地面の下にも三年 アニエスカ・ホランド 『ソハの地下水道』
ポランスキー、キェシロフスキー、スコリモフスキーと、小国ながらスキーのつく名監督を輩出してきたポーランド映画界。とはいうものの・・・わたしこれまで映画館で観たこと1回もありませんでした。さいわい先日よく観にいく劇場で、アニエスカ・ホランド監督(あ、スキーつかない)の手によるポーランド映画がかかってたので、チャンスとばかりに観て参りました。『ソハの地下水道』、ご紹介します。
第二次大戦時、ナチス支配下にあったポーランド。特定の居住区に閉じ込められていたユダヤ人たちは、いつ殺されてもおかしくない状況にあることを感じ取り、ひそかに地下水道へ通じるトンネルを掘る。
やがて居住区に銃を持ったナチス軍が押し寄せる。トンネルへと逃げたユダヤ人たちは、たまたま出くわした地下水道の職人ソハに金と引き換えに案内を頼むのだが・・・
ブームに左右されず、定期的に作られ続けるナチスもの映画。しかしどれだけ作られても「こんな切り口が」「こんな実話が」と思わされる傑作が後を絶ちません。決して観ていて気持ちのいいジャンルではありませんが、それほどにこの史実には幾ら語っても語りきれない奥深さがあるのでしょう。
この『ソハの地下水道』の特色は主に支援者の目線からお話が語られているところ。被害者であるユダヤ人の視点で語られる映画はよくありますが、こういう題材のものはちょっと珍しいのでは・・・ と思いましたが御大スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』がありました。 でもシンドラーがそれなりの財力があってナチス高官も一目置かざるを得ない人物なのに対し、ソハさんは吹けば飛ぶような低所得労働者です。こっそりユダヤ人たちを援助してるのがばれたら速攻で銃殺刑でしょう。ではなんでそこまでの危険を犯してユダヤ人を助けるのか? まあそれはぶっちゃけ金のためだったりします(最初は)。あと「たぶんバレないだろ♪」という楽天的な性分も関係しています。
相手が困っているのをいいことに大金をふっかけるソハさん。「なんて野郎だ」と初めのうちは思います。まあこの時代は欧米全体で「ユダヤ人はキリストを死に追いやった守銭奴ども」みたいなイメージがあったので、「多少食い物にしてもかまわんだろう」と思うのが当たり前だったのかもしれません。
ところが途中からソハさんはあまり儲けがないのがわかったにも関わらず、必死になってユダヤ人のために奔走します。それはたぶん初めこそ「無関係のむかつくやつら」だったユダヤ人が、接していくうちに「かわいそうな友人たち」へと変わっていったからでしょう。見ず知らずの赤の他人も、顔を合わせ、話していくうちにいつしか情がわくというもの・・・だと思います。でもやっぱり幾ら親しくなっても、普通は命の危険を犯してまで助けようとはしないものでしょうか。そういうところでその人間の本質みたいなものが見えてくるような気がします。
あともうひとつこの映画が印象的だったのは、ごく普通の町並みの、ごく普通の人たちが暮らす中で、当たり前のように人々が殺されていくところ。ナチスものの映画も色々ありますが、厳粛に受け止めなければいけない史実と思いつつも、あまりにも私たちの日常とかけ離れているがゆえにいまひとつ現実味が感じられないのも確か。でも『ソハの地下水道』はそういった市井の風景の中でお話が進んでいくので、とても身近に感じられる作品でした。もし自分の住んでいる町で一部の人たちが迫害を受け、殺されていったとしたら・・・ そんな風に考えると背中を薄ら寒いものが走ります。もちろん現代の日本で同じような惨事が起きることはまずないでしょうけど、虐殺事件が起きた国の人だって前日までそんな悲劇が起ころうとは予想だにしていなかったはず。そう思うと「絶対ないとは言い切れないよな・・・」という気がしてくるのでした。
迫害から逃れ極限状況の中、共同生活を続けるユダヤ人・・・という点ではダニエル・クレイグ主演の『ディファイアンス』も思い出しました。あちらが「寒い・ひもじい」のがよく伝わってくるのに対し、『ソハ~』は「暗い・臭い」感覚が強調されています。どっちがマシかといえば・・・ どっちもイヤですね。はい。
『ソハの地下水道』はさすがに概ね公開が終わってしまいました。というか数日後の19日にDVDが出ます。
実はわたしも水道屋さんの端くれなのですが、イラストのカリスマにはなれなくても、せめてソハさんくらいにはなりたいな、と思いました。
Comments
ソハさん☆
やはりアウシュビッツを実際に見た立場としては、この映画は是非とも見たかったのですが、結局見逃してしまいました・・・
そうなのね、もうDVDが出るのね・・・
ユダヤ人は昔からお金を蓄えている人たちなので、やはり最初は助けたら儲かりそうと思うでしょうね。
彼らは守銭奴のように思われがちだけど、実際にはつつましく規律を守って堅実に暮らしているからお金が溜まるのです。
ロンドンの家のオーナーと接してそれがよーく分かりましたよ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | April 16, 2013 12:27 AM
こんばんは〜、SGAさん
これ、なかなか良かったですよね。ちゃんと劇場で追いかけてるSGAやん、偉いなあ!
私もこれは重い作品ですけど、とてもタッチが丁寧で、説得力があるので、すごく気に入りました。
カリスマ配管工はやっぱりマリオですか…w目指せマリオ!
何気に最初の「マリオブラザーズ」がもう一度やりたいな。
あとマリオと言えば3も結構好きでしたね。
ニンテンドー64のは3Dで気持ち悪くなっちゃって、全然出来なかったなー。
Posted by: とらねこ | April 16, 2013 11:55 PM
>ノルウェーまだ~むさん
この映画は日比谷シャンテあたりがメインだったのかな。地元に流れてきてありがたかったです。
シェイクスピアの『ベニスの商人』でもユダヤ人って「性悪な金持ち」ってイメージですよね。性悪かどうかはどもかくロスチャイルド家もユダヤ系ですしね。あやかりたいものです
わたしも昔ユダヤ人というかイスラエル人の家庭教師に中学英語を教えてもらったことがありました。彼はあんまりお金と縁がなさそうでしたがその後元気でおられるのかな・・・ ちなみに英語の成績はあんまり伸びませんでした(^^;
Posted by: SGA屋伍一 | April 17, 2013 10:48 PM
>とらねこどん
こんばんばん。これは沼津で上映してたのでした。沼津って車で一時間以上かかるんでちょっとおっくうなんだけど、こういう流れ単館系映画がよくかかるので結局月一くらいで通ってたりして
うん。ことさら大げさな演出があるわけではないのだけど、しみじみとあったかさと力強さが伝わってくる作品でした。そして最後のナレーションにちょっとびっくり・・・
最初のマリオというのはブロックの下でカニやカメをひっくり返すだけのやつですか。あれもまあシンプルながら面白かったよね
わたしはやっぱり最初のスーパーマリオとゲームボーイ版に特に熱中したなあ。あとマリオが配管工じゃなくてドアをひたすら叩き壊す『レッキングクルー』も。最近のリアルなやつじゃなくてああいうのがやっぱり性に合うっす
Posted by: SGA屋伍一 | April 17, 2013 11:03 PM