その憲法、いつ変えるんですか? いま(略) スティーブン・スピルバーグ 『リンカーン』
♪リンリン カンカン 総理大臣(←大統領だよ!) ここのところ『秘密の書』『声を隠す人』とリンカーン関連の映画が微妙に続いておりますが、ここに来てようやくスピルバーグ御大による真打が登場しました(そろそろ公開終わりそうですが…)。『リンカーン』、ご紹介いたします。
南北戦争もようやく北軍の勝利が見えてきた1865年。北側の最高権力者リンカーンは悩んでいた。下院では未だに黒人に財産所有の権利を与えることをよしとしない勢力が多く、このまま戦争が終結しては結局奴隷解放は実現しないことになってしまう。リンカーンは戦争が終わる前に憲法を改定すべく、あの手この手を使って必要な票を集めようとする。
いやあ、いきなりビックリですよ。南北戦争っててっきり奴隷を解放する・しないが原因でもめてたと思ってたのに、北側でも「奴隷を解放するべきじゃない」という勢力があったなんて・・・ じゃあなんであんたら戦争なんて始めたの? ・・・まあ奴隷解放も争点のひとつだったんでしょうけど、他にもいろいろ原因があったんでしょうなあ。
リンカーンもあまりにも有名すぎて「浮世離れした聖人」みたいなイメージがありますけど、スピルバーグが描いているのは「目的のためには汚い手もいとわないやり手の政治家」であります。理想に燃えるのもいいですけど、あんまり石頭だったり潔癖症だったりすると、肝心の目標は達成されません。その石頭代表として出てくるのがトミー・リー・ジョーンズ演じるタデウス・スティーブンス議員です。彼の強硬的な姿勢がかえって反対派の勢力を増してしまうため、リンカーンは志を同じくしているスティーブンス議員のことまであれこれ気を回さなきゃいけません。
そんな一票のやりとりを眺めていると、どうしても「自分がそこにいたらどうしただろう」と考えてしまいます。今の時代から見れば「奴隷解放」が正義であったのは明らかな事実です。しかしその時代の白人たちにとって、黒人に権利を与えることは自分たちの安寧を脅かすことにもなりかねない。それでもあえて良心の声に従うことはできるか? 加えて反対派の議員達には人のしがらみとか裏切りへの負い目とかもあるわけです。始終ゆらぎまくりの自分としては微塵の迷いもないリンカーンより、そんな寝返り議員さんたちの方に感情移入してしまいました。
そういえばリンカーンがなんでそんなに奴隷解放に熱心だったのか、ということについて映画では特に語られてませんでした。自分で調べろ、考えろ、ということなのかもしれませんが、そういう意味では『秘密の書』の方が親切でしたねえ。
死傷者の数が増えるにも関わらず、法案可決のために戦争を引き伸ばそうするリンカーンの姿に戸惑いを覚える人も多かろうと思います。しかしそうでもしなければそれまで戦いで死んだ兵士たちはそれこそ犬死にになってしまうわけで・・・ むずかしいですね。「多くの命を犠牲にしてまで得るべきものはあるのか?」ということをこれまでもスピルバーグは何度か語ってきました。『プライベート・ライアン』では1人の命を救うために次々と散っていく兵士たちの物語を。『ミュンヘン』では失われた命の鎮魂のためにさらに多くの血を流す矛盾を。もしかしたら彼にとっての永遠のテーマのひとつなのかもしれません。
そうした国を左右する問題と並行してリンカーンの家族・・・ 妻や長男、末の息子たちの苦悩も少々語られます。その後の彼らが気になったのでわたくしウィキで調べてみました。そしたら死亡フラグの立ってた長男はじじいになるまで長生き、末の息子は成人になる前に死去、奥さんはリンカーンの死後精神を病み、ずっと病院暮らしだったとか・・・ あまり評判のよくないリンカーン夫人ですが、こうしてみると気の毒というほかありません。
というわけで『リンカーン』は全国のシネコンで上映中ですが、アカデミー作品賞・監督賞を逃したせいもあってか、あまり客入りはよろしくないようです。やはりここはあの言葉を言うしかありません。いつ観るんですか? い(略)
Comments
伍一くん☆
今でしょう?
私も南北戦争はてっきり奴隷解放が目的の戦争と思っていましたが、ある意味他国の歴史は大雑把にしか理解できてないものだわねぇ。
確かに1つの目的のために、貴重な命を失っていくジレンマは、現在のアメリカにまだ続く問題だよねー
Posted by: ノルウェーまだ~む | May 30, 2013 11:17 PM
おじゃまします~
総理と呼ばないでの隕石のやつって『ヘルメットの総理』ですよね?副総理が地元警察からの電話を聞き間違えちゃうやつw
しかも総理は総理で俺に作業着は似合わないとか駄々こねて、被災地にいかないし・・・こういうドラマ今じゃ更にできなくなっちゃったかも・・・
『リンカーン』ですが、日本ではなんか地味って感じでウケがイマイチなようですが、こういう重厚な歴史ドラマってやっぱかっこいいですよね。
作中の考察や分析は全く同感で、むしろ伍一さんの方が的確で言葉もありません。
もしあの場に自分がいたらどう考えるんだろう?っていう想像力は大事ですよね。
サンデル教授じゃないけれど、どっち選んでもきついっていうジレンマ、社会には割りとありますよね・・・
Posted by: 田代剛大 | May 31, 2013 12:58 AM
>ノルウェーまだ~むさん
人種問題もあったようですけど、経済政策その他の点でも意見が合わず、キレた南部が反乱を起こした・・・というのが南北戦争の発端のようです(ホントか?)
>確かに1つの目的のために、貴重な命を失っていくジレンマは、現在のアメリカにまだ続く問題だよねー
キャスリン・ビグロー監督の『ハートロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティー』など観ますと、まさしくその通りだなあ、と思います
Posted by: SGA屋伍一 | May 31, 2013 11:01 PM
>田代剛大さん
コメントありがとうございまする
隕石の話、ゴーダイさんもよく覚えてますねw あれはたぶん『アルマゲドン』のパロディだったんでしょうね。「んなことあるいわけねえだろw」と笑いながら観てましたが、先日ロシアにでっかい隕石が落ちてくる映像を見たときには「現実にもあるんだ・・・」と思いました
リンカーン、たしかに日本ではそんなに人気なさそうですね。しょせんよその国の大統領ですからねw あと日本人って若いうちに頂点極めてさっさと亡くなる人が好きなんじゃないかと。リンカーンは最後こそ悲劇的でしたが、わりと長いこと権力にぎってたし。おじいちゃんだし
>サンデル教授じゃないけれど、どっち選んでもきついっていうジレンマ、社会には割りとありますよね・・・
それはつまりカレー味のウンコとウンコ味のカレー、どっちを選ぶかみたいな(違)
Posted by: SGA屋伍一 | May 31, 2013 11:08 PM
こんばんは!(^_^)お久しぶりです。
すっかりサボリ癖がついてしまったみたいで・・・。
リンカーン、ドラマとしてはそれなりに面白いですが、
映画としてはちょっと地味過ぎかな〜って感じました。
私的には、色モノの『秘密の書』の方が
作品としては楽しめた感じです。
なので、伍一さんの感想を読んで
そんな深いトコまで考えてるなんて、さすがっス!!!
Posted by: ルナ | June 02, 2013 11:10 PM
>ルナさん
おかえりなさい~&ご無沙汰しててすいません
確かに地味といえば地味ですね。画面に出てくるのはほとんどおじいさんとおじさんばっかりでしたし。たまに女性が出てきたかと思えばおばあさんだし(^^;
そういう意味では『秘密の書』の方が華やかでしたね。リンカーン夫人ももう少し愛嬌があったかと思います
深いトコまで考えてるように思えたらそれは気のせいです。毎度行き当たりばったりで書いてます(^^;
Posted by: SGA屋伍一 | June 04, 2013 10:18 PM
> どうしても「自分がそこにいたらどうしただろう」と考えてしまいます。
うーん、とりあえず、リンカーンとスティーブンス議員のBL小説とかを書く気がする。
Posted by: ふじき78 | April 06, 2014 08:29 AM
>ふじき78さん
あら、ふじきさん、てっきり単なる女好きかと思っていたら、もしかして… 両刀?
Posted by: SGA屋伍一 | April 07, 2014 10:46 PM