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May 15, 2013

嵐が吹けば風呂桶が溢れる ベン・ザイトリン 『ハッシュパピー バスタブ島の少女』

Hpbj1バスタブ島がありまして イライラ家族がいるんです

今年度アカデミー賞で異彩を放ったインディペンデント系映画。南洋の自然に生きる父娘の姿を描いた『ハッシュパピー バスタブ島の少女』、ご紹介します。

そこは南洋の孤島、バスタブ島。元気な女の子ハッシュパピーは、時々いなくなる短気なお父さんウィンクと、動物に囲まれた毎日を送っていた。しかしバスタブ島は大きな問題を抱えていた。近くの陸地の防波堤のため、大雨が降ると島の水位が大幅に上がってしまうのだ。ある大嵐の夜、バスタブ島はとうとう完全に水に浸かってしまう。

ハッシュパピーというとわたしはある小説の主人公が愛用していた靴のことを思い出すんですが、これ、もともとは「子犬のえさ」みたいな意味があるそうです。そういやウィンクさんは、劇中で何度か「エサの時間だぞー!」と叫んでいたっけ。かわいい娘にそんな名前をつける親の気が知れません。

今年度のアカデミー作品賞、主だったものを思い返すと『アルゴ』『レ・ミゼラブル』『ライフ・オブ・パイ』『リンカーン』などがありましたが、こうした起伏のはっきりした作品群と比べると、『ハッシュパピー』はかなり毛色の違った映画。それなりにストーリーはありますが、いろいろ唐突だったり、散漫だったり。それがかえって作品の個性となっております。なんだかボクシングの大会の中に、1人だけムエタイの選手が混じっているような・・・ なんかしっくりこない例えですね。いまのなし。

それはともかく、この映画二通りの見方ができると思いました。ひとつはちょっと変わった親子のお話として観ることができます。名作劇場では女の子のお父さんは大概たのもしい人格者として描かれますが、ウィンクさんはそんな理想のお父さん像からは程遠いです。ささいなことですぐきれたり、わがままを言ったり。娘の前から突然姿を消してしまうこともあります。なんというかメンタリティがあまり子供と変わらないんですよね。わたしは見ていて漫画『じゃりん子チエ』のお父さん「テツ」を思い出しました(笑) 無鉄砲で傍若無人なんだけどどこか憎めないあたりも「テツ」とよく似ています。
そんな赤点パパでもハッシュパピーにとってはたった一人のお父さんであります。時にすねたり、時にすがりついたりして父を慕うパピーちゃんの姿がいじらしかったです。

もうひとつはこれが「滅びゆくもの」の鎮魂歌・・・じゃなく、応援歌でもあるということ。序盤のあたりから古代に滅びたはずの巨大牛(猪?)が復活する姿がしばしばインサートされるのですが、これがパピーちゃんと深い関わりがあるのかといえば、あんまりなかったりします。たぶんこの古代種はパピーちゃんやウィンクさんのような人々の象徴なのでしょう。
文明社会から距離を置き、自由奔放に生きる人々に今の世界は肩身が狭いものとなっています。環境の変化も彼らが生きられるエリアを狭くしています。では彼らは滅びるしかないのか? ・・・いや、そんなことはない。生き物の「野性」は一見滅んだように見えても、すぶとく根深く生き続けていくものだ・・・ そんな監督の独白が聞こえてきたような気がしました。

「大洪水」「巨大猪」「野生的な少女」といったキーワードはスタジオジブリの作品を想起させます。似たようなビジュアルも幾つかあります。でも同じ素材を使っていても、やはりというか全然印象違いますね。少なくともこちらはジブリみたいに子供が観て楽しめる映画ではないですね。月並みな表現ですが、句の短い詩の様につかみどころがなく、人の好みの分かれる作品だと思いました。

Hpbj2というわけで『ハッシュパピー バスタブ島の少女』は現在全国の劇場で公開中・公開予定でございます。今年度アカデミー作品賞にノミネートされた映画も、興味あるものはこれで大体観ましたかね。残る最後の1本『リンカーン』も近々レビュー予定です。


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Comments

SGAさん、こんばんは
 最後のでっかい牛みたいなのと向い合う瞬間の映像、あれなんか凄かったですよね。
CGではなく本物だったのかな、インディーズ映画だったから、おそらくガチでやってるんじゃないかと思うんですが、女の子は全くビビってなくて、見事でしたよね。
 「ハッシュパピー」の靴、ご存知でしたかー。私もここの靴は履きやすくて好きでした。日本で買うとちょっと高いんですけどね。
ただここでの意味は、「子犬の餌」以外に、「トウモロコシ製のパン」という意味があるようですよ。
おそらくは、“生命の源”とか、土着に根付いた生命力のある人をイメージして付けられた名なのでしょうね。
彼女は立派に生き残っていきますしね。

Posted by: とらねこ | May 24, 2013 at 12:43 AM

とらねこどん、こんばんは
最後の牛?は絶滅した種類だと言っていたけれど、普通の牛にメイクでもしたんでしょうか。ガチで生き物を使ってるとしたら、なかなかによく訓練されていましたね。『マッハ弐!!』の象さんを思い出します
ハッシュパピーは『消されかけた男』というスパイ小説の主人公が愛用?していたので覚えていました。あんまり足音がしないんだとか。そういえばとらねこどんは一時期靴屋さんにも勤めてたって言ってましたね
「トウモロコシ製のパン」か。なるほど。パピーちゃんのたくましさ、見習いたいですね

Posted by: SGA屋伍一 | May 24, 2013 at 11:29 PM

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