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May 29, 2013

その憲法、いつ変えるんですか? いま(略) スティーブン・スピルバーグ 『リンカーン』

Photo_5♪リンリン カンカン 総理大臣(←大統領だよ!) ここのところ『秘密の書』『声を隠す人』とリンカーン関連の映画が微妙に続いておりますが、ここに来てようやくスピルバーグ御大による真打が登場しました(そろそろ公開終わりそうですが…)。『リンカーン』、ご紹介いたします。

南北戦争もようやく北軍の勝利が見えてきた1865年。北側の最高権力者リンカーンは悩んでいた。下院では未だに黒人に財産所有の権利を与えることをよしとしない勢力が多く、このまま戦争が終結しては結局奴隷解放は実現しないことになってしまう。リンカーンは戦争が終わる前に憲法を改定すべく、あの手この手を使って必要な票を集めようとする。

いやあ、いきなりビックリですよ。南北戦争っててっきり奴隷を解放する・しないが原因でもめてたと思ってたのに、北側でも「奴隷を解放するべきじゃない」という勢力があったなんて・・・ じゃあなんであんたら戦争なんて始めたの? ・・・まあ奴隷解放も争点のひとつだったんでしょうけど、他にもいろいろ原因があったんでしょうなあ。

リンカーンもあまりにも有名すぎて「浮世離れした聖人」みたいなイメージがありますけど、スピルバーグが描いているのは「目的のためには汚い手もいとわないやり手の政治家」であります。理想に燃えるのもいいですけど、あんまり石頭だったり潔癖症だったりすると、肝心の目標は達成されません。その石頭代表として出てくるのがトミー・リー・ジョーンズ演じるタデウス・スティーブンス議員です。彼の強硬的な姿勢がかえって反対派の勢力を増してしまうため、リンカーンは志を同じくしているスティーブンス議員のことまであれこれ気を回さなきゃいけません。

そんな一票のやりとりを眺めていると、どうしても「自分がそこにいたらどうしただろう」と考えてしまいます。今の時代から見れば「奴隷解放」が正義であったのは明らかな事実です。しかしその時代の白人たちにとって、黒人に権利を与えることは自分たちの安寧を脅かすことにもなりかねない。それでもあえて良心の声に従うことはできるか? 加えて反対派の議員達には人のしがらみとか裏切りへの負い目とかもあるわけです。始終ゆらぎまくりの自分としては微塵の迷いもないリンカーンより、そんな寝返り議員さんたちの方に感情移入してしまいました。

そういえばリンカーンがなんでそんなに奴隷解放に熱心だったのか、ということについて映画では特に語られてませんでした。自分で調べろ、考えろ、ということなのかもしれませんが、そういう意味では『秘密の書』の方が親切でしたねえ。

死傷者の数が増えるにも関わらず、法案可決のために戦争を引き伸ばそうするリンカーンの姿に戸惑いを覚える人も多かろうと思います。しかしそうでもしなければそれまで戦いで死んだ兵士たちはそれこそ犬死にになってしまうわけで・・・ むずかしいですね。「多くの命を犠牲にしてまで得るべきものはあるのか?」ということをこれまでもスピルバーグは何度か語ってきました。『プライベート・ライアン』では1人の命を救うために次々と散っていく兵士たちの物語を。『ミュンヘン』では失われた命の鎮魂のためにさらに多くの血を流す矛盾を。もしかしたら彼にとっての永遠のテーマのひとつなのかもしれません。

そうした国を左右する問題と並行してリンカーンの家族・・・ 妻や長男、末の息子たちの苦悩も少々語られます。その後の彼らが気になったのでわたくしウィキで調べてみました。そしたら死亡フラグの立ってた長男はじじいになるまで長生き、末の息子は成人になる前に死去、奥さんはリンカーンの死後精神を病み、ずっと病院暮らしだったとか・・・ あまり評判のよくないリンカーン夫人ですが、こうしてみると気の毒というほかありません。

Rc2というわけで『リンカーン』は全国のシネコンで上映中ですが、アカデミー作品賞・監督賞を逃したせいもあってか、あまり客入りはよろしくないようです。やはりここはあの言葉を言うしかありません。いつ観るんですか? い(略)


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May 27, 2013

怪人二十面走 レオス・カラックス 『ホーリー・モーターズ』

110826_203117まだGW中に観た作品の感想をちまちまと書いています… 熱狂的なファンと高い評価を得ているものの、寡作で知られるフランスの鬼才レオス・カラックス。その待望の13年ぶりとなる新作長編が日本でも公開されました。『ホーリー・モーターズ』、紹介します。

早朝、厳重な警戒の中、豪邸から出てくる一人の初老の男。彼は乗り込んだリムジンの中で貧しい老婆へと変装する。橋で物乞いをしたあと、再びリムジンに乗り、今度は特殊撮影のスタジオに入る男。その後も変装を繰り返しながら、男は忠実な運転手と共にリムジンでパリの街を縦横無尽に走り回る。

あらすじだけ読むとよくわからないと思いますが、映画を実際に観てもなかなかよくわかりません(笑) パリの街を車で走りながらシュールで不条理な物語が展開していくあたりは、『地下鉄のザジ』を思い出しました。『ザジ』のどんちゃかやかましいカラーと比べると、こちらはもう少ししっとり落ち着いている感じではありますが。

足りない頭で色々考えてみるに、この映画はまず『ザジ』と同じく「夢」を描いた作品だと思いました。ここで言う「夢」とは希望や目標のことではなく、単にわたしたちが寝ている間に見ているアレのことです。
夢というのはストーリー的に脈絡がなく、舞台・背景が頻繁に変わることも珍しくありません。そして取り返しのつかないことをしてしまったり、うっかり死んでしまったりしても大抵はそのまま進んでいくもの。
一見わけわかんないような映画であっても、自分が日ごろ見る夢のことを思い出すと「あるある」と共感できたのでした。

もうひとつ、これは「役者」の映画でもあるんじゃないかなあと。こんなに多種多様な人間になりきらなきゃいけない職業があるとすれば、それはスパイか役者さんしかいないと思います。ひっきりなしにオファーがあり、有能な運転手(秘書?)が付いているところを見ると、この役者さん、さぞキャリアのある名優なんでしょうなあ。
ただいささか窮屈そうなのは彼が素に戻れるのはそれこそリムジンの中だけだということです。車の中から出た途端、彼は別人になりきらなければいけない。ではなぜ彼が本当の自分でいられるのは「車の中」だけなのか? すいません。わかりません。 
ただ車ってのは移動するための機械であり、基本頻繁に動き回っているものです。そんな車の特性が映画界や役者という職業の流動性・不安定さと重なるような気はします。

他に『ポンヌフの恋人』しか観てない身で語るのも大概大それているんですが、代表作のあらすじをさらっと読んだ限りではカラックスって「悲恋と放浪」がテーマの人なのかな、と思ってました。でも『ホーリー・モーターズ』を観ると放浪はともかく、もう悲恋にはそれほど興味がなくなっているような。次に撮りたい作品は「スーパーヒーローもの」ということなので、むしろ「超人願望」みたいなものに関心がむいているのかもしれません。もっともその「スーパーヒーロー」も「必ずしも何かと闘わなくてもいい。何か超能力を持っている存在」ということなので、いまよく作られているアメコミヒーロー映画とはだいぶ違うものになりそうです。観てみたいですね!

20070901084004『ホーリー・モーターズ』は公開から二月近くが経っていますが、まだメイン館のユーロスペースで辛うじて上映中。他の地方の劇場へもこれから巡回していくようです。とりあえずこの予告編を見て、そのわけわからなさを少しでもわかってほしいです。


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May 20, 2013

元社長・島鋼鉄 シェーン・ブラック 『アイアンマン3』

J2vp9この映画も初日にはりきって観に行ったはずなのにもう二十日くらい経ってますね(笑) 今日もお酒飲んじゃって非常にかったるいんですけど、がんばって感想書きます。途中で力尽きたらそれまでということで・・・ ヒーロー大集合の『アヴェンジャーズ』以降を描く第一弾『アイアンマン3』、ご紹介します。

未知の世界からの侵略を、他のヒーローたちと共に迎え撃ってから一年。アイアンマンことトニー・スタークは恋人ペッパー・ポッツの心配をよそに新型アーマーの開発に没頭し続けていた。折りしもアメリカでは「マンダリン」と名乗る国際テロリストが電波をジャックしては攻撃的なメッセージを送り続け、人々を不安に陥れていた。マンダリンの魔の手が親友の命をも脅かすにいたり、トニーは激怒。彼に真っ向から挑戦状を叩きつける。しかしそのことがアイアンマン最大のピンチをまねくことになろうとは・・・

はい、今回はもう完全に観た人むけ。ネタバレが嫌な人はいますぐ映画館に行って観て来て下さい。
まず観賞終了後ツイッターでフォローしてる方がUST中継でおっしゃってて「なるほど」と思ったんですがね、トニーのスーツの改良ってより強力に・・・という方向に向かってないんですよね。『2』の携帯スーツ、『アベンジャーズ』での遠隔操縦などを見てわかるように、「いつでもどこでもすぐに着られるように」という方へ改良しています。
他のヒーローと違ってトニーの場合は世間に正体をさらしています。それだけにいつどこで誰に襲われたとしても不思議ではない(にも関わらず今回自分から個人情報ばらしちゃうのには頭を抱えちゃいましたが・・・)。そういう不安が「常にアーマーが近くにないと不安でたまらない」状態へ彼を追いやってしまったのかもしれません。まさにアーマー中毒、武装依存症とでも言うような状態に陥っております。

今回の主なテーマはそのあたりにあります。「強い敵をどうやって倒すか」というより、「自分の中にある弱さ・恐怖をどうやって克服するか」というお話。シリーズを通してトニー・スタークはあまり人を信用せず、なるたけ自分の力のみで解決するきらいがありましたが、それでは依存症からは抜け出せません。今回トニーは自分の限界を認め、何人かの人々の助けを借りることによって危地から脱出します。本当に強くなることというのは、己の弱さを知り、必要とあらばすすんで人の援助を求めることなのかもしれません。
自分にとって真に必要なのは武装ではなく最愛の女性であることに気づいた時、トニーはとうとう鎧依存症を克服します。まさに(ひとまず)シリーズ完結にふさわしい幕切れでございました。

しかし。しかしです。作者自らの手で次々と爆破されていくアーマーたちを見て「そこまでせんでもええだろおお!! もったいねえええ!! そんな風にするんだったらオレにひとつくらいくれえええ!!!」、という思いは否めませんでした。やっぱあれですかねえ。男は結婚を決めたらオタク趣味とはおさらばしなきゃいかんということですかねえ。わたしがいつまで経っても結婚に踏み切れない理由もその辺にあるのかもしれません(まるでしようと思えばいつでもできるような口ぶりだな!)。

まあ例によってテロップで「アイアンマンは『アヴェンジャーズ2』で帰ってきます」と出てきたので、あれは恋人の前でのとりあえずのデモンストレーションにすぎなかった、という見方もできます。彼の自宅の地下にはまだまだ大量のアイアンスーツが隠されているのかも。そうだったらいいのにな♪

アメコミファンからの情報をひとつ。今回実に見かけだおしぶりが素晴らしかった「マンダリン」ですが、原作ではけっこうな超能力も持つちゃんとした?悪役です。それがなぜ映画ではあんな扱いになってしまったのでしょうか。
実はアイアンマンというのは登場当初少なからず右翼的な部分のあるキャラクターでした。最初の敵はベトナムのゲリラでしたし、その後も共産圏出身の悪役と戦うエピソードが続きます。このマンダリンも「中国の犯罪組織を牛耳っている」という設定でしたし。
近年の「アイアンマン」は、映画もコミックもそういった昔のカラーからなんとか抜け出そうと奮闘しているように思えます。真の敵は国外にあるのではなく、軍備を増強しようとする自国の勢力であり、そして己の内にある…そんなメッセージを感じました。

6v0mg日本では世界でも最速公開となった『アイアンマン3』。残念ながら『コナン』にはかないませんでしたが(・・・)、それでも前2作を上回る堂々たるヒットぶりであります。もちろん本国では二週連続の1位で、三週目ですでに337,073,000ドルをもうけております。その結果を見たからか、マーベルのトップは「アイアンマン4、5もあるだろう。トニー・スタークは007のように役者が変わっても続いていく普遍的なキャラクターにしたい」との発言。うーんうーんwobbly
でもまあかつてめちゃくちゃ人気が低迷してて「その他大勢」の1人であったアイアンがこんだけ大うけしてるのは、やはり微笑ましいことであります。
『アイアンマン3』はまだひきつづき全国の劇場で上映中でありますが、その期間をどこまで延ばすことができるでしょうか。画像はハズブロから出てる3.75インチの「アッセンブル」シリーズ。手足を自由に組み替えられるのが楽しい玩具ですが、ちょっと小さいのが難点です。


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May 15, 2013

嵐が吹けば風呂桶が溢れる ベン・ザイトリン 『ハッシュパピー バスタブ島の少女』

Hpbj1バスタブ島がありまして イライラ家族がいるんです

今年度アカデミー賞で異彩を放ったインディペンデント系映画。南洋の自然に生きる父娘の姿を描いた『ハッシュパピー バスタブ島の少女』、ご紹介します。

そこは南洋の孤島、バスタブ島。元気な女の子ハッシュパピーは、時々いなくなる短気なお父さんウィンクと、動物に囲まれた毎日を送っていた。しかしバスタブ島は大きな問題を抱えていた。近くの陸地の防波堤のため、大雨が降ると島の水位が大幅に上がってしまうのだ。ある大嵐の夜、バスタブ島はとうとう完全に水に浸かってしまう。

ハッシュパピーというとわたしはある小説の主人公が愛用していた靴のことを思い出すんですが、これ、もともとは「子犬のえさ」みたいな意味があるそうです。そういやウィンクさんは、劇中で何度か「エサの時間だぞー!」と叫んでいたっけ。かわいい娘にそんな名前をつける親の気が知れません。

今年度のアカデミー作品賞、主だったものを思い返すと『アルゴ』『レ・ミゼラブル』『ライフ・オブ・パイ』『リンカーン』などがありましたが、こうした起伏のはっきりした作品群と比べると、『ハッシュパピー』はかなり毛色の違った映画。それなりにストーリーはありますが、いろいろ唐突だったり、散漫だったり。それがかえって作品の個性となっております。なんだかボクシングの大会の中に、1人だけムエタイの選手が混じっているような・・・ なんかしっくりこない例えですね。いまのなし。

それはともかく、この映画二通りの見方ができると思いました。ひとつはちょっと変わった親子のお話として観ることができます。名作劇場では女の子のお父さんは大概たのもしい人格者として描かれますが、ウィンクさんはそんな理想のお父さん像からは程遠いです。ささいなことですぐきれたり、わがままを言ったり。娘の前から突然姿を消してしまうこともあります。なんというかメンタリティがあまり子供と変わらないんですよね。わたしは見ていて漫画『じゃりん子チエ』のお父さん「テツ」を思い出しました(笑) 無鉄砲で傍若無人なんだけどどこか憎めないあたりも「テツ」とよく似ています。
そんな赤点パパでもハッシュパピーにとってはたった一人のお父さんであります。時にすねたり、時にすがりついたりして父を慕うパピーちゃんの姿がいじらしかったです。

もうひとつはこれが「滅びゆくもの」の鎮魂歌・・・じゃなく、応援歌でもあるということ。序盤のあたりから古代に滅びたはずの巨大牛(猪?)が復活する姿がしばしばインサートされるのですが、これがパピーちゃんと深い関わりがあるのかといえば、あんまりなかったりします。たぶんこの古代種はパピーちゃんやウィンクさんのような人々の象徴なのでしょう。
文明社会から距離を置き、自由奔放に生きる人々に今の世界は肩身が狭いものとなっています。環境の変化も彼らが生きられるエリアを狭くしています。では彼らは滅びるしかないのか? ・・・いや、そんなことはない。生き物の「野性」は一見滅んだように見えても、すぶとく根深く生き続けていくものだ・・・ そんな監督の独白が聞こえてきたような気がしました。

「大洪水」「巨大猪」「野生的な少女」といったキーワードはスタジオジブリの作品を想起させます。似たようなビジュアルも幾つかあります。でも同じ素材を使っていても、やはりというか全然印象違いますね。少なくともこちらはジブリみたいに子供が観て楽しめる映画ではないですね。月並みな表現ですが、句の短い詩の様につかみどころがなく、人の好みの分かれる作品だと思いました。

Hpbj2というわけで『ハッシュパピー バスタブ島の少女』は現在全国の劇場で公開中・公開予定でございます。今年度アカデミー作品賞にノミネートされた映画も、興味あるものはこれで大体観ましたかね。残る最後の1本『リンカーン』も近々レビュー予定です。


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May 13, 2013

ジェリーフィッシュ×キャッツアイ 片岡翔・中田真由美 『くらげミタイな猫』

Kmtn1色々都合が合わなかったりで最近ご無沙汰していた猫目映画上映会。4月末に1年ぶりに観にいくことができました。そのイベントの名は京橋ルクスギャラリーにて行われた「くらげミタイな猫」。片岡翔監督の短編上映と交互して、音楽を担当している中田真由美さんのライブを行うというありそうであまり聞かない試み。では上映された作品を出だしだけ順番に紹介して参ります。

☆『なんにもでて こない話』
公園のベンチで恋人を待っている爆発頭の青年。本当は大事な話をしようと思っていたのだが、不意打ちのように彼女が現れたため、肝心のことを忘れてしまう。「あれ、なんだっけ?」と思い出そうとするが、彼と恋人の物忘れはとどまるところを知らず・・・

実は監督がご自身の結婚式のサプライズのためにわざわざ撮影したという1本。若い二人の微笑ましいやり取りが、オヤジには正直まぶしい(笑) 
あまりに激しい二人の物忘れは、落語の「みょうが宿」を彷彿とさせます。
青年の恋人役を演じる小宮一葉さん、どこかで観たことがあるなあ~と思っていたら、今泉力哉監督の『最低』や片岡監督の『party』にも出演されてた女優さんでした。今泉監督の『こっぴどい猫』という作品でも好評を得ているそうで。
『最低』では女の怖さを感じさせる役を、『party』では危うげな少女のような役を演じてましたが、こちらでは等身大の無邪気な女の子を好演。それぞれに違う顔を見せてくれて将来が楽しみな女優さんです。
あと作品の背景となっている公園は、わたしが初めて観た猫目作品『Mr.バブルガム』でも使われていたところでした。両作品の対照的なところや共通してるところを思い出してニヤリといたしました。


☆『ヒゲとりぼん』
少しやさぐれている女子高生きっこ。彼女にはいつも「ヒゲ」「りぼん」という二人の男が影のようにつきしたがっている。そしてヒゲとりぼんはきっこにしか見えない・・・

猫目映画の中でもとりわけ発想の面白さが光る一本。特に何をされるわけでもないけれど、トイレでもベッドでもいつも「誰か」が一緒だというのは年頃の女の子にはきつくないのかな・・・とも思いますが、生まれた時からずっとそうならそれがかえって自然なのかも。そのあたりの絵は谷崎潤一郎の『春琴抄』に似たところもありました。
無頼を気取っているようなきっこちゃんですが、年相応に傷つきやすい一面もあり。助けてあげたり励ましてあげたいのだけど、基本的に何もできないヒゲとりぼん。同じ甲斐性なしとして気持ちがシンクロせずにはいられませんでした(笑)
主演の椎名琴音さんは、今泉監督も関わっていた異色の特撮ドラマ『エアーズロック』で注目を浴びた女優さん。その時のインタビューを読む限りではほんわかした感じの子でしたが、こちらではとがった一面も持つ女の子を上手に演じておられました。
猫目ファンのチェックポイントはマスコット・チムチム君とライバルのチェブラーシカとわかりにくい共演とか、ヒゲとりぼんが口ずさむあの歌など。


☆『くらげくん』
に関しては以前レビューを書いているので内容に関してはそちらをごらんください。
わたし『くらげくん』を観るのはPFF、下北上映会、トリウッドの特集上映(2回)、ムービーズ・ハイと今回で通算で6回目となるのですが、今回が一番よかったです。というのはEDで流れる『ミタイ』という曲をその場で作者である中田さんが演奏してくださったから。
この曲はとても好きだったのですが、こういう形で聴けるとは予想してなかったのでなんだかじぃ~んと来てしまいました。
中田さんはトークの時はとても恥ずかしそうにしているのに、ギターを手にすると小柄な体で朗々と歌っているのが印象的な方でした。また何かの機会にお歌を聴きに行きたいものです。

わたしもこれまで600~700本くらい映画を観ていますが、こういう形式での上映は味わったことがなく、とても面白い体験をさせていただきました。面白い体験といえば、わずか二三列の距離に出演していた役者さんがいたというのも初めてでした。わざわざ新幹線を使ってまで観にいった甲斐があったというものです。

Kmtn2猫目映画の今後の上映予定としては今月19日に「調布まちシネマの日」というイベントで『ヒゲとりぼん』が上映。さらに来月のショートショート・フィルムフェスティバルのアジア インターナショナル & ジャパン部門にて新作『我輩は木村の猫である』が上映されます。
中田真由美さんのHPはこちら。お二人とも今後ますますのご活躍を!


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May 10, 2013

残りものには福があるか ウィリアム・ユーバンク 『地球、最後の男』

8144naex56l__aa1500_シアターN亡きいま、B級映画ファンの期待を一身に背負っているのがヒューマントラストシネマ渋谷さん。そのヒュー渋さんが昨年から行っている企画に「未体験ゾーンの映画たち」という企画があります。DVDスルーが決まっているマイナー作品を、小画面だけではもったいないからということで期間限定でスクリーンにかけるという、遠方の者にはちょっと厳しい企画。昨年はなんとか『タッカーとデイル』だけ観ることができました。今年はちょっと行けないなーと思ったらなんと近場のジョイランド沼津さんで、選抜して開催してくれたので驚きでした。こんな地方でそんなマイナーな企画やって・・・ オレが行かなかったら誰も行かないんじゃないか!?
と、言いながら結局一本しか行けなくて申し訳ありませんでした・・・ 『地球、最後の男』ご紹介いたします。

宇宙飛行士のリー・ミラーは衛星軌道上のステーションでの任期をほとんど1人で務め上げ、地球に帰還する日を心待ちにしていた。だが突然地上との交信が途絶え、リーはわけもわからぬまま宇宙ステーションに取り残されてしまう。誰と会話することもない孤独な時間が、いつ果てるともなく続いていく。必死で正気を保とうとするリー。彼に救いの手が差し伸べられる日は来るのか。

自分ひとりだけ残されてしまった恐怖を描いた映画はこれまでも色々作られてます。キャストアウェイ、アイ・アム・レジェンド、月に囚われた男・・・ ことに今回の作品はポスターといい、タイトルといい『月に囚われた男』を思いださせます。しかし、しかしです。先にあげた作品群の主人公たちは誰とも接することのできない苦しみは味わってましたが、ある程度その辺をほっつきまわるくらいの自由はありました。ところが『地球、最後の男』の主人公は宇宙ステーションから出ることすらままならないため、監獄の中にいるのとほとんど変わりません。これはきついです。実際に体験しているわけではないけれど、観ている側もけっこうきついです。
そういったきつさを和らげるためか合間合間に意味不明のインタビュー映像が入ったりするのですが、これがわけわかんなくて平板でさらにフラストレーションをかきたてます(笑)

映像や音楽はなかなか目・耳に優しくいい感じだったのですが、それだけで監獄の辛さを乗り越えられるはずもなく。一言で表すなら「微妙」。まさにその一言につきます。いや、それだけではまだたりないな。あまりにも微妙すぎて微妙を超える微妙・・・ 超絶微妙とでも申しましょうか。人はいろいろなことに感動するものですが、微妙過ぎるということもそれなりに胸を打つんだな、と感じ入りました。

あとで調べたらこの作品、アメリカの人気バンド「エンジェルズ・アンド・エアウェーブズ」がプロデュースしてるそうで。全体的にPVっぽい雰囲気があるのはそのためか、と納得いたしました。というわけでPVっぽい映像が好きな人は気に入られるかもしれません。

250pxthe_earth_seen_from_apollo_17というわけで『地球、最後の男』、さすがにもう映画館ではどこでもやってないかな・・・ で、7月末ごろにDVDが出ます。これまで書いてきたようにお世辞にも人に薦められる作品ではありません。でもこのものすごい微妙感を、1人でも多くの人に味わって欲しい(笑)。観てください!

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May 07, 2013

死霊の舞台裏 ドリュー・ゴダード 『キャビン』

Cabin1昨年ノルウェーまだ~むさんのお誘いで参加できた「したまちコメディ映画祭」。わたしが観たのは『レミントンとオカマゾンビの呪い』という作品でしたが(笑)、映画秘宝のプッシュでとりわけ注目を集めていたのが『キャビン・イン・ザ・ウッズ』という作品でした。あらすじを聞くとコテコテのホラーっぽいのですが、どうしてこれがコメディ映画祭に・・・と不思議に思ったものでした。その作品が『キャビン』という邦題で静岡東部でも上映されたので、先日おっかなびっくり観てきました。ご紹介いたします。

奥手のガリ勉ちゃんダナ。体育会系のカート。「いいひと」という言葉がよく似合うホールデン。お色気ムンムンのジュールス。ラリリで変人のマーティ。仲良し大学生の五人組は、メンバーの親戚が持っているという山奥の別荘へ旅行に出かける。途中気味の悪いオヤジに遭遇したものの、すぐに忘れて大自然の中はしゃいだりいちゃついたりする一行。しかし何かに導かれるように山荘の地下室に下りていった時から、彼らの周囲で恐ろしい現象が起こり始める・・・

はい。ここまで非常に気を使って説明してみました。これだけだと実によくあるホラー映画の導入部であります。ただこの映画わたしが観てみようと思ったもうひとつの理由は「とにかく意表をつかれる」という評判を聞いたから。以下少しずつ内容に踏み込んでいきますので、先入観なしで観たいという方はこの辺で避難してください。

shock
shock
shock
shock
shock

そんな前知識で映画を観始めると、ファーストシーンからいきなり面食らいます。どこぞの研究所のようなところで「ゆうべ女房と・・・」みたいな会話を交わしている学者らしきおじいさん二人。ほんでこの施設には他にも研究者らしき人たちがわさわさいるんですが、彼らは先の若者たちを隠しカメラでずーーーっと観察してるんですね。一体彼らはなんでそんなことを? 映画でも作っているのか? ヴァーチャル実験でもやっているのか? しかもそんな実験が世界の各地で時を同じくして行われているようで・・・ 謎は深まるばかりでございます。

とりわけ印象に残ったのがこのじいさんたちのはしゃぎっぷりでございました。スクリーンの中で若者たちが生きるか死ぬかのピンチに面しているというのに、「やったー♪ いえーい♪」とそれこそファンがホラー映画を観ているかのようなリアクション。
人間ってそういう面がありますよね。遠くで悲劇が起きてるとそれなりにかわいそうに思うかもしれないけれど、自分と直接関係なければ野次馬根性で楽しんでさえいる。まあチキンとしては怖そうな場面になると、決まってのんきなおじいちゃんたちがアップになったりするので正直助かりました。
ただじいちゃんらが若者たちと全く無関係なのかといえばそんなことはなく。ヤング(死語)たちの予想外の行動が、いつしかゲーム感覚でいた観察者たちの安全を脅かし始めます。ひたすら観るだけの立場に慣れてしまうと、いつしか足元の危機すら実感できなくなってしまう・・・そんな教訓も得られそうです。

全体のからくりがわかってきてからもお話はさらに暴走を続けます。この辺はさすがに宣伝さんが「びっくりするから!」と見栄を切っただけのことはありました。えーっ こんなもんどうやって作ったんだろう・・・という疑問もわくのですが、これでもかという作り手のサービス精神には感服いたしました。
(こんな残酷なもの、楽しんじゃっていいのかなあ・・・ でもやっぱりホラー大好きなんだよね、オレ!) そんなスタッフの心の声が聞こえたような気がしましたw

Cavin2コテコテのホラーと見せかけて手の込んだパロディだった・・・という点では昨年の『タッカーとデイル』を思い出したりもしました。特に出だしなどは『キャビン』とまったく一緒なのであわせて観ると面白いと思います。
『キャビン』はこれからまだ幾つか地方都市を回っていくようです。変わった展開の映画が観たいという方に特におすすめ。ただパロディとはいってもそれなりに血もドバドバ出るんで、その辺は覚悟しといてください・・・


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May 01, 2013

失われた時を留めて 松江哲明 『フラッシュバック・メモリーズ 3D』

800pxaustraliandidgeridoos昨年の東京国際映画祭で注目を浴びた風変わりな音楽映画がありました。記憶障害をわずらってしまったアーティスト・GOMA氏の演奏を、なぜか3Dで演出したという。少し前にこちらの方でも上映されたので、変わったもの大好きなわたしは張り切って観てまいりました。『フラッシュバック・メモリーズ3D』、ご紹介します。

2009年、ディジュリドゥエ奏者として内外で高い評価を得ていたGOMA氏は、高速道路を走行中追突事故にあう。その事故により、彼はわずか前の記憶ですら思い出せない高次脳機能障害をわずらうこととなってしまった。言い知れようのない不安や苛立ちを抱えながらも、家族に支えられて、再び音楽活動を始めるGOMA氏。この作品ではそんなGOMA氏の半生を織り交ぜながら、渾身の演奏を映し出しています。

皆さんは「ディジュリドゥエ」って知ってますか? わたしはもちろん知りませんでした! オーストラリアに伝わる民族楽器で、やたら長いホルンのような尺八のような形状をしています(上の画像参照)。ものによっては渦巻状だったり箱状のものもあるようですが。
音色はこれまたリズミカルな尺八といった感じでしょうか。ちょっと聞いてみたいという方はこちらの本作品の予告編をご覧になってみてください。これがメインの演奏ですから、わたしたちが普段「ライブ」と聞いて思い浮かべるギターがあって歌詞があって・・・というものとはやや違う趣のものであります。目を閉じて一心不乱にそのディジュリドゥエを吹くGOMA氏の姿は、アーティストであると同時に修行者のようなイメージを見るものに与えます。

「ディジュリドゥエが楽器であることさえ忘れてしまった」にも関わらず、手に取ると自然にそれを奏で出すGOMA氏。映画などで記憶を失ったスパイがピンチに直面した時、「体が覚えていた」ということで目にも止まらぬアクションを繰り出すシーンがありますが、そういうことって実際にあるんだなあ・・・と感じ入りました。恐らくそれは事故前にGOMA氏が膨大な修練を積んでいたからこそ、だと思いますが。

そんなGOMA氏と仲間たちの背景を、スナップ写真やこれまでの演奏風景、果ては絵で描かれた青空や円を基調とした抽象画などが飾り立てています。映画の形態が3Dなため、奏者と背景には独特な距離感が生じておりました。
監督の松江哲明氏はこの映画を3Dで撮影した理由をこのように語っておられます。

「今を生きる彼をドキュメンタリーの手法で撮影することは必然だったが、彼が無くした過去も「現在」として同時に表現しなければいけない、と僕は考えた。そのためには3Dをパーソナルな表現として捉え、立体感や奥行きをレイヤーとして認識する必要があった。」

う、うむ。正直わたしにはむずかしい・・・ ただ3Dによって前と後ろで距離感が生じることにより、過去の自分の写真が自分だとは思えないようなGOMA氏の不安感や、現実がどこまで確かなものなのかわからない浮遊感のようなものが伝わってきた気がします。

ひとつ印象的だったのが事故の直前、お嬢ちゃんと一緒に車で行こうと思っていたのに、なぜかイヤな予感がして一人で行くことにしたという話。「不思議」というほかありません。こういうこともあるので「イヤな予感」というのもけっこう馬鹿にできないものだな・・・と思いました。

Scan3演奏とアーティストの半生を交互に語る、という形式には二年ほど前の『たまの映画』を思い出したりもしました。『フラッシュバック・メモリーズ』はこれからも大宮・札幌・横浜などで2D版も含めながら上映していくようです。くわしくは公式サイトをご覧ください。

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