まぶたの父と松林 デレク・シアンフランス 『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』
「天は二物を与えず」とはいいますが、最近イケメンかつ演技力もあるということで人気を博しているのが(むかつくなあああ!)ライアン・ゴズリングとブラッドリー・クーパー。本日はその二人が共演した、骨太かつ叙情性ある人間ドラマを紹介します。『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』、まずはあらすじから。
サーカスと共に町から町を渡り歩く曲芸ライダー・ルーク。彼は久しぶりに訪れたNY州スケネクタディで、かつて一夜を共にした女性・ロミーナが自分の子供を産んでいたことを知る。彼女と子供のために生きることを決意したルークはサーカスをやめてスケネクタディに留まるが、すでに新しい恋人がいるロミーナはそれを歓迎しなかった。どうしたら自分は「父」として認められるのか… 悩んだルークは大金を得るために銀行強盗に手を染める。
序盤のストーリーはこんなところですが、この映画全体的に三部構成となっております。1部はルークが、二部は彼と対峙することになる警官が、三部はルークの子供がお話をひっぱっていきます。ただ作品中もっとも強烈な輝きを放っているのはゴズリング演じるルーク。寡黙で謎めいていて、運転技術は半端ないところなどは昨年の『ドライヴ』に登場した「ドライヴァー」と似ています。
ただゴズリングが「『ドライヴ』はファンタジーなのに比べ、『プレイス~』は地に足の着いた作品」と述べているように、ルークはドライヴァーほど無敵ではないし、超然ともしていません。失敗もしますし、思うようにことが運ばないと激しく苛立ちます。そしてドライヴァーが母子のために無私の愛を示したのに、ルークは「自分のことを愛して欲しい」という思いがあります。そんな彼の激しい気性と切ない愛情が悲劇へとつながっていきます。
恐らく行く先々の町で女をとっかえひっかえしてたであろう「ハンサム」ルークが、家庭的なパパになろうと決意するあたりはいささか唐突に感じられました。ただまあ、彼は彼で旅の生活にむなしさを感じていて、ずっと自分の留まれる場所を探していたのかもしれません。そんなところへ自分の息子の存在を知り、「ここだ!」と思い定めてしまったのでしょう。『俺たちに明日はない』『ヒート』『ザ・タウン』など、銀行強盗映画の主人公は「どこか遠くへ行きたいなあ」と願っていることが多いですが、逆に「ここにいたいねん」と思っている例は珍しいですね。
そんな風にルークがスケネクタディに居ついてしまったことが、何人かの運命を大きく変えていきます。そのうちの1人がブラッドリー・クーパー演じるクロス。ルークの息子のジェイソンもそうです。面白いことに彼ら3人はそれぞれほんのちょっとずつしか顔を合わせていないのに、その出会いが互いの人生にとって大きな転機となります。実にドラマチックでありますが、狭い町の中で強烈な個性が暴れまわってると、そういうことも現実にあるんじゃないか…という気がしてきます。
スケネクタディというのはモホーク族の言葉でまさに「松林の向こう」という意味なんだそうです。これは松林の中のある窪みに他所から水流が流れ込んで、ひとしきりぐるぐると淀みを作ったのちに、出口を見つけてまた新たな場所へ流れていく・・・ そんなお話なのかもしれません。すいません、なに言ってんだかよくわかんないですね!
親子二代に渡る因縁話ということでは、スティーブン・ハンターの『ダーティ・ホワイト・ボーイズ』と『ブラック・ライト』を思い出したりしました。それぞれ第一作『極第射程』が映画化された「ボブ・リー・スワガー・シリーズ」の番外編・第2作にあたります(むかしこんなレビューを書いたこともありました)。『プレイス~』と同じく、親というのはたとえこの世を去ったとしても、子供の歩む道に大きく関わってくるものなのだなあ・・・ということをしみじみ感じさせる二作(まあみんなフィクションですけど…)。『プレイス~』のムードが気に入った方に強く推奨いたします。まだ普通に入手できるといいのですが(扶桑社ミステリー文庫刊)。
『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』は残念ながら東北・九州を除いてぼちぼち公開が終了。わたしが観た小田原でも明日までです(言うのがおせーよ)。そ、そのうちDVDが出るかと…
四輪、二輪と来たゴズリング君。恐らく次は一輪車の達人の役だと思います。
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