真夜中のマヤ キャスリン・ビグロー 『ゼロ・ダーク・サーティー』
いま世界で「最も男らしい女性監督」と噂され、82回アカデミー賞では『ハート・ロッカー』で監督賞・作品賞を受賞したキャスリン・ビグロー氏。その新作でこれまたアカデミー賞にノミネートされた『ゼロ・ダーク・サーティー』、先日観賞してきたの紹介いたします。ちなみにタイトルの意味は「深夜の0時30分」だそうです。
9.11以降、テロの首謀者であるウサーマ・ビン・ラディンを血眼で捜し続けてきたCIA。だが多くの関係者を捕らえ尋問を繰り返しても、その居場所はなかなかつかめない。そんななかパキスタン支局にやり手と評判の女性分析官マヤが派遣される。彼女はその熱心さで同僚達から敬意を得るが、それでもやはりあと一歩というところでビン・ラディンの影を捕らえられずにいた。そして次第に彼女の身の回りにもテロの危険が及ぶようになる。
前作『ハート・ロッカー』は政治問題を扱いつつも、スリル溢れるエンターテイメントとしても観られる作品でした。しかし今回はストーリー的に派手に盛り上げるような演出があるわけでもなく、事実のみを淡々と追っていくようなタッチ。なんせ映画で一番のキモとも言えるパートで、ヒロインがその場にいません(笑)。ところどころハラハラする場面もあるんですが、娯楽作品を観ている時の心地よい感覚ではなく、痛々しく気まずい気分でスクリーンを眺めておりました。それはやっぱり事実をなにがしか反映してるとはいえ『ハート・ロッカー』が一応フィクションだったのに対し、本作品はモロ実話だったからだと思います。もちろん実話ベースの映画でもワクワクドキドキ楽しめるものもあります。しかし実際のテロや拷問や死人が出た事件を真に迫った形で描くとなれば、普通はそんな無邪気な気持ちにはなれないでしょう。
大体この映画、冒頭から生ナマしい拷問場面から始まります。わたしこういうシーンだと決まっていたぶられる側に感情移入してしまうもので、たちまちゲンナリしてしまいました。そしてゲロッちゃったあとでテロリストと拷問係が交わす会話の、なんと気まずそうなこと(笑)
この場面ひとつとっても、アメリカ・・・CIAが正義の組織だとはとても思えず。幼い子供たちの目の前で容赦なく米軍が銃をぶっ放すシーンもあります。かといってもちろんタリバン側が一方的な被害者とも思えません。ただひたすらに「むなしいなあ」という思いがつのるばかりにございます。「じゃあお前はもっといい解決方法を知ってるのか?」と言われれば「知りません」というほかないのですけど。
そんな映画をなぜ観にいったかといえば、やはり骨太監督キャスリン・ビグローの手腕が観たかったということと、あれほどてこずっていたビン・ラディンの居場所をどのようにして突き止めたのか、興味があったからです。
そんなに興味を持って追っていたわけではありませんが、あのころ耳にするビン・ラディンの情報といえば「砂漠に隠れているらしい」とか「もう死んでいるかも?」とかあやふやなものばかりでした。そんでいい加減忘れかけたころに、突然「米軍が襲撃に成功した」というニュースを聞いて狐につままれたような気分になったのはわたしだけではないはず。
この作品を観るとCIAとマヤがどのようにしてビン・ラディンに一歩一歩近づいていったのかがわかるようになっております。
ただそれでもやっぱり疑問なのは、どうしてアメリカはビン・ラディンを拉致してアメリカに連れてくるのではなく、いきなり射殺してしまったのかということ。あとで処刑するにしても普通はまず生かして色々情報を引き出そうとするもんじゃないでしょうか。フセインの時だって無茶な形ではありましたが、一応取調べして裁判してそれなりの手順は踏んでたはず。それともすぐに殺してしまわないとそれこそ自爆する恐れがあったからか・・・
でもやっぱりこの強引な「処刑」に疑問を抱く人はたくさんいるようで、ネットで「ビン・ラディン偽者説・生存説」で検索すると色々出てきますね。
話を映画に戻して。ヒロイン・マヤを演じるのは新鋭ジェシカ・チャスティンさん。『ツリー・オブ・ライフ』のブラピ夫人役ではか弱くはかなげなイメージでしたが、こちらでは並み居る野郎どもを相手に一歩もひかず「F△ck!」を連発していました。「マヤ」さんだけに大した演技力だと感心しました。
そんなジェシカさんでとりわけ印象的だったのがラストシーン。ばらしちゃうので避難されてください。
ミッションが終わったあとでだだっぴろい飛行機に乗せられ、初めてハラハラと泣くマヤ。
自分が「殺した」ビン・ラディンの顔をまともに見たのがショックだった・・・とも考えられますが、どちらかといえばその直前のパイロットの「どこへ行きたい?」という言葉が関係しているような気がします。長年全力で打ち込んできた仕事をようやく終えたものの、充実感はなく、これから何も目指せばいいのかもわからない。涙の意味はそんなところかな・・・とわたしは受け止めました。
『ゼロ・ダーク・サーティー』は観るのも書くのもモタモタしているうちに大体公開終わってしまいました・・・ が、これからかかるところも幾つかあるようです。わたしの行動範囲の静岡県清水町もそのひとつ。アカデミー賞関連映画も残すところはあと『リンカーン』と『ハッシュパピー バスタブ島の少女』くらいですかね。これらも楽しみです。
Comments
伍一くん☆
私も同感です。
やはりむなしさが募りますね、この映画。
ただこの映画の凄い所は、そうしてアメリカをビン・ラディンを討ち取った英雄に描かなかったところなのでしょうね。
生きて捕らえると、奪還するためのテロなどの可能性もあるし、やっぱり見せしめ的なものもあったのかな。
いずれにしても、マヤの涙と同じくらい虚しい気持ちになる・・・・・・けどやっぱり「男らしい」映画でした。
Posted by: ノルウェーまだ~む | April 03, 2013 11:48 AM
>ノルウェーまだ~むさん
こんばんばん
いやー、力作だし見ごたえもあるんだけど、やっぱし「ふううう」とため息ついちゃいますよね
普通の人はそう感じると思うんだけど、なんか日本でもアメリカでも「また政府のプロパガンダかよ!」と思う人も多いみたいで。石頭だなあ
映画もマヤさんも半端な男が逃げだしそうなくらい男らしかったです。きっとビグロー監督も劇中のマヤさんみたいな人なんだろうなー
Posted by: SGA屋伍一 | April 04, 2013 10:28 PM
こんばんは!(*^^*)
私も何故、いきなり殺害なのかと思いましたが、
やはり、その後の事があるからでしょうね〜。
生きていれば、著名人とか有名人とかを拉致して
人質交換とか言い出しかねないですからねーーー。
ただ、やはり見ていてとても疲れたし、
虚しさは感じてしまいますよね〜。
Posted by: ルナ | April 09, 2013 12:27 AM
>ルナさん
まあアメリカさんが強引なのは今に始まったことじゃないんですけど、映画を観ていて「そんなことしちゃっていいのか?」と思わずにはいられませんでした。パキスタンもさぞかし文句言いたかったでしょうが果たしてどの程度抗議したのやら・・・
わたしが見た時はもうレイトショーくらいでしか時間がなくて観終わったら11時すぎ。内容が内容だけに疲れも倍加しました・・・
Posted by: SGA屋伍一 | April 09, 2013 11:07 PM