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December 09, 2013

ロビンソン奮闘記 ブライアン・ヘルゲランド 『42 世界を変えた男』

Photo11月はなんでか観ててくら~い気分になるような映画ばかり観てたんですけど、その中で一本むちゃくちゃさわやかな気分にさせてくれた作品がありました。それがこの『42 世界を変えた男』でございます。最初にタイトル観たときは『銀河ヒッチハイクガイド』でいうところの「宇宙の真理」に関わる映画かと思いましたけどね… 今年とうとう40になってしまったSGA屋伍一が紹介いたします。

第二次大戦後まもなくのアメリカ。ブルックリン・ドジャースのオーナー、ブランチ・リッキーはそれまで白人だけしか登録されていなかったメジャーリーグに、初めて黒人の選手を起用することを決意する。白羽の矢が立てられたその最初の選手は、ジャッキー・ロビンソンというまだ若い名バッターだった。だが彼らの挑戦は予想通り白人社会に波紋を投げかけ、リッキーとロビンソンは激しいバッシングの嵐にさらされることになる。

まず驚いたのはこれを作ったのがあのレジェンダリー・ピクチャーズだということ。あのアメコミ映画とかボンクラ映画とか宇宙人映画ばっかり作ってるレジェンダリーが、こんなに重厚でまっとうな「実話に基づいた」作品を作るとは、いったいどういう風の吹き回しなのか?
それは観てみてなんとなくわかりました。オーナーのリッキーがロビンソンのプレイを見ていて「超人的」と評しますが、野球のスター選手というのは我々にとって身近な超人であり、ヒーローであるからなんですね。特に子供たちにとっては。
この映画で嬉しかったのはちょくちょく子供たちのエピソードがはさまれていたことでした。単純にジャッキーを憧れの英雄のように見つめる黒人の子供もいれば、父親に合わせて汚い野次を飛ばしてしまって自責の念に駆られる少年もいます。ジャッキーを励ます時に「彼の真似をしている白人の少年を見た」と、オーナーが語るシーンも印象的でした。

『42』の中でもうひとつじーんと来たのはジャッキーとこのオーナーの交流ですね。最初は雇い主と選手の関係でしかなかった二人が、共に戦っていくうちに世代を越えて親友になっていき、ついには人種の壁も乗り越えて親子のような関係を築いていく。「父は俺を見捨てた」とジャッキーは語っていましたが、あまりの暴言に傷ついていた彼をリッキーがまるでお父さんのようにやさしく抱きしめるくだりに40男はホロホロと来てしまいました。

黒人に対し閉鎖的だった大リーグに、リッキーはなぜ風穴を開けようとしたのか。単純に勝ちたいから、昔のチームメイトへの負い目、といった理由も語られましたが、「彼が信心深かったから」というのも大きな理由のひとつだと思います。
「神は誰に対しても公平である」「あなたの敵をも愛さなければいけない」 そういった尊い教えを、権力者は都合のいいように書き換えます。「違う人種は差別してもいい」とか、「異分子は排除すべき」とか。
それでもどこにでも「それはおかしい」と感じる人はいます。ただ「おかしい」と思っていても、周りに逆らってまでそれを行動に移すのは難しいもの。そんな周囲の反感に直面しても、自分の信念を貫いたリッキー。そしてどんなにひどい妨害にあっても黙々とフェアプレイに徹したジャッキー。60年以上前の二人のスポーツマンに、惜しみない拍手をささげたいと思います。

冒頭で味方チームすら援護してくれずに孤軍奮闘するジャッキーの姿はまるで『侍ジャイアンツ』序盤の番場蛮のようでしたが、やられてもやりかえさない彼を見ていて、初めは反感を抱いていたチームメイトも一人、また一人と彼に共感を抱くようになっていきます。やはり男はギャースカわめかず黙って背中で語るものであります。背中で語るって口で語るよかだいぶ難しいですけどね…

42こんだけ絶賛しといてなんですけど、『42 世界を変えた男』はすでに上映大体終了してしまいました… タイトルから野球の映画だとわかりづらかったのか、日本での興行はふるわなかったようです。未見の方は名画座やDVDでぜひごらんください。
『タイタンズを忘れない』や『インビクタス 敗れざる者』と合わせて、「三大人種差別克服スポーツ映画」といたしたいところですがどうでしょう(カンムリ長いよ)。

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Comments

>「彼が信心深かったから」というのも大きな理由のひとつだと思います。

ガーン!私、経済学を学んだことで心が腐りましたw
経済的合理性をトレードオフの秤にかけて勝ったから(損失よりも利潤のが大きい)、やったんだろうなあとか思ってしまいましたし(^_^;)

経済学は世の真理でしょうけど、身も蓋もなさすぎて、人の心は感動しないんだろうなあ。わけがわからないよ

Posted by: 田代剛大 | December 11, 2013 at 09:30 PM

伍一くん☆
わお、まだ40かーわっかいなー
年齢不肖なところがあったから、ややビックリですわ。

リッキーの大きく包み込む愛は確かに父親のようでもあり、キリストのようでもありましたね。
こうした人が上に立ってくれれば、世の中はもっとぐんと良くなっていったでしょうけど・・・・・当時も、今ですらなかな簡単にはいかないよね。

Posted by: ノルウェーまだ~む | December 12, 2013 at 05:52 PM

>田代剛大さん

まあ映画ではこういう風に感じましたけどね。実際はどうだったかは(笑)
そんな風に野球を徹底的に勝率というか数字にこだわったのが『マネーボール』。これはごらんになったことあったかな?
『42』に比べるといささか淡々とした映画でありますが、ドライに徹することとロマンを追うことは両立できる…ということを教えてくれる映画です

Posted by: SGA屋伍一 | December 12, 2013 at 11:00 PM

>ノルウェーまだ~むさん

ははは… 恥ずかしながら40にして惑いまくりの毎日です(^^;
恥ずかしながらわたしオーナーがハリソン・フォードだったことに全然気づかなかったんですよ! それくらいいつもとはかけ離れた役だったような
いまやアメリカでは大リーグどころか大統領にも黒人が登場する時代になりましたが、実際どの程度差別が残っているかは向こうで暮らしてみないとわからないんだろうなあ

Posted by: SGA屋伍一 | December 12, 2013 at 11:19 PM

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