ズッコケ超能力三人組 ジョシュ・トランク 『クロニクル』
『超能力学園MAD』というのも考えました… 昨年初頭に封切りされるや俳優も監督も地味なのに馬鹿ヒットを飛ばし、日本上陸はいつだと期待していたのにこれがなかなかやってこない。結局本国から1年半以上遅れて、首都圏のみ二週間限定というめっちゃ不遇な状況でようやく公開となりました。『クロニクル』ご紹介します。
アンドリューは病身の母と失業中でやさぐれている父を持つ、さえない高校生。学校でも女子からはキモがられい、じめっ子からはいじめられ、鬱屈とした日々を送っていた。ある日アンドリューはためたお金でビデオカメラを買い、身の回りのものをできるだけ記録しておこうと思いつく。
従兄弟のマットから誘われたパーティーでもやはり絡まれて殴られてしまうアンドリュー。彼が木陰でメソメソしていると、マットと人気者のスティーブが奇妙な洞穴があるから撮影してくれと頼みに来る。彼らはその洞穴の中で奇妙に光る巨大な岩石を発見。その翌日からアンドリューたちは手に触れずともものを動かせる「サイコキネシス」の力を身につけてしまう。最初はたわいもないいたずらをして喜んでいた彼らだったが、アンドリューの力は日に日に強大なものとなっていく…
少し前の『ホワイトハウス・ダウン』の記事で「どうしてハリウッドのアクションの主人公はバツイチ子持ちが多いのか」ということを述べましたが、学園系ホラー・SFの主人公はどうしてこう「いじめられっ子のもやしっ子」が多いのでしょう。
『キャリー』『スパイダーマン』『クリスティーン』『シックス・センス』『パラノーマン』『超能力学園Z』etc。
それは恐らく映画を撮ってる監督さんたちが、学生時代そういう肩身のせまい思いをしてきたからでしょうねw 体育会系のスター選手はよほどのことでもない限り、SFホラー映画の監督になったりはしないと思います。
高校のころ学園の人気者から受けた屈辱を、こういう映画を撮ることで鬱憤を晴らしているのでしょう。わたしも似たような立場でしたからその気持ちは大変よくわかります。
あと『キャリー』や『クリスティーン』などがそうですが、「周囲からの抑圧が爆発的なパワーなきっかけとなる」という理由もあるかもしれません。監督は主演のデイン・デハーン君に参考に『AKIRA』を観ろと言ったそうですが、『AKIRA』の鉄男も強大な力を得たのは金田君へのコンプレックスが引き金でしたし。
デイン君演じるアンドリューの力が他の二人よりも明らかに強力なのは、彼にマットやスティーブにはないコンプレックスやストレスがあったから、と見てまちがいないでしょう。
映画を観ていて疑問に思ったのは、なぜ彼はいつもカメラを手放さないのか、ということです。そりゃぶっちゃけこの映画がPOV形式で、そのほうがリアルっぽく見えるから… それが一番の理由なんでしょうけど。
ただわたしは彼がレンズというバリアを通してでなければ人と落ち着いて接することができない、そんな不器用で臆病な性質のゆえかな、という気もしました(こじつけっぽいな(^^;))
以下、中バレで。
力を増すにつれ、どんどん怪物的になっていくアンドリュー。ここで『スパイダーマン』のベンおじさんや『X-MEN』のプロフェッサーXのような人がいたら、彼も道を踏み外しはしなかったかもしれない… と、最初は思いました。でも考えてみればアンドリューにもマットやスティーブといった、ちゃんと心配してくれる友達がいるんですよね。しかし悲しいかな、若さゆえの激情に駆られている時って、そういうありがたい気持ちを気づかなかったり、はねつけてしまったりすることもよくあるのです。
もしあの時カミナリが落ちなかったら、もし彼がマットやスティーブの真心に気づいていたら、もし彼を襲う不幸の連鎖が少しでもずれていたなら… きっとアンドリューはあんな「怪物」にはならなかったんじゃないかな、と思うとなんともやるせない気持ちになるのでした。
そんなひねくれエスパーを好演しているのは春の『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』でライアン・ゴズリングの息子役が印象的だったデイン・デハーン君。殴られていじけて暗い情念を宿す表情が本当によく似合います。殴られるのが様になる俳優といえばジェームズ・マカボイ君がいまのところ筆頭ですが、デハーン君のボコられ芸はまたマカボイ君のそれとは違った味わいがあります。そんなデハーン君の次回作は『アメイジング・スパイダーマン2』のハリー・オズボーン役… 似合いすぎだろwww キャスティングの慧眼にただただ感心するばかりです。
『スパイダーマン』といえば、この映画ライミ版だけでなく漫画の池上遼一版にも非常に近い雰囲気がありました。特異な力が持ち主を幸福にするのではなく、むしろ不幸な方へ追いやり、そして周囲の誰も救うことができないというあたりがね… 詳しくは拙レビューをごらんください。
これがデビューとなるジョシュ・トランク氏は、次にやはりマーベルの『ファンタスティック・フォー』のリブート版を手がけるとのこと。どっちかといえば暗い『X-MEN』の方が彼の資質にあってる気がしますが、こちらも楽しみです。
『クロニクル』は二週間限定だったはずが新宿のシネマカリテで続映中、さらに首都圏以外の劇場でも拡大公開中でまことにめでたいかぎりです。
でもね、この映画に限っては大スクリーンで観るよりおうちのTVで観た方が臨場感が出るかもしれない(^^; でも日本語DVDが出るまで待てない!という方はぜひ映画館で。
Comments
> それは恐らく映画を撮ってる監督さんたちが、学生時代そういう肩身のせまい思いをしてきたからでしょうねw
そして、みんな人知れず「スカートめくりてえなあ」と思ってるって事ですよね。あああああ、桐島の神木隆之介君も思ってそうだ。
Posted by: ふじき78 | October 23, 2013 09:46 AM
>ふじき78さん
青春時代のほのかな憧れですよね~ スカートめくり
まだ犯罪にならない小学生時代にやっておくべきだった…と後悔することしきりです
Posted by: SGA屋伍一 | October 24, 2013 10:05 PM