ふらんすからあめりかへ物語 テレンス・マリック 『トゥ・ザ・ワンダー』
めいごが去ってうちもだいぶ落ち着きました… ふ~~~
夏休み大作シリーズはひとまずおきまして、今回は叙情性豊かな巨匠テレンス・マリック氏の映像芸術をご紹介いたします。『トゥ・ザ・ワンダー』のまずはあらすじから。
パリに住むマリーナは、アメリカからやってきたニールと恋に落ちる。モン・サン・ミッシェルへの旅を経て、二人の愛は深まっていく。やがてニールが故国へ帰る日がやってくる。だがニールはマリーナを彼女の娘ともどもアメリカへと呼び寄せ、家族のように一緒に暮らし始める。それは幸せで満ち足りた生活になるはずだったが、マリーナはいつもニールの愛に不安を抱えていた。
一方彼らの町に住む神父クインターナも、長年抱き続けてきた信仰に、わずかなゆらぎを感じ始めていた…
二年前物議をかもした『ツリー・オブ・ライフ』と同様、美しい映像と音楽に彩られていて、会話少なめ、モノローグ多目な映画でございます。
『ツリー~』ほど突飛な構成ではありませんが、それほどストーリーに起伏があるわけではなく、ただ淡々と悩める男女たちをスクリーンは映し出していきます。
そしてタイトルは『トゥ・ザ・ワンダー(To the Wonder)』。この場合wonderというのはどう訳したらよいものか。不思議、驚異、神秘… そんなとこでいいのでしょうか。
冒頭他で印象的に使われているフランスの名所モン・サン・ミッシェル。その周辺は広大なムール貝畑が広がっているそうです。いや…、これは関係なかったか。ともかく、この名は直訳すると「聖ミカエルの山」という意味なんだそうです。聖ミカエルというのはキリスト教において特に重要とされる天使の名前。この辺からも前作と同様濃いい宗教色が感じられます。
この映画のヒロインであるマリーナや、ニールの昔の恋人ジェーンはモノローグを通じて盛んに自分の不安を吐露します。しかしいまひとりの重要人物であるニールの台詞はすごく少ないです。たまにあっても遠くで小声でボソボソ言ってるだけなのでなんと言ってるかわかりにくかったりして。外見やそぶりからなんとなく優しい男性なんだろうなーと感じさせるニール。しかし実際のところ、腹の底で何を思っているのかはっきり悟ることはできません。それがわからないゆえか、マリーナは絶えずいらだったり嘆いたりを繰り返します。
そしてそういった愛への不信感は、「神はわたしたちを愛してくれているのか?」という疑念に通じるところがあります。教会は神は愛であると説きます。また、聖書には「神の性質は造られたものを通して認められる」という言葉があります。なるほど、雄大で息を呑むような風景や美しい形の生き物などを観るとき、確かにそれは優しい神からの贈り物だと感じることがあるかもしれません。しかし神様は実際にわたしたちに「愛しているよ」と語りかけてくれるわけではありません。それゆえ大きな不幸に直面した人はその愛が本当に存在するものなのか、疑わしく思えたりするのでしょう(日本でははなから信じてない人もたくさんいますが…)。
しかしどれほど不安であっても、疑わしく思えても、人は異性や神への愛を求めずにはいられない… これはそういうことを穏やかに綴った作品だとわたしは思います。
面白いのはそんな映像抒情詩を、普段どちらかといえば銃撃戦を繰り広げているような方々が演じているということですね。『デアデビル』(あえてそれか)『ザ・タウン』のベン・アフレック、『007/慰めの報酬』『オブリビオン』のオルガ・キュリレンコ、『シャーロック・ホームズ』シリーズのレイチェル・マクアダムス、そして言わずもがなの(笑)ハビエル・バルデム。本当にハビエルさんがこんなに穏やかで、こんなに普通でいいものか? 突然豹変して周囲の人間を切り刻み始めるのでは大変ヒヤヒヤしました。あと前作のブラッド・ピットもどちらかといえばアクションの仕事の方が多いですね。
マリック監督がどうしてそちらのキャストを集中して起用したのかはよくわかりません。単なる偶然かもしれないし。
ただ、アクションが決まる美男美女というのはやはり黙ってじっと佇んでいる姿も様になるもので。そんな彼らが美しい夕焼けの中を粛々と歩んでいる絵は、愛憎劇を描いていてもまったく泥臭くなく、どこか遠くの浮世離れした世界の出来事のように感じられるのでした(実際遠いですけど…)。
幾つもの賞を取り、日本でも全国で200以上のスクリーンで公開された前作に比べ、『トゥ・ザ・ワンダー』は現在30スクリーンくらいで上映中・上映予定です。すでにさっさと終了したところもありますね… この極端な差はなんあんでしょう。日本でメジャーなスター俳優が出てないこともありましょうが、やはり『ツリー・オブ~』がよっぽど儲からなかったってことでしょうか。
この映画で一応演技派としての面目も保ったベン・アフレックは、先日再来年公開予定の『スーパーマンVSバットマン』で新たなるブルース・ウェインを演じることが決まりました。ちなみに『トゥ・ザ・ワンダー』のニール役は当初クリスチャン・ベールがやることになっていたそうで… なんだか面白い符号でありますね。
恐らくかなりアゴが目立つバットマンになるかとは思いますが、期待しております。
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