旅は道連れ、酔っ払い系 ジャック・ケルアック ウォルター・サレス 『オン・ザ・ロード』
「狂ったように生き、しゃべり、すべてを欲しがるやつ ら」「ありふれたことは言わない、彼らは、燃えて、燃えて、燃え尽きる」。多くの作家、芸術家、ミュージシャンに影響を与えたというジャック・ケルアックの『路上』(もちろん名前しか知りません)。その伝説の小説を『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレスが映画化。『オン・ザ・ロード』ご紹介します。
第二次大戦後まもなくのNY。父を弔ったばかりの青年、サル・パラダイスは友人の詩人カーロを通じて自動車泥棒として名を馳せたディーンという男と知り合う。あらゆるルールとモラルを破壊し快楽にふけるディーンに、サルはなぜか兄のような親しみを感じる。やがて故郷のデンバーへ帰っていったディーン。サルは彼を追うようにして西部へと旅に出る。以後サルはディーンと共に、時には一人で、広大なアメリカ大陸を旅し続ける。
タイトル・あらすじからもわかるようにいわゆるひとつのロードムービーです。しかし旅以上にくどくどと描かれてるのが彼らの乱交シーン。暇さえあればセックスとドラッグに没頭しております。そういえば先日作家の某原田先生がおくすりの件で逮捕されましたが、ラリリはパンク作家の伝統なのかもしれません。中島らも先生のエッセイにもそういう話多かったし… ただ彼らが単なるジャンキーと違うのは、ラリリの合間にきちんと読書や創作にも情熱を注いでいる点です。
アメリカ文学の著名な旅人といえば、ジャック・ロンドン、ヘミングウェイ、『イントゥ・ザ・ワイルド(荒野へ)』のクリスなどが思い浮かびます。彼らが旅した理由は冒険心であったり、旅することが本能であったからですが、サル=ケルアックが旅をしたのはまた別の理由もあったように思えます。サルは亡き父から地道な労働をしてないことをよく責められていたようです。そして時を同じくしてアメリカはマッカーシズムのもと右方向へ傾いていきます。サルが旅を愛したのはそんな二人の父からのプレッシャーを忘れたかったからではないでしょうか。麻薬にふけることをよく「トリップする」と言いますが、彼にとっては文字通りのトリップも現実逃避の手段だったわけですね。うまいこと言うなあ、オレ(ドヤ顔)。実物のケルアックが本当にそうだったかどうかは原作を読んでみないと断言できかねますが、少なくとも映画のサル・パラダイスからはそんな印象を受けました。
役者で印象に残った人を二方。
まずディーンと着かず離れずの関係を続ける奔放な女、メアリー・ルーを演じるクリスティン・スチュワート。『トワイライト』シリーズで全米のアイドルとなりお金もがっぽがっぽ稼いでるだろうに、こんなどビッチの役をなぜあえてやるのか。出演場面の半分くらいが脱いでるかやってるかという体当たりぶり(もちろん乳首も出してます)。演技派として認められたいと必死なんでしょうかねえ… まだまだ若いんだから、そう無茶をせずともよかろうとおじさんは思いました。
もう一人はサルの親友でディーンにひかれるカーロ。普段はヒゲモジャででかいメガネをかけていて実に野暮ったいんですが、ある場面でヒゲ&メガネをとったらこれが少女マンガから抜け出たような美青年でして。わたしはそっちのケはないですけどうっかり惚れそうになりました。演ずるはトム・スターリッジ。『パイレーツ・オブ・ロック』などに出てたようですが、わたしはこの作品で初めて知りました。
映画を観た後、モデルとなった人物は誰だったのか、その後どうなったのかちょっと調べてみました。これはネタバレになるのだろうか… 自分で調べたいという方は避難されてください。
まずディーンのモデルとなったニール・キャサディ。wikiの記事を丸コピしますと「その奔放で過激な生き様から一冊の本も残さなかったにもかかわらず、友人のケルアック、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズ、等ビート・ジェネレーションの作家群やヒッピー等に大きな影響を与えた。1968年、キャサディは裸でメキシコの線路上で死んでいるのを発見されたが、その後も人気は衰えず、死後29年の1997年には彼の生涯を描いた映画『死にたいほどの夜』が発表された」とのことです…
あとヴィゴ・モーテンセン演じるオールド・ブル・リーはやはり『裸のランチ』で知られるウィリアム・バロウズがモデルのようです。バロウズといえばラリッた勢いでウィリアム・テルごっこをやって奥さんを撃ち殺してしまったというエピソードが有名です。映画では危なげな雰囲気を漂わせつつも、よきパパ、よき夫という感じだったのでこれまたショックでありました。
やっぱりドラッグはよくないですね… と言うのは野暮でしょうか。ともあれ、わたしも原作を読んでみたくなりました。調べたところ河出文庫版が最も入手しやすくリーズナブルなようですが、危なくて削除された箇所も完全復刻したという「スクロール版」の方が面白そうです。高い上に読みにくそうではありますが。
映画の方は東京の新宿武蔵野館で今週いっぱいまで、ほかにこれから静岡、新潟、沖縄、石川、岡山などでかかるようです。旅と乱交に興味ある方はぜひ。
Comments
突然の書き込みで失礼いたします。
以下、ジャック・ケルアックや「路上(オン・ザ・ロード)」に興味をお持ちの方に宣伝させていただいております。
ご不快でしたら、削除お願いいたします。
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放浪の作家、ジャック・ケルアックの家に関するリポート本をリリースしました。
「ケルアックの暮らした家 創作の現場を博物館にしないということ」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00FV2QJRU/
*本作は電子書籍(Kindle 本)です。
お手持ちのパソコン、スマホ類に Kindle アプリ(無料)をインストールすることで、お読みいただけます。
端末を購入する必要はありません。
詳しくは Amazon のサポートページか、ウェブの検索結果をお目通しください。
【著者】
檀原照和(だんばら てるかず)
【価格】
350円
【紙の本と仮定しての長さ】
72ページ (推定) / 文字数=27,552字
【概要】
今夏映画が公開され、話題になった『路上(オン・ザ・ロード)』。その原作者ジャック・ケルアックの、語られなかった物語。
1996年、ケルアックが『路上』を出版した頃住んでいたフロリダの家が発見された。
ケルアックが晩年をフロリダで過ごしたことはよく知られているが、じつは晩年のみならず、3度にわたりフロリダで暮らしている。
『路上』の最終稿を仕上げ、『ダルマ・バムズ』や『サトリ・イン・パリス』を書き下ろし、47歳の生涯を終えた土地、フロリダ。
『路上』の旅で一度も立ち寄らなかったフロリダに、ケルアックがこだわりつづけたのはなぜか。
日本語圏で流通するケルアックの情報には片寄りが見られる。
英語圏の資料であれば、その偉大な業績とともに、三番目の妻の親族であるサンパス家とケルアックの実子で二番目の妻の子であるジャネット(愛称ジャン)・ケルアックとの間で繰り広げられた血みどろの遺産相続争いにも大っぴらに触れるのが常だ。しかし日本語の世界では、もっぱら「ビートのヒーロー」としての輝かしい姿と酒に溺れた晩年の姿ばかり語られれてきた。
本作で扱う話題も、遺産相続の話同様、日本語圏ではなぜか扱われてこなかった。「ケルアック・ハウス」が発見されてから15年以上経つ。しかし、どうしたことか、この家の存在は日本にはまったく紹介されていない。これが日本語による初めてのレポートである。
この家は現在、文筆家が長逗留しながらじっくり作品を書き上げるための施設になっている。
我が国には文筆家を支援する制度も施設もない。しかし日本でも、この「ケルアック・ハウス」のような仕組みはつくれるのではないだろうか。
現地取材による、独占レポート。
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本書で紹介している 「ライターズ・イン・レジデンス(作家が長逗留しながら作品制作をする環境を支援する制度)」は、今後ブロガーや電書作家たちにとっても検討すべきテーマになるのではないでしょうか。
現に、海外では wikipedia 執筆者のための「ウィッキペディアン・イン・レジデンス」なるシステムがあるそうです。
ご興味がある方は、上記URLから立ち読み版をダウンロードして試し読みすることをお薦めいたします。
もちろんご購入してすぐさまお読みいただくことも可能です。
以上、長々と失礼いたしました。
檀原照和
Posted by: 檀原照和 | October 21, 2013 10:15 AM
>檀原照和さん
補足情報ありがとうございます。
とりあえずわたしはまず『路上』を読まねばなりません
Posted by: SGA屋伍一 | October 22, 2013 12:09 AM