人間やめてます・覚醒剤やめません ドン・ウィンズロウ オリバー・ストーン 『野蛮なやつら/SAVAGES』
『ストリート・キッド』の翻訳以来、日本でもミステリーファンの間で注目を集めているドン・ウィンズロウ。わたしもニール・ケアリー・シリーズや『ボビーZの気だるく優雅な人生』『犬の力』など読んでみましたが、どれも傑作でありました。そのドン・ウィンズロウの作品を名匠オリバー・ストーンが映画化したというので「ほうほう」と観にいってまいりました。『野蛮なやつら/SAVAGES』紹介いたします。
インテリのチョンと湾岸帰りのベンは子供のころからの親友同士。二人はお互い助け合って西海岸で超良質のドラッグを開発し、共通の恋人(!)オフィーリアとハッピーでバブリーな毎日を送っていた。ある日メキシコの麻薬密売組織が彼らのドラッグに目をつけ、彼らの傘下に入れと要求してくる。組織の要求が色々気に食わなかったチョンとベンは商売をたたみ西海岸から高飛びすることにしたが、それを察した組織はオフィーリアを誘拐して二人に言うことを聞かせようとする。
ドン・ウィンズロウの作品は、犯罪に関わる人々をひょうひょうとした筆致で描いたものが多いです。この『野蛮なやつら』の映画版も全体的に軽妙なムードが全体に漂ってるんですが、同時にゴア描写も半端なく。冒頭からはっきり切断するとこまでは映さないものの、チェーンソーで組織に逆らった連中が片っ端から首をチョンパされてたりします まあこれくらいは実在の麻薬組織もやってることなので仕方ないですね・・・ いや、仕方なくないけど。
そんな身の毛のよだつ連中を向こうに回すベン&チョンは、それぞれ才能もあるんだけどちょっとのんびりしてたり、ドンパチに慣れてなかったりでいまひとつ頼りない。そんな二人ですが、最愛のオフィーリアを取り戻すために手を汚していくにつれ、ずんずんと凄みを増していきます。
この「共通の恋人」ってのがなかなか他に類をみない関係であります。どちらかに隠してこっそりつきあっているわけでもなく、完全オープンで三人仲良くつるんでいる。ベンもチョンもお互いに嫉妬するわけでもなく、オフィーリアも二人を本当に平等に愛している。西海岸のファンキーな風土だからこそそんなカップル・・・じゃなくてトリオも成立するんでしょうか。
彼らを苦しめる麻薬組織の女首領もちょっと変わってます。敵対者たちは容赦なく血祭りにあげる残酷な面を持つ一方、最愛の娘に冷たくされるとメソメソしていたりする。ベニチオ・デル・トロ演じるその懐刀も本当に「人でなし」という言葉がぴったりくる極悪人なんですけど、どこか愛嬌があるというかにくめないというか。一生懸命「こいつを許しちゃいけない」と頭に刻もうとするんですけど、ついその振る舞いにニヤニヤしてしまいました。これは演じてる俳優の力もあるし、作者・監督が愛情を注いで造形しているからなんでしょうね。
オリバー・ストーンといえば重厚な作品を撮る人、という印象があったのですが、こんな人を食った映画を作るとは意外でした。
以後は若干ネタバレしてるので未見の方は避難していただきたいのですが
この映画、クライマックスも相当人を食ってます。登場人物がバタバタ死んでいって「むなしい結末だ・・・」とひたっていたら、急に「こうなるかと思ったんだけど」というモノローグとともにギュイギュイと時間が巻き戻っていく。そしてそのあとのもうひとつの結末が、「本当にそれでいいんかい!」と笑ってつっこみたくなるようなものでした。ただこの「もうひとつの結末」、オフィーリアが麻薬でラリッた頭で見た幻想としても解釈できそうな。どっちが真のENDなのかは、それこそ「観客にまかせる」ということなんでしょうね。
ちなみにオリバー・ストーンはよほどこの原作が気に入ったようで、ドン・ウィンズロウに「続編を書いて欲しい」と要請したとか。それをうけてドンさんもその気になっているとか。そしたらまたストーン監督が映画化するんでしょうか。
『野蛮なやつら/SAVAGES』はすでに上映終了(^^; 8月末にDVDが出ますので興味を惹かれた方は原作(角川文庫)かそちらをどうぞ。
Comments