のライアンとマットは、船外作業の最中運悪くロシアのミスで生じた大量のデブリ(宇宙ゴミ)の嵐に遭遇する。なんとかデブリをやりすごした二人だったが、彼らの拠点である宇宙ステーションSIIは壊滅的な打撃を受けていた。ほとんど身一つで投げ出されたライアンとマットが生き残る道は、ロシアの宇宙船ソユーズまで遊泳してたどりつく以外にない。限られた酸素と燃料で果たして彼らはその離れ業を達成することができるのか…

映画館で映画を観ることの利点のひとつは、やはり「大きいものが大きく見える」という点です。しかしこれもけっこうテクニックがいることでして、大スクリーンでうつっていても構図や画質によってはあまり大きく見えないことがあります。しかしこの『ゼロ・グラビティ』は地球と宇宙をでかく見せることに最大限の努力が払われております。まさにスクリーンで見ることによって真価を発揮する映像と言えます。
そしてでかいものがでかく見えることによって、小さいものはホント~~~に小さく見えます。人間なんか、もう点です。ドットです。映画をたくさん観てますけど、これほどまでに点に感情移入したのは初めてかもしれません。

あとアニメファンとしては『ガンダム』等でなじんできた、宇宙におけるあれやこれやの描写…慣性の法則や軌道転換、大気圏突入など…をリアルな映像で観られたのにも興奮しました。

フィクションながら宇宙飛行士という人種のものすごさもよくわかるお話でした。あれは食玩の解説に書いてあったエピソードでしたが、航行中、配線の間違いか何かで宇宙船が高速回転しはじめた例があったそうです。全員が失神する直前になんとか停止させることができたそうですが、クルーのひとりは地球に帰還後このトラブルをさらっと「ちょっとしたトラブルがあった」と語ったとか。最後の一分一秒まで諦めずに最善をつくす。宇宙飛行士というのはみんなそういう「鋼の魂」ってのを持ってるんでしょうね。

そしてこっからはラストまでネタバレしてますが…



これはライアンという女性の再起…というか生まれ変わりの話でもあります。
主人公ライアンはあるショックな出来事のために「生」に対しいまひとつ執着がもてないでいます。しかし自分を助けてくれた人や、死のギリギリの淵に立つことでようやく新しい自分へと生まれ変わっていきます。

無重力でぷかぷかと漂うライアンは胎児のようであり、切り離されるワイヤーは誕生の際断たれるへその尾のようであります。無数の破片と共に大気圏へ突入していくシーンは受精卵に向かう精子のようでもありますね。そして宙に浮くことしかできなかった彼女は、最後に大地を踏みしめてしっかりと立ちます。

あとで『2001年宇宙の旅』の有名なシーンや、キュアロン監督の前作『トゥモロー・ワールド』を思い出して、ますます「誕生」「赤子」と深いかかわりがあるような気がしました。
映画の時系列だと、へそ切断→受精と順番がまるでチグハグですが、その辺は嘲笑って見逃してください。

先日ある席で「いやー この話、そんなに深い意味とかないよね!」と語ってしまったんですが、すいません、いろんな論客があれこれ語ってらっしゃるので、つい真似して小難しいことが言いたくなってしまったのでした。てへぺろ!

Photo『ゼロ・グラビティ』はただいま全国の劇場で、どのはやぶさ映画よりもヒットして上映中であります。
そうそう、今年の春似たような設定の『地球、最後の男』という映画もありました。いまもうDVDで観られると思いますが、正直あまりおすすめできませぬ…


|

« 荒野の忠臣蔵 カール・リンシュ 『47RONIN』 | Main | 迷子と迷子の子猫ちゃん ロマン・カチャーノフ 『ミトン+こねこのミーシャ』 »

Comments

>「大きいものが大きく見える」という点です。しかしこれもけっこうテクニックがいることでして、大スクリーンでうつっていても構図や画質によってはあまり大きく見えないことがあります。

本当同感です!
私も漫画なんですが、でかいものをでかく描くのってすごい難しいんですよね(^_^;)大きさって総体的なものなんでしょうね。
マッチの箱とカンガルーの赤ちゃんとかw

>「いやー この話、そんなに深い意味とかないよね!」と語ってしまったんですが、すいません、いろんな論客があれこれ語ってらっしゃるので、つい真似して小難しいことが言いたくなってしまったのでした。てへぺろ!

思い返せば、割とメタファーの多い映画でしたよね。話がシンプルだった分、なんの比喩かわかりやすい、というか。
あ~ワイヤーの切り離しはへその緒か~なるほど・・・もう「こえーすげー」で頭がいっぱいで、深読みする余裕もありませんでしたw
純粋に一客として楽しんでしまった!

Posted by: 田代剛大 | December 25, 2013 11:15 PM

伍一くん☆
臨場感たっぷりの映画でした。
んもう、息が苦しくって・・・・
ラストなんて助かったーと思ったら、そうくるー??っていうかんじで。

宇宙飛行士になるような人って、本当に度胸が据わっているよね。
ま、宇宙飛行士と潜水士だけにはなりたくないけど(なれないしー)

Posted by: ノルウェーまだ~む | December 26, 2013 12:43 AM

おかしい。

「宇宙からのメッセージ」の時はみんな宇宙空間を平泳ぎで泳いでいたのに。

Posted by: ふじき78 | December 26, 2013 10:38 AM

>田代剛大さん

漫画はさらにスクリーンより大きさが限られるから大変ですよね。でもアメコミの編集者は新人さんに「ウン万人の大観衆を前にあーたらこーたらしてる絵を描いて」なんて言って腕試しするそうです
わたしも観てる最中はめたふぁーがどうたらなんて全く考えませんでしたよ(^^; 上の文章はすべて後付けの思いつきです
やっぱり観ている間、われを忘れさせてくれる映画が一番いいですよね!

Posted by: SGA屋伍一 | December 26, 2013 10:29 PM

>ノルウェーまだ~むさん

本当に息が苦しくなるというか、観ている側まで酸素が心配になる映画でした(笑) 終わった後、携帯の「電池残量3%」の表示にわけもなくあわてたりしてね…

そういえば『アルマゲドン』で「宇宙飛行士は精神的な準備に最低半年は必要」って言ってたかな。座禅のトレーニングでもして精神を鍛えるんですかね~

Posted by: SGA屋伍一 | December 26, 2013 10:32 PM

>ふじき78

最後の方でカエルが平泳ぎしてたシーンありましたよね
あれ、たぶん『宇宙メセ』へのオマージュですよ

Posted by: SGA屋伍一 | December 26, 2013 10:33 PM

SGAさんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪

この作品はキュアロン監督の作品だからという部分ももちろん含んではいますが、他にも宇宙空間の演出を凄く突き詰めているものにも見えてしまって、自分も一気に好きになってしまいましたね。ホントこれはスクリーンで観るべき作品♪ドットに感情移入とかも正にその通りで、マットが豆粒みたいになっても無線の交信が続くもんですからグッと来ちゃったりもするんですよねぇ^^;

ライアンが生きる活力を取り戻す物語としてもよく出来ていたと思いますし、彼女の生き抜く執念みたいなものにも凄いパワーを感じましたね。
・・まあ、最後どうやって家に戻ったんだろうとか、些細な部分が気になっちゃいましたけど(笑

Posted by: メビウス | January 29, 2014 11:50 PM

>メビウスさん

こんばんは! お返しありがとうございます
実は先日二回目観てきたのですよ。やっぱりこれは映画館で観てこそ真価のわかる映画ですね。ただ都会の映画ファンは「IMAXで観てこそ」とかいいやがるんですが… ええーい、ちくしょう! うらやましい!!
二回目観てあらためて思いましたが、ドットからじわじわじわじわ人の形になっていくオープニングには鳥肌立ちました。
ちなみに二回とも吹き替えで観たんですが、ライアン女史は深見里加さんという方があててました。確かその昔セーラーヴィーナスとかやってた方だと思いましたが、ベテランならではの大熱演でしたね~
わたしが気になったのはあのあとロシアがどうやって謝ったのかということ。「すみません」じゃすまないでしょうねえ~

Posted by: SGA屋伍一 | January 30, 2014 10:51 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 彼女が宇宙服に着替えたら アルフォンソ・キュアロン 『ゼロ・グラビティ』:

» 「ゼロ・グラビティ」☆息苦しさで宇宙体験 [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
まさに自分までもが宇宙遊泳しているかのような錯覚に陥る、見事な映像とその臨場感。 息が苦しくて、くるしくて、くるしくて・・・ 宇宙服をはやく脱ぎ捨てたいっ!手に汗握る緊迫したシーンの連続に息も絶え絶え、ホッとする瞬間を期待するラストにはまさかの・・・・... [Read More]

Tracked on December 26, 2013 12:44 AM

» 『ゼロ・グラビティ』をトーホーシネマズ六本木7で観て、立派だなふじき★★★★(ネタバレ) [ふじき78の死屍累々映画日記]
五つ星評価で【★★★★この手口は上手い】 書きづらいので最初からネタバレで行きます。 読み直したらLINK後のPS以降しかネタバレしてないや。 予告と一緒の不安定な状 ... [Read More]

Tracked on December 26, 2013 10:39 AM

» ゼロ・グラビティ [Akira's VOICE]
求めよさらば与えられん。   [Read More]

Tracked on December 28, 2013 10:19 AM

» ゼロ・グラビティ (試写会) [風に吹かれて]
無重力の空でひとりきり公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity12月13日公開監督・脚本: アルフォンソ・キュアロン  「天国の口、終りの楽園」 「ハリー・ [Read More]

Tracked on January 04, 2014 03:18 PM

» 『ゼロ・グラビティ』の3つの魅力 [映画のブログ]
 1968年公開のSF映画と云われたら、多くの人が『2001年宇宙の旅』を挙げるに違いない。  しかし、同年公開の『バーバレラ』だって捨てがたい。  無重力状態でフワフワ浮いてる人物が、ごつい宇宙服のパーツを外すと、スラリとした脚がニョッキリ飛び出す。パーツを外していくにつれ、手や脚が露わになり、やがて美しいジェーン・フォンダが姿を現す。この意表を突いたオープニングに、どれだけの人がノッ...... [Read More]

Tracked on January 05, 2014 05:02 PM

» ゼロ・グラビティ [映画的・絵画的・音楽的]
 『ゼロ・グラビティ』を渋谷TOEIで見ました。 (1)いつもは躊躇する宇宙物ながら、サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーとが初共演とのことで、映画館に行ってきました。  映画の冒頭では、地上600?の高さになると、温度は+250〜−100ordm;Cで、音を伝えるも...... [Read More]

Tracked on January 10, 2014 10:09 PM

» 映画:ゼロ・グラビティ gravity 地球周回軌道での大アクシデント。後半にネタバレ?あり 注 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
<Movie City News恒例のオスカー予想 Gurus o Gold が発表され <作品賞候補を眺めたら、ショック! <このうち、まだ一作もみちょらん... というわけで、ドバイでさっそく公開中の今作に駆け付けた(笑) サンドラ・ブロック演じる技師は、初めて宇宙での船...... [Read More]

Tracked on January 11, 2014 02:09 AM

» ゼロ・グラビティ : とても中身の濃い映画 [こんな映画観たよ!-あらすじと感想-]
 基本的に汗かきな私ですが、ここ広島でも随分と寒く感じられるようになってきました。こんな寒いときは、具沢山の鍋でも食しながら一杯やりたいものです。ちなみに、本日紹介す [Read More]

Tracked on January 12, 2014 02:46 PM

» ゼロ・グラビティ [シネマをぶった斬りっ!!]
【監督】アルフォンソ・キュアロン 【出演】サンドラ・ブロック/ジョージ・クルーニー 【公開日】2013年 12月13日 【製作】アメリカ 【ストーリー】 地表から60万メートル上空のすべてが完璧な世界。そこで誰もが予測しなかった突発事故が発生。スペースシャトルは大破し、船外でミッション遂行中のメディカル・エンジニアのストーン博士と、ベテラン宇宙飛行士マットの二人は無重力...... [Read More]

Tracked on January 29, 2014 11:50 PM

« 荒野の忠臣蔵 カール・リンシュ 『47RONIN』 | Main | 迷子と迷子の子猫ちゃん ロマン・カチャーノフ 『ミトン+こねこのミーシャ』 »