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August 16, 2013

ゼロとジロー 宮崎駿 『風立ちぬ』

Kztn1_2しろーいー さかーみちがー そらまでー つづいていたァーッッッ!!
…失礼いたしました。初期のころのオタク専門のイメージはどこへやら。いまや日本で一番稼げる映画監督となってしまった宮崎駿監督の最新作がこのほど公開されました。…なんてわたしが言わずとも日本国民の皆さんの8割はもうご存知でしょうけど。零戦の開発に携わった実在の人物・堀越二郎氏の半生を、堀辰雄氏の名作に絡めて描く『風立ちぬ』、ご紹介いたします。

大正時代、寝ても醒めてもひたすら飛行機への情熱を燃やす堀越二郎という少年がいた。彼の夢には時折イタリアの名設計士カプローニが現れ、二郎と飛行機の未来について語り合うのだった。実家が裕福だったこともあり、成長した二郎は大学に進み航空機設計について学ぶ。
大正も末期の14年、二郎は実家から大学へ戻る列車の中で関東大震災を経験する。人々がパニックに陥る中、彼は居合わせた少女とその使用人の女性を避難させる。二郎はことを見届けると名も告げずにその場を去った。
時代は昭和となり、日本は戦争へと突き進んでいく。だが二郎の頭にあるのは相変わらず「より優れた飛行機を作る」ただそのことだけだった。そんな折、二郎は地震の折に助けたかつての少女と再会する。

今回はかなりネタバレして書きます。これから観ようかという人はできれば映画館に行ってから以下をお読みください(忘れられそう…)。
この映画に関しては本当に人それぞれの意見・感想があると思います。わたしは「夢が人を殺すこともある」…そういう話だと思いました。
実在の彼がどうだったかは知りませんが、この作品の堀越青年は始終夢うつつでいる、あるいはいまひとつ現実に距離を置いている、そんな人物として目に映りました。「何に対してもあまり喜怒哀楽を表さず」「夢の中のカプローニの言葉を神託のように受け取っていて」「戦争や社会問題に特に興味を示そうとしない」そういった描写から。
また、そんな堀越青年の姿は、これまでずっとアニメの中で夢のような世界を描き続けてきた宮崎監督と微妙に重なります。
前半で特に印象に残ったのは、堀越青年が貧しい姉弟にパン菓子を恵もうとして拒絶されたエピソードでした(弟は食べたそうでしたが)。飢えることになろうともプライドを重んじるこの子供たちはなんだか高畑勲監督の『火垂るの墓』の兄妹を思い出せます。
宿に帰ったあとで二郎の親友本庄は「それは偽善だ」と彼を責めます。現実に目を向けずに夢だけを追いかけている二郎を宮崎監督だとするなら、現実を見据えつつ淡々と与えられた仕事をこなす本庄は高畑監督がモデルなのかもしれません。劇中で「本庄と組みたい」という二郎が上司から「同期とは組むな。友情を失うぞ」と諭されるシーンはなんだか意味深でありましたw

で、そんな堀越青年に現実に目を向けさせることになるのがヒロイン菜穂子の存在であります。彼女と愛し合うことで二郎は初めて飛行機以外のものに心を奪われ、生身の人間の命を実感することになります。
しかし飛行機への情熱は間接的に菜穂子の死を早めることになります。そして彼女の喪失と零戦の完成が交錯した瞬間、二郎は自分の夢が人の命を奪うものであったことを、自分の罪を認めざるをえなくなります。こういった二郎の半生は宇宙ロケット開発のためにナチスに手を貸してしまった科学者フォン・ブラウンの話も思い出させます。
でも彼が死なせてしまった人たちは二郎のことを責めません。菜穂子は無邪気に「生きて」と語りかけ、空に散っていったゼロ戦のパイロットも「素晴らしい飛行機をありがとう」と言います。そんな優しい態度は厳しく難詰するよりも、一層二郎を苦しめると思うのですが。
愛する伴侶を失い、才能は枯れはて、ズタボロになった飛行機の残骸のような体で生きていくというのは、このうえない罰であるかのように思えます。それでも二郎は「生きねば」とつぶやいて物語を閉じます。まるで自分の罰を従容として受け入れるかのように。


さて、今回大きな評価の分かれ目となったのは主人公・二郎を演じたアニメ監督庵野英明氏の声でした。いい加減贔屓目だとは思いますが、わたしは彼の声でよかったと感じました。というのは朴訥であまり感情のこもってない演技が、夢にうかされて現実を見ていない二郎のキャラクターによく合っていたから。そして普段は平板な彼の口調に、菜穂子を抱きしめる時だけぐぐっと熱い感情が込められる。そこがまた印象深かったです。
今回庵野氏が起用されたのは、彼もかつて作品を創るにあたり地獄を見た経験があったからだと思います。どこまで本気かわかりませんが、『エヴァ』TVシリーズ終了後精神的に追い詰められてビルから飛び降りようかな、とまで思ったとか。そんな彼の過去を知っていると、二郎が庵野氏にシンクロしてきて一層親しみ深いキャラに感じられたのでした(笑)
まあ庵野さんは二郎に比べるとかなりワイルドなクリエイターのようですけど。十五年ほど前読んだ本によりますと、スタッフが思い通りに動かないこと「チクショーチクショー」とつぶやきながらロッカーに頭をガツンガツンぶつけだすんだとか。そんで気迫に押されたスタッフが「仕方ない…」と言うことを聞くんだとか。「あれ、最初は素でやってたと思うんですけど今は計算してやってると思うんですよね」と某スタッフは語っておりました。今も果たしてその戦法を使っているのかどうかはわかりません。

Kztn2話が横道にそれましたが、言うまでもなく『風立ちぬ』は現在全国の映画館で上映中。そして朋友?高畑勲氏の新作『かぐや姫の物語』も今秋公開予定。これまたかぐや姫の「罪と罰」をめぐるお話だそうで… 高畑氏の作品は観てて辛くなるものもあるんですが、この競作、やはり自分の目で確かめないわけにはいきますまい。
そして庵野さん、そろそろ『新エヴァ完結編』の公開の日付を教えてくれんかね…


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Comments

そう!フォン・ブラウンの生き様も業があっていいですよねw

庵野さんの声はキャラに合っていたと思います。現実との距離感が・・・ってことで言えば私もそうですし、創作の業というなら「感動した」のカタルシスで済ませちゃうのは、ちょっとずるいなあっていう罪悪感もあります・・・

だから、みんな泣いたとか言っているんですが、そこまで泣けはしませんでしたね・・・物を作るお話は好きなんですが、『みんなのいえ』や『菊次郎とさき』とかのほうが、感情移入ができました(菊次郎のペンキ屋引退宣言の回は号泣です!)。
きっと私の生まれが裕福じゃないからなんだと思います(^_^;)

Posted by: 田代剛大 | August 16, 2013 at 11:14 PM

>田代剛大さん

すぐにコメントくださったのに返事が遅れてすいません…
フォン・ブラウンの話、ご存知でしたか。わたしは児童向けの伝記と『栄光なき天才たち』という漫画で読みました
感想は本当に人それぞれだと思うのですが、そんなに泣いた人がいたというのにちょっと驚きです
わたしはヒロインが去っていくシーンと最後の夢のシーンでちょっとほろっとは来たけど泣くまでにはいたらなかったかな

『みんなのいえ』は未見ですが『ラジオの時間』は好きです。あれもものづくりの映画ですよね。そして『菊次郎とさき』がものづくりの映画とは知らなかった…

Posted by: SGA屋伍一 | August 19, 2013 at 10:31 PM

SGAさんの描いた二郎さん 可愛いheart04

私も彼の声は嫌いじゃなかったですね。
わざとなのか大根なのかわからない感情のこもらない棒読みが
かえって飄々とした二郎のキャラに合っていたような・・・。

彼の夢は「美しい飛行機」を作ることだったのに
確かに結果的に多くの人の命を奪ってしまいましたね。
だからといって彼の責任ではないわけですが
自分が才能を注いだものがそんなものにだけ使われたのは
やっぱり辛かったでしょうねぇ。

Posted by: なな | August 24, 2013 at 08:17 PM

>ななさん

ども。オリジナルより幼いジローさんになってしまいました
庵野さんの声は受け付けない人もけっこういるようですね。ジブリさんもなかなか思い切ったことをなさいますが、この配役が話題を呼んでいることもたしかですし、やっぱりちゃんとした声優さんがやったらあまり印象に残らなかったかも

そういえばライト兄弟も単純に空を飛べたら…ということで飛行機を作ったのに、結果的に戦争で大々的に悪用されることになって深く胸を痛めていたと聞きました
せっかくのいい発明もことごとく軍事や犯罪に使ってしまう、人間の業というのは本当に深いものですね…

Posted by: SGA屋伍一 | August 26, 2013 at 09:00 PM

こんばんは!(*^^*)
庵野さんの声、賛否両論ですね〜。
私は、最初ちょっと違和感を感じましたが、見てる間に
気にならなくなりました・・・(^^;)
まあ、もう宮崎駿クラスになると、誰に文句言われようが
自分が作りたいものを作る!って感じなので、
それはそれで良いのかな〜って気もします・・・。

実在の堀越二郎氏は、このあと旅客機とかも設計されていたようなので
(奥さんもお子さんもいるし・・・)
本当のところは、アニメとはちょっと違う人物のような気もします。

Posted by: ルナ | August 28, 2013 at 10:37 PM

>ルナさん

こんばんはー

>宮崎駿クラスになると、誰に文句言われようが
自分が作りたいものを作る!って感じなので、

あー、これはわたしもよく思いますね。魔女宅もコナンもハウルも本作品も宮崎駿がやるからこそ原作とかなり違っても文句が来ない!というか。息子さんがやった『ゲド戦記』は御作者様からクレームきちゃったみたいですけど…

わたしも二郎さんのその後調べてみたのですが、宇宙ロケットの研究などもされてたようですね。この映画のように才能が果ててしまったわけではないようで、少し安心しました

Posted by: SGA屋伍一 | August 29, 2013 at 10:41 PM

SGAさんこんばんわ♪コメント有難うございました♪

・・・なんか庵野さん肯定派が多いと、否定的な自分はちょっと声が小さくなってしまう所ではありますが・・・^^;なるほど、庵野さんの演技は大根ではなく、夢と引き換えに感情を押し殺してるような人物と見れば、抑揚があまり感じられなかったのも理解は出来ますね。宮崎監督の声優チョイスはちょっと分からない部分も多いので、自分は毎回表面上の評価になっちゃってる気がします(汗

でも個人的に今年の邦画はこの堀越二郎のように、自分の夢や仕事に並々ならぬ情熱を捧げる職人気質な作品が多い感じもします。鑑賞してる範囲だと『舟を編む』や『県庁おもてなし課』、あとは『奇跡のリンゴ』もそうですね。『奇跡のリンゴ』は少し狂気をはらんでた分、夢を追うスタイルが堀越二郎に少し似てた気もします。

Posted by: メビウス | August 29, 2013 at 10:53 PM

>メビウスさん

こんばんは。
いや、受け入れがたいという人がいるのも十分わかりますよ!(笑) ただ自分は人間としての庵野監督にもけっこう興味があるので、冷静に演技を評価できないんですよね。はっきり「へた」と言い切れる人の方が客観的に判断をくだしていると思います。某押井守監督とかw
残念ながら自分、メビウスさんのあげている邦画はどれも観てないなあ… 『船を編む』は評判よかったですよね。自分は「戦争」と「夢」の関わりを描いた作品ということで原恵一監督の『はじまりのみち』を思い出したりしました。これよかったですよ~

Posted by: SGA屋伍一 | August 31, 2013 at 11:51 PM

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