魔女っ子失楽園 新房昭之 『魔法少女まどか☆マギカ 新編 叛逆の物語』
華やかな繁栄を誇る地方都市・美滝原市。その街には人の欲望から生まれる魔物「ナイトメア」と、それを退治する可憐な「魔法少女」たちがいた。暁美ほむらは、4人の仲間たちと人々の平和を守るために夜の街を駆ける日々を送っていた。決して楽ではないが、頼もしい親友たちと肩を並べて戦う充実した毎日。だがやがてほむらはそんな日々に違和感を感じ始める。映画を観ている我々観客たちも…
というわけで世界中のアニメファンが待っていたと言っても過言ではない『魔法少女 まどか☆マギカ』の新作劇場版『叛逆の物語』の感想です。どんどんネタバレしていきますので未見の方はご注意ください。ちなみに総集編の前編『始まりの物語』の感想はコチラ。後編『永遠の物語』の感想はコチラ。
『まどか☆マギカ』ってTVシリーズで十分きれいに終わってるんですよね。そいつをどうやって蒸し返すのか? 無理やり蒸し返した意味はあったか? その辺に注目しながら観てました。
冒頭のオーソドックスな「魔法少女」のエピソードは正直ちょっと置いていかれましたw 自称ハードボイルダーとしては。ほむらちゃんが街の異変に気がついてようやく「おお、本来のまどマギだ!」と、お話に入っていけた気がします。余談ですがこの辺名作SFアニメ『ゼーガペイン』にもよく似たくだりがありました。
徐々に核心にせまっていくほむら。そしてついに暴かれる新たなる「世界」の真相。めでたしめでたしかと思いきや、そうは問屋がおろさないのが虚淵節。もう一回どんでん返しを用意してわたしたちを困惑させてくれます。で、このどんでん返しというかほむらちゃんの意外な行動こそがわざわざ蒸し返した意味というか、今作のキモだと思うのです。
世の中には自分を犠牲にしてでも、他の誰かが恵まれることに幸福感を感じる人がいます。で、やっかいなのはその「他の誰か」も同じ体質だった場合ですね。相手が幸せになることが自分の幸せなんだけど、相手にはそれが自分を犠牲にしているように見えて納得がいかない。そうなるとお互い「あの人を幸せにしなきゃ」と果てしない堂々巡りが繰り返されることになります。
大抵はどちらかが相手の犠牲を受け入れて、「あの人の思いを無駄にしないためにもがんばるわ!」と納得してケリがつくんですけどね。『まどマギ』TVシリーズもそういう決着だったと思います。しかし我らが(笑)ほむらちゃんはそう簡単に吹っ切れられるタイプではなく… こういった複雑な愛情の交錯がアニメで描かれるのはそうないことではないでしょうか。
あと、アニメで滅多に描かれない… というか、アニメで描くのが難しいものに揺れ動く感情のヒダヒダがあります。この点でも『叛逆の物語』は出色の出来だと思いました。エンターテイメントにおいて人の葛藤というものは、1対1の割合で正反対の思いが拮抗しているように描かれることが多いです。しかし実際はそうシンプルなものではなく、さらに他の思いも交じり合ったり、自分でも気がつかないような深層の中に本当の気持ちが潜んでいることもあります。名匠の作った実写映画ならともかく、アニメーションでそこまで踏み込むことはなかなか難しい。けれどスタッフはそのことに挑戦し、暁美ほむらという少女の入り組んだ内面を描くことに成功したのではないでしょうか。
というわけで新作が作られたばっかりに収まりの悪い状態になってしまった『まどか☆マギカ』。まあわたしは似たような経緯をたどった石川賢先生の『ゲッターロボサーガ』も大好きなんで、それもアリだと思います。あとコテコテなジャンルのアニメと見せかけて独特の宇宙論を展開させるところも石川ワールドをほうふつとさせます。
個人的には今回特に泣けたのは、ほむらちゃんの「弱虫でごめんなさい!」も相当でしたが、美樹さやかちゃん関連の「胸糞悪くなる夢を見たんだ…」とか「また恭介と仁美におはようが言えるなんて」のあたりで鼻水がめっちゃビシュバシュ散乱いたしました。ぼくの隣に座ってた小学生とおぼしき君、オヤジの見苦しい姿を見せちゃってごめんね! さぞかしキモかったろうね! でも君がもしオタクなら、将来はきっとわたしみたいになると思うよ!
また話がそれたような… 『魔法少女 まどか☆マギカ 新編 叛逆の物語』は「特典だけゲットして映画を観ない客がいる」という社会問題を起こしながら、現在も全国の映画館で大ヒット上映中であります。興味を持たれた方は、くれぐれもこれをいきなり観ない様に。まずは総集編をチェックすることであります。
Comments
そう言われてみると、深い文学性があったのかも・・・(すぐ影響されるタイプ
私は、まどマギってそんなキャラの内面とか見てなかったんですよ・・・なんかチェス駒に見えちゃって(^_^;)
そう言う意味では『アウトレイジビヨンド』みたいなもんで・・・メタ的にセルオートマトンのシミュレーションを見ているような感じでしょうか・・・
う~ん、自分は冷たいのかなあ・・・・あのアニメのキャラのよさ、わけがわからないよ。
Posted by: 田代剛大 | November 26, 2013 11:09 PM
>田代剛大さん
こちらにもサンクスコです
やっぱりアニメキャラって一種の「記号」であることには違いないので、そこは人によって入れ込めるか否か異なるでしょうね。あくまで記号としかとらえられないか、記号を超えた何かを見出せるか。特に写実的な絵柄から離れれば離れるほど
わたしも正直この絵柄そんなに性に合わないんだけど、鼻水ぶしゅぶしゅ噴出してたということは思ったほどハードル低くなかったということかなー
Posted by: SGA屋伍一 | November 28, 2013 10:37 PM
SGAさんこんばんわ♪
新編の方はレンタルスルーかなと思ったんですが、今月かなり遅い公開となって地元のホームグラウンドに来てくれました^^大画面のほむほむはやっぱりイイですな(笑
でも自分も冒頭からかなり違和感を感じる内容でしたね。後編の劇場版のラストとは明らかに食い違ってましたから、まどかたちオーソドックス魔法少女の活躍が楽しくてもどこか釈然としないしないまま観てた感じでもありましたし・・。
ただ真実が分かるとなかなかに仰天っ。ほむらのあの行動なども結構衝撃的でもありましたし、整合性に難アリでも最後は変貌したほむらに強制的にリセットされた感じにも見えちゃいました^^;
・・まああの後も当然気にはなりますが、さすがにもう繋ぐ事は出来ないでしょうかね~?もしかしたらガンダムみたいに色んな派生作品がポコポコ出てくるかも?(汗
Posted by: メビウス | January 27, 2014 09:24 PM
>メビウスさん
おお、地元で公開良かったですね! 社会現象といわれるくらいのヒットに映画館も無視できなかったんでしょうなー
違和感といえばTVシリーズは「ちょっとこれは子供たちには…」という残酷描写が多々ありましたが、今回はギリギリ子供たちが観ても大丈夫な内容だったと思います。まあいきなり新編を見てもわけわかんないでしょうけど(^^; そして大画面で見る表情の崩壊したほむらちゃんはすげー怖かったです
わたしは今回のこれ、どっちかといえばバッドエンドだと思ってるので、真のハッピーエンドを何とか作ってほしいです。派生作品はすでに漫画の方で何作かあるようですが、さすがにそっちまで追いかけていけない…
Posted by: SGA屋伍一 | January 29, 2014 11:10 AM