痛快ビックリダディ ケン・スコット 『人生、ブラボー!』
ひところ「幸せ」とつく邦題の映画が多かったですが、最近「人生」とつく映画もまた多いですね。『人生はビギナーズ』『人生、ここにあり!』『人生の特等席』『人生、いろどり』『わたしの人生』『アルバート氏の人生』『よりよき人生』・・・
私が観てるのは『人生、ここにあり!』くらいなんですが、意外なことにこれらの「人生」映画、評判の高いものが多いんですよね。これからご紹介する『人生、ブラボー!』もその一本です。
1990年代カナダ。父の経営する肉屋に勤める自由人・・・というかダメ男のダヴィッドは、ある事情のために病院に約500回も精子を提供する。
時代は移って現代。借金取りに追われたりして相変わらずダメダメのダヴィッドの元に一人の弁護士が訪れる。かつてダヴィッドが提供した精子から生まれた142人の子供たちが、自分達の「父親」の素性を知りたがっているというのだ。正体は明かさないと断言したダヴィッドだったが、持ち前の好奇心からついつい自分の「子供たち」に他人を装って会いに行ってしまう。
最近「実話に基づいた」映画も多いので、「これももしや!」と一瞬思いましたが、普通にフィクションでありました。うん、そりゃそうだよね・・・
原題はダヴィッドが精子提供の際に書類に記した偽名「STARBUCK( スターバック)」。某大手カフェや『白鯨』『ギャラクティカ』などが思い浮かびますけど、これはカナダで超優良とされた種牛の名前なんだそうです。
もっとも牛さんと比べて人間の方の「スターバック」はかなりダメダメな部類の人間です。いい年こいて仕事はさぼるは、約束は守れないわ、やばい物件につっこんで借金を抱え込むわ・・・ そばにいたらかなり迷惑な人間であることには間違いないです。
ところがこの男、周りの人々からいっつも怒られてるのになぜか同じくらい愛されてもいるのです。それはたぶんだダヴィッドが限りなくいい加減な反面、心の温かい、人の不幸を見過ごせない人間であるからでしょう。そんな彼のキャラクターはなんだか『男はつらいよ』の「寅さん」と通ずるものがあります。
そんなダヴィッドの子供たち、当たり前といえば当たり前なんですが、実に個性豊かであります。父親に似て危なっかしいヤツもいれば、その道でトップスターになっている者もいる。夢をつかもうとがんばっている者もいますし、生まれ持った障害で喋ることすらままならない子もいます。ただ名前も明かさない父親を知りたいって子供たちですから、みんな根はいい子。「人生をくれて、こんなにたくさんの兄弟をくれて感謝している」なんて言うんだから泣かせます。そんな言葉に感動して、他人のフリを続けながらますます彼らのために張り切るダヴィッド(そしてますますそっちのけになっていく仕事)。それだったらいい加減正体を明かしてやればいいじゃん・・・と思うのですが、そうはできない事情もあり。この辺がこの映画の脚本の上手なところですね。
カナダ映画では少し前に『ぼくたちのムッシュ・ラザール』を観たくらいなのですが、アメリカよりも大仰でなく、フランスよりもあたたかい雰囲気が程よいな~と感じました。あとダヴィッドと彼の父親が世間体に囚われない「細けえことはいいんだよ」的な人柄なのは、彼らがロシア系だからかもしれません。男子たるものそうありたいものです。まあ仕事もそれなりに、いやキチンとしなければいけませんけど。
話が横道にそれますが、仕事ができる人というのは人柄的にはクールな場合が多いような気がします。一方人柄があったかい人というのはそんなに仕事をバリバリしない気が(あくまで全体的な傾向があるという程度の話です)。わたしはあらゆる面で能力の低い人間なので、せめて人柄くらいはあったかくありたいものです(だから仕事もちゃんとやれっつーの)。
『人生、ブラボー!』はメイン館のシネスイッチ銀座では今日までですが、これから東北・西日本を回っていくようです。笑いもあるべたつかない人情ものが好きな人におすすめ。すでにハリウッドリメイクの話もあるとか。
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